AVメーカーなどからの開示請求についてのQ&A

このコラムでは、アダルトビデオ(AV)など他人の著作物を、ビットトレント(BitTorrent)を通じてアップロードしてしまったことにまつわる諸々の疑問にまとめて整理をし、回答しています。最近増えている著作権侵害についての対応でお悩みの方は一読下さい。

Q1 そもそもビットトレント(BitTorrent)とは何か?

ビットトレント(BitTorrent)とは、P2P通信方式によるファイル共有システムのひとつです。P2Pというのは、特定のサーバーを介することなくデータを端末ごとでやりとりするシステムのことです。

このビットトレントシステムの詳しい概要については、別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

Q2 ビットトレント(BitTorrent)は違法なのか?

ビットトレント(BitTorrent)自体は違法ではありません。ビットトレント(BitTorrent)を通じて著作権侵害行為が行われていることが問題です。

なので、ビットトレント(BitTorrent)の使い方に注意さえすれば何ら問題はありません。

Q3 ビットトレントを利用したことに伴い、プロバイダーから発信者情報開示請求に関する意見照会書が届いたが、どうしてか?

ご自身もしくはご家族、場合によっては会社で契約をしているプロバイダーから発信者情報開示請求に関する意見照会書が届くケースが増えています。

それは、ビットトレント(BitTorrent)を利用して映画、漫画、音楽、アダルトビデオ(AV)などのデータファイルをダウンロードしたり、アップロードしたりする行為が蔓延しているところ、これら問題に対処するため著作権者である製作会社などが次々と発信者情報開示請求の手続をとっているためです。

Q4 どうして自分のアップロードが発覚するのか?

著作権を有する製作会社などは、P2Pファインダーなどの著作権侵害検出システムを用いて日々、ビットトレント(BitTorrent)を通じた著作権侵害行為の有無をリサーチしています。

そして、これらシステムを用いると、当該著作物であるファイル(ハッシュ値により特定)について、どのIPアドレス、どのポート番号、どのタイムスタンプにてアップロード行為がなされているかをリサーチができるとのことです。

製作会社などはシステムを通じて知り得たこれら情報から、当該IPアドレスを割り当てられているプロバイダーを特定し、そのプロバイダーに対して発信者情報開示請求を行うのです。これを受けたプロバイダーは、プロバイダー責任制限法4条2項に基づき、意見照会を行うのです。

Q5 届いた意見照会に対して同意で回答をしたらどうなるのか?

意見照会に同意にて回答をすれば基本的にはプロバイダーから開示請求者に対して契約者情報等が伝えられることとなります。

Q6 届いた意見照会に対して不同意で回答をしたらどうなるのか?

不同意で回答をすれば、プロバイダーは、開示をするか否かの法的要件である権利侵害の明白性の有無を判断することとなります。

そして、これが認められるとプロバイダーにて判断すれば、契約者情報等を開示することとなり、他方でこれがないと判断すれば開示をしないこととなります。

Q7 意見照会に対して何も回答をしなければどうなるか?

プロバイダーからの意見照会の回答期限である2週間以内に何も回答をしない場合には、開示請求に対して発信者からは特段の主張は行わないものとして扱われます。

したがって、何らかの主張がある場合には2週間以内に回答をしておくべきといえます。

なお、届いた意見照会書には、回答期限が2週間と指定されていることから、この期限を厳守しないとならないのではないかと強く不安を覚える方が相当多数いらっしゃいます。

この点、回答期限は確かに2週間と指定されていますが、これを過ぎた場合には一切、回答を受け付けないということは実際上にはほぼありません。プロバイダーとしても回答期限を過ぎた後でも届いた回答を踏まえて開示をするかどうかの判断材料にしているといえます。

さらには、回答期限までに仮に回答が間に合いそうにない場合には、プロバイダー宛てにその旨を伝えることで期限を伸長してもらえることが通常です。

弁護士への相談の際にも、回答期限を踏まえた相談スケジュールを調整しているのでその点も心配する必要はありません。

Q8 意見照会に不同意で回答をした場合に、開示になる確率はどうか?

ビットトレント(BitTorrent)の利用により他人の著作物であるファイルをアップロードしていたということであれば、著作権侵害は否定しきれない場合がほとんどであり、そうすると権利侵害の明白性が肯定されて開示になることが通常だと思います。

とはいえ、本当にビットトレント(BitTorrent)を利用していなかったとか、当該ファイルをそもそもダウンロードしていなかったとかという事実の立証が可能であれば開示にならずに済むこともあると言えます。

Q9 著作権侵害が認定された場合の責任はどうなるか?

当該動画などをアップロードしたことについて、故意が認められれば刑事責任を負うことがあります。具体的には10年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することがあり得ます(著作権法119条1項)。

ただし、著作権侵害による刑事責任は、故意責任であり、過失による著作権侵害に対する処罰はありません。

他方で、民事上は過失によっても不法行為責任が認められることから(民法709条)、故意がなかったとの理由で責任を逃れることはできません。

Q10 民事上の責任について、具体的にどのように損害賠償額が算定されるか?

ファイルの違法なアップロード行為に対しては、当該ファイルが他者に何回ダウンロードされたか、そして当該ファイルにより著作権者が得られたはずの利益額はいくらかによって損害額算定がなされます。

具体的には……

(1)ビットトレント(BitTorrent)の使用開示時期

(2)ビットトレント(BitTorrent)の使用終了時期

(3)当該ファイルの利益額を踏まえ、(2)の時点のダウンロード回数から(1)の時点のダウンロード回数を引き、その回数に(3)の金額を掛け算して算出されます。

結果、1,000回のダウンロードであり、利益額が350円であれば350,000円となります。

なお、実際に当該ファイルが何回くらいダウンロードされたかは、当該ファイルの人気具合やパソコンにビットトレントシステムを入れていた期間によって変わります。

Q11 無料でダウンロードできるからダウンロード回数が多いだけではないかとの言い分は通るのか?

ビットトレント(BitTorrent)のユーザーは、無料でダウンロードできるから多数のユーザーによりダウンロードがなされ、結果、多数回のダウンロードに繋がっているだけではないか、言い換えると有料だったらここまでダウンロード回数が増えないのではないかとの言い分があり得ます。

感覚的にはもっともな言い分ではありますが、残念ながら裁判でかかる主張が認められてはいません。不法行為に基づく損害賠償額の算定に際しては、「損害の公平な分担」という観点に照らし、判断がされるところ、上記のような主張を認めることはかかる観点に反するからです。

Q12 自分がアップロードしたのは当該ファイルのひとつのピースに過ぎないのにファイル全部の損害を負担するのか?

ビットトレント(BitTorrent)の仕組みに照らすと、特定のファイルを特定の一人のユーザーがアップロードする訳ではなく、多数のユーザーが多数のピースをアップロードすることで他のユーザーが完全なファイルをダウンロードすることになりますが、一部実行全部責任の観点からすると、当該一部の行為に関与した以上は全部の責任を負うこととなります。

Q13 著作権会社の弁護士から通知が届いたが、すぐに示談にした方が良いのか?

いいえ、慌てて示談をすることはお勧めしません。

なぜなら、ビットトレント(BitTorrent)を利用している間には、多数のファイルをアップロードしていることが通常であるところ、特定のファイルについてだけ示談をしてしまうと、示談後に別のファイルについての開示請求が追加で届くことがあります。そうすると、再度示談をしないとならず、その場合には当然、追加で費用がかかります。

また、当該ファイルの製作会社との包括示談をした場合であっても、当該示談の後に他の製作会社からの開示請求が届くこともあります。

そのため、意見照会が届いた後、きちんとその後にビットトレント(BitTorrent)をアンインストールし、さらにプロバイダーに残されているログが完全に削除されてから、もう追加で開示請求があり得ないという段階になって初めてその間に届いた開示請求分の示談をどうするかを決めることをお勧めしています。

なお、中には、すぐに示談をしないと大変なことになるかのように謡っている弁護士事務所のwebサイトがありますが、そのようなことはないので慌てず対処をすることをお勧めします。とりわけ急いで示談をするとQ15のような問題も生じかねないので注意が必要です。

Q14 複数の製作会社から開示請求が届いたので示談金額が高額になりかねないがどうしたらよいか?

非常に悩ましい問題です。たとえばアダルトビデオ(AV)の関係で示談交渉を持ち掛けられるケースであれば、ひとつの製作会社の作品についての包括的示談は77万円で提示されますが、複数の製作会社となると数百万円に及びます。

そうすると、支払いの能力の問題も生じ、反面、民事訴訟を起こされると包括示談ではなく、実際のダウンロード回数に基づく損害額(Q10参照)が算定されかねません。

したがって、このような場合には非常にリスキーですが、示談を拒否して訴訟になるかどうかを見極めて対処を決めることをお勧めします。

Q15 アダルトビデオ(AV)の製作会社側弁護士との示談交渉をしたいが自分でも可能か?

可能です。プロバイダーからの意見照会の後、製作会社側弁護士から通知書(内容証明郵便)が届くのでその内容を踏まえて

(1)自分がアップロードした動画ファイルの内容や数

(2)自分がアップロードした動画の製作会社の数

(3)ビットトレントシステムの利用の期間

(4)プロバイダーのログ保存期間

(5)ビットトレントシステムのアンインストール状況

(6)自分の支払い可能な金額

などを踏まえ、相手方弁護士の提示内容に応諾できるかどうかを見極めてください。当然のことですが、開示請求は一件で終わると限らないので、その後にも開示請求があり得る前提での示談をご検討ください。を踏まえ、相手方弁護士の提示内容に応諾できるかどうかを見極めてください。

当然のことですが、開示請求は一件で終わると限らないので、その後にも開示請求があり得る前提での示談をご検討ください。

これらをご自身で冷静に検討し、分析し、対処できるのであればご自身での示談もまったく問題はありません。

とはいえ、実際には、開示請求を踏まえた現状の把握や示談の見通し、減額交渉の可否、いつまでに追加で開示請求があるのか、相手方による訴訟提起の有無があり得るのかどうかなどを判断する必要があるため、専門的な知識や経験がある方が望ましいことも事実です。

Q16 ビットトレントシステムを利用してダウンロードした動画は、自分で一回閲覧したらすぐに削除していたが、ビットトレントシステムをアンインストールするまでの間の責任を負うしかないのか?

ファイルをダウンロードした後、今度は自分が当該ファイルをアップロードする側に立つことがありますが、その間のアップロード回数に応じた損害賠償を求められます。

この点、自分がすぐにファイルを削除していたとの弁解があり得ますが、確かに自分がファイルをアンインストールしていればそれ以上、アップロード行為に関与することはあり得ません。

しかし、その立証ができるかどうかが問題であり、実際にファイルを削除したことの証明が可能であればアップロード行為に対する責任はその時点までに限られるものの、立証が難しいようだとビットトレントシステムをアンインストールするまでの間の責任となり得るものと考えます。

【2024.3.15追記】

上記打消し線にある考え方について以下のとおり訂正します。

まず、裁判例では、トレントを利用したユーザーがどの期間について責任を負うかに関し、以下のように判断しています。

そして、以下の東京地裁判決では、「端末の記録媒体から本件各ファイルを削除するなどして,BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信ができなくなった場合には,原告X1らがそれ以降に行われた本件各ファイルのダウンロード行為について責任を負うことはない」とし、知財高裁判決では「一審原告X1らが対象ファイルをダウンロードした日からBitTorrentの利用を停止した日までの間」における損害との相当因果関係を認め、大阪地裁判決では「原告と他の氏名不詳者との間で共同不法行為が成立するのは、原告がビットトレントを通じて本件ファイルのデータを他のユーザーに送信可能な状態にある場合に限られる」とそれぞれ判示しています。

これら3つの裁判例に共通する考え方は、

自分が当該ファイルをダウンロードする前に、他者によりダウンロードされた行為については責任を負わない

自分が当該ファイルを削除したり、トレントクライアントソフトの利用を停止した後に、他者によりダウンロードされた行為については責任を負わない

自分が当該ファイルをダウンロードした後、当該ファイルを削除したり、トレントクライアントソフトの利用を停止するまでの他者によるダウンロードについて責任を負う

とまとめることができます。

その考え方を踏まえて、ビットトレントシステムの利用の終期の立証についてないし、自分が当該ファイルを削除したことの立証についてはどうなるかに関してですが、東京地裁判決では、弁護士への相談をした時期をもって終期と認定しています。

次に、知財高裁判決では、東京地裁判決とは異なり、意見照会書が届いてからクライアントソフトを削除したこと、起動していないことなどという原告らの陳述書を根拠に、それらの時期をもって終期としています。

さらに、大阪地裁判決では、原告が、本件ファイルをダウンロードした後、翌日に視聴してすぐに削除したとの陳述書の内容を踏まえ、本件ファイルをダウンロードするのに要した3時間後を終期と認定しています。この大阪地裁判決では、当該ファイルをダウンロードした後に、原告のパソコンがインターネットに接続されていたかの状況やビットトレントのクライアントソフトの起動状況は不明であるとして、ダウンロードするのに要した3時間に限り、他者によるダウンロードが可能だったと極めて限定をした認定をしています。

これらの裁判例の考え方を踏まえて改めて整理をすると、終期の認定に関しては、そもそも被告において立証すべき損害の発生とその因果関係の問題であるところ、被告において具体的にいつまで当該ファイルが当該原告によって他者によるダウンロード可能な状態においていたと言えるかを立証するべき必要があることが改めて明確にされたように思います。

ところが、被告においては、当該原告のPCを通じて、具体的にいつまで当該ファイルが他者によりダウンロード可能かの立証を十分にしてきておらず、その結果、知財高裁と大阪地裁は、原告がトレントの利用を自認ないし当該ファイルを保有していたことを自認する限りで当該ファイルが他者によるダウンロード可能な状態にあったと認定をしているのと評価できます。

他方で東京地裁の判決では、原告らがトレントの利用を止めたなどとしている点を終期とせず、弁護士に相談をした時期をもって終期としていますが、これは、弁護士にトレント利用の危険性を助言されれば通常はその時には利用を止めるだろうとの経験則に基づく推認となっています。

いずれにしても、以上の分析を踏まえると、トレントファイルを削除したことや、利用を停止したことの主張については、これが事実であるならばきちんとその旨を陳述書などで主張することにより、当該時期をもって終期と認定される可能性が相当高いと言えます。なので、製作会社から、かなり長期間での利用を前提とした損害計算が示されても、「自分はいついつに当該ファイルを削除した」とか「いついつにトレントの利用は止めた」などという反証が用意になったと言えます。

したがって今後は、トレントの利用終期がきちんと主張できるケースではそのような対応をとることが重要になると言えます。

【東京地方裁判所令和3年8月27日判決】

「BitTorrentは,ソフトウェアを起動していなければアップロードは行われないほか,BitTorrent上や端末の記録媒体からファイルを削除すれば,以後,当該ファイルがアップロードされることはないものと認められる。」

「そうすると,原告X1らがBitTorrentを通じて自ら本件各ファイルを他のユーザーに送信することができる間に限り,不法行為が継続していると解すべきであり,その間に行われた本件各ファイルのダウンロードにより生じた損害については,原告X1らの送信可能化権侵害と相当因果関係のある損害に当たるというべきである。」

「他方,端末の記録媒体から本件各ファイルを削除するなどして,BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信ができなくなった場合には,原告X1らがそれ以降に行われた本件各ファイルのダウンロード行為について責任を負うことはないというべきである。」

【知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決】

「BitTorrentを利用した本件各ファイルのダウンロードによる一審被告の損害の発生は、あるBitTorrentのユーザーが、本件ファイル1~3の一つ(以下「対象ファイル」という。)をダウンロードしている期間に、BitTorrentのクライアントソフトを起動させて対象ファイルを送信可能化していた相当程度の数のピアが存在することにより達成されているというべきであり、一審原告X1らが、上記ダウンロードの期間において、対象ファイルを有する端末を用いてBitTorrentのクライアントソフトを起動した蓋然性が相当程度あることを踏まえると一審原告X1らが対象ファイルを送信可能化していた行為と、一審原告X1らが対象ファイルをダウンロードした日からBitTorrentの利用を停止した日までの間における対象ファイルのダウンロードとの間に相当因果関係があると認めるのも不合理とはいえない。」

「そうすると、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルをアップロードした他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと、本件ファイル1~3のファイルごとに共同して、BitTorrentのユーザーに本件ファイル1~3のいずれかをダウンロードさせることで一審被告に損害を生じさせたということができるから、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化したことについて、同時期に同一の本件各ファイルを送信可能化していた他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと連帯して、一審被告の損害を賠償する責任を負う。」

【大阪地裁令和5年8月31日判決】

「共同不法行為(民法719条1項前段)が成立するためには、少なくとも行為者各自の行為が客観的に関連して共同していることを要する(最三小判昭和43年4月23日民集22巻4号964頁参照)から、原告が自らビットトレントを通じて本件ファイルのデータのダウンロードを開始する前や、ダウンロードした本件ファイルを削除したりビットトレントのクライアントソフトを削除するなどしてビットトレントを通じた本件ファイルのデータの送信ができなくなった後に発生した本件著作権の侵害については、他の行為者の行為との客観的な関連共同性のある行為が存在せず、共同不法行為責任を負うと解すべき理由がない。」

「すなわち、本件において、原告と他の氏名不詳者との間で共同不法行為が成立するのは、原告がビットトレントを通じて本件ファイルのデータを他のユーザーに送信可能な状態にある場合に限られるというべきである。」

Q17 複数の製作会社から開示請求が届いた場合には弁護士費用は倍になるのか?

当事務所では、製作会社ごとに着手金、報酬を頂くこととなっております。その金額ですが、着手金は165,000円(税込)、報酬は示談で解決したら110,000円(税込)です。

そして、最初の製作会社の案件処理の継続中に他の製作会社からの開示請求が届いた際には、追加着手金は55,000円を頂戴しております(ただし、報酬は別途)。そのため、製作会社の数だけ着手金の額が掛け算になることはございませんのでご安心ください。

Q18 ビットトレントシステム利用の開示請求や損害賠償の問題に関し、弁護士に依頼することのメリットは何か?

ビットトレントシステム利用に伴う開示請求、意見照会、示談交渉に関し、弁護士に依頼をすることのメリットは、ビットトレントシステム利用に伴う損害賠償請求問題全般について、単なる法律の知識に留まらず、製作会社側のスタンスや実情、裁判例の動向などを踏まえた確実かつ安心の対応が可能という点にあります。

Q16でも記載したとおり、この問題は、弁護士を介入せずとも示談解決自体は可能です。

しかし、多数回に渡り開示請求がなされる可能性があること、示談後にもそのような状況が続く余地があること、そうすると示談金額が雪だるま式に膨れ上がってしまうこと、結果、当所の示談が無意味になることという問題があります。

かつ、製作会社側のスタンスも日に日に変化しており、そのような変化にきちんと対応するためには日ごろからこの分野についての経験や知識のある弁護士へ依頼をすることが確実なのは間違いありません。

したがって、このような観点から弁護士依頼のメリットをご理解いただけますと幸いです。

Q19 ビットトレントの問題を解決するために、弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所では何をしてくれるのか?

ビットトレント利用による著作権侵害について、弁護士への相談や依頼をご検討の際には、この間、当事務所にて培ってきた多数の案件処理状況を前提に、最新の情報に基づき、相談者の方の個別事情に照らした助言が可能です。

ご依頼を頂いた場合には、受任からプロバイダーに対する回答、相手方弁護士への受任通知の発送と以後の交渉のやりとり、相手方弁護士からの主張内容(具体的な損害額計算に基づく損害賠償請求)の当否の検討やご説明を前提に、プロバイダーに残されたログ保存期間を経過するまでの示談猶予の申し入れ、当該期間を経過した後の具体的な示談の当否の検討や提案をいたします。

また、追加での開示請求及び意見照会書の送付がプロバイダーからあり得ることから、プロバイダーに対しては、当事務所受任後の意見照会書の発送先を当事務所にするように求めることもしています(実際に意見照会書の送付先を当事務所とすることの当否は最終的にはプロバイダーの判断にはなりますが、代理人弁護士として窓口にしてもらうようにお願いをしています)。

したがって、当事務所では受任後すぐに示談をするべきとの提案はしていませんし、むしろ示談に至るまで諸々の状況を慎重かつ丁寧に検討した上で最終的な示談の当否を決めています。

とにかく、この問題については、置かれた状況に照らし、本当に妥当な解決を慎重に見極めることが大切です。慌てて示談をして得をすることはありません。追加の開示請求があり得ること、そうなると損害賠償額が高額になり得ることなどを踏まえ、常に最新の情報に基づく対応が重要です。

一部の法律事務所では、受任後すぐに示談を勧め、これに応じて示談をしたところ、追加で開示請求が届いて再度慌てるという問題が生じているように聞いています。このような対応には問題があると考えています。

Q20 トレント問題解決のために、どのような弁護士に依頼をすべきか?

ご自身が抱えている悩み(民事上、どのような損害賠償責任になるのか、損害額としていくら負担することになるのか、支払えなかったらどうなるのか、減額は可能か、分割は可能か、追加で開示請求が届いたらどうしたらよいのか、弁護士費用はどのくらいかかるのか、刑事責任を負うことはあるのか、自宅に警察が来ることはあるのか、逮捕になるのか、会社に知られることはあるのかなど)について、ご自身が納得できる説明やアドバイスをしてくれる弁護士を選ぶのが得策です。

その際、遠方であっても電話だけ、メールだけでのご相談・ご依頼でもご自身として十分に納得できるか、理解できるかをよく考えてください。遠方の場合にはせめてオンラインでの面談が望ましいです。

そうした条件をクリアできる弁護士をしっかりと見つけ、ご依頼をなさってください。

【2023.7.7追記】

当事務所では、現在、岡山県内、香川県内に限らず、近隣他県や遠方他県からも相当多数のご相談、ご依頼を頂いている状況です。

ご相談やご依頼の際の面談にはオンライン(ZOOM利用)で実施し、個別のご連絡はLINEやメール、電話を中心にやりとりをさせて頂いております(費用はペイペイかお振込み)。

さらに、案件のご依頼を頂いた場合には、当事務所ではオンラインにて案件の進捗確認ができるシステム(「確認丸」)により、遠方であってもリアルタイムで状況の把握や確認が可能です。

そうした環境整備の結果、遠方の方からも安心してご相談、ご依頼ができたとのお声を多数頂戴しております。

トレントの問題で弁護士に相談したいが、不安な気持ちが伝わるか、汲んでくれるかご心配な方もこれらによる万全のフォロー体制を整えておりますのでご安心いただけます。トレントによる意見照会が届いて強い不安をお抱えの方は、ぜひ専門の詳しい弁護士にご相談ください。お問い合わせフォームにてご確認いただけます。

Q21 トレントを扱う弁護士費用の相場を教えてください。

当事務所を含めて、現在、トレント利用に伴う示談交渉等の対応をする法律事務所が複数見受けられます。

届いた意見照会を見て慌てて弁護士への相談や依頼を検討するケースがとても多いところ、実際に依頼をするとなった際には必要になる弁護士費用をしっかりとご確認頂くことも大切です。

弁護士費用については着手金(受任時の費用)、実費(郵送代など)、報酬(解決した際の費用)がありますが、トレントの関係では以下のような費用設定にしている事務所があるようです。すべての事務所の費用基準を確認した訳ではありませんが、概ね以下のような費用設定のようです。

 ・A事務所 : 着手金11万円・報酬11万円:計22万円

 ・B事務所 : 着手金16.5万円、報酬22万円:計38.5万円

 ・C事務所 : 着手金22万円、報酬22万円:計44万円

 ・当事務所 : 着手金16.5万円、着手金22万円、報酬11万円:計27.5万円 計33万円

         (他社からの追加の開示請求の際には追加着手金5.5万円、報酬11万円)

 ・当事務所(おまとめプラン):着手金30.8万円、報酬30.8万円 計61.6万円

*当事務所のおまとめプランは、「追加の開示請求がたくさんくるかもしれないのでその都度、弁護士費用を負担することになると際限なくなるのでその不安もある。ただ、自分で対応するのは不安なので弁護士への依頼は続けたい。弁護士の費用の総額が予め確定していると安心できる」という方に向けた特別プランです。特徴としては、開示請求が届いた案件数、会社数を問わず、追加費用はないまま、上記金額にてすべての案件について弁護士対応が可能という点にあります。ビットトレントシステムの利用の頻度が多かった方、多数の製作会社の利用があった方、すでに多数の意見照会が届いている方はこのプランをお勧めします。解決まで安心して弁護士依頼が可能です。

*おまとめプランは、2024.3.23より利用可能です。

 

これら費用を踏まえて、依頼する先を検討することが大切です。その際に特に注意して欲しいことは以下の点です。

受任の範囲としてどこまでを対応してくれるのか(プロバイダーへの回答書の送付はしてくれるのか、追加の開示請求は最初の料金に含まれるのか、他社からの開示請求が届いた際の追加料金はどうなるのか)。

受任後には方針決定やプロバイダー、相手方弁護士との交渉状況をどの程度、どのようにして報告、説明してくれるのか。

そもそも当初の相談、受任の際にこの度の意見照会や開示請求についての見通しなどをどのような方法で(電話、メール、オンライン、面談)でどの程度説明してくれるのか。

以上を踏まえ、当事務所では、着手金165,000円着手金220,000円、報酬110,000円にてトレントの対応をしております。

追加費用は、他社からの開示請求に関して1社あたり着手金55,000円報酬110,000円です。

受任に際しては、必ずオンラインもしくは面談でのご相談を実施しており、依頼後の進捗管理はLINE・電話・オンラインでの連絡手段と、WEB上での進捗確認システム(確認まる)の併用により、送った文書、届いた文書を網羅的に閲覧できるようにしています。

【2024.3.23上記変更点についての補足説明】

上記の当事務所の費用に関し、以前は着手金165,000円としておりましたが、この度、価格改定により着手金220,000円と変更させていただいております。その理由は以下のとおりです。この度の価格改定にご理解頂きますようお願い申し上げます。

(価格改定の理由について)

当事務所では、ここ数年来、ビットトレントシステムの利用に伴う開示請求、意見照会、その後の示談交渉の事案について相当多数のご相談、ご依頼を頂戴して参りました。

ビットトレントシステムの開示請求についての当事務所の弁護方針としては、主にトレントの利用の有無の確認、当該ファイルの利用の有無の確認、開示請求者側からの開示の根拠となる理由の確認、それらを踏まえてのプロバイダーへの回答方針の検討と回答及び相手方弁護士への受任通知の送付と交渉、プロバイダーにおけるログ保存期間の確認、これを踏まえたログ保存期間経過までの示談猶予の申し入れ、ログ保存期間経過を踏まえたさらなる開示の有無についてのプロバイダーや開示請求者代理人への確認、この確認を踏まえての示談の当否の検討と示談交渉という流れを辿ります。

これらの作業はひとつひとつ、欠けることなく進めることが大切ですが、ビットトレントシステムの利用に伴う開示請求が相当多数に及んでいる現在、以前にも増して多くのプロバイダーとのやりとりが生じています。そして、上記の各点におけるプロバイダーの対応はプロバイダーごとに多様であることから、当事務所としても多様なプロバイダーに即した対応が求められるようになっています。なお、当事務所では、現在、全国各地からご相談、ご依頼を頂いており、各地に所在するプロバイダーから全国規模のプロバイダーまで無数のプロバイダーとの対応経験があります。

また、ビットトレントシステムの利用に伴う開示請求が非常に増加していることから、プロバイダーから届く意見照会も以前よりも届くまでに長期間を要するようになっています。そのため、以前よりも当事務所にてログ保存経過を待つまでの期間が長期化しており、その間、案件対応のための対応時間や期間が長期化する傾向にあります。すなわち、開示請求者からの開示請求がプロバイダーに届いてから、これをプロバイダーが確認し、契約者であるビットトレントシステムの利用者への送付までに相当時間がかかるのです。

さらに、ここ最近では、開示請求者である製作会社に関しても、以前には見受けられなかった製作会社が非常に増えてきており、当事務所としても以前にはなかった会社に関するリサーチや対応が求められるようになってきています。

他にも、開示請求の根拠としては著作権(公衆送信権)によるのが典型ですが、その他にも肖像権侵害、パブリシティ権侵害、AV新法に基づく開示請求なども増えており、それぞれの根拠ごとに異なる対応が求められるなど対応が複雑化しています。

加えて、Q27にて解説をしている昨今の裁判例の判断手法を踏まえて、トレントユーザーの本来負担すべき賠償額の計算手法に基づいての示談の当否の検討や判断、相談者や依頼者の方へのご説明と方針検討のための時間を割くようになっています。

以上のような現在のビットトレントシステムの利用に伴う開示請求の状況と、これを受けての当事務所として提供しているリーガルサービスの質の維持ないし向上のため、従前からの着手金165,000円を値上げの上、220,000円とさせていただきました。

なお、報酬額と追加の際の費用に変動はございません。

以上、ご理解頂きますようお願い申し上げます。

Q22 実際に何社くらいから開示請求が来ることが多いのか?

とても多い質問です。この点、当事務所では、ほとんどの方は1社からの開示請求に留まることが大半です。時折、2社目からの開示請求になる方もいらっしゃいますが、半数以下です。さらに、3社目となるケースは(今のところ)ほぼありません。多くはありませんが、まったくない状況ではありません。特に、ここ最近では開示請求を求める製作会社が増えてきている傾向にあることから、3社以上になるケースも徐々に増加しつつあります。

この間、相当多数のご相談、ご依頼を頂いている中での上記傾向です。示談の際の参考にしてもらったらと思いますが、あくまで当事務所のこれまでの傾向であること、今後も同様という確約までできるものでないことはご理解ください。

【2024.3.23補足説明】

上記打消し線以下の一文について修正しました。

Q23 制作会社からの通知書が届いた後、示談までの期間はどの程度猶予してもらえるのか?

当事務所では、制作会社からの通知書、示談の申し入れがなされた後、すぐに示談をするのではなく、追加の開示請求の有無をしっかりと確認し、開示の対象となる内容をすべて把握してから示談の当否や内容を決めるようにお勧めしています。

それは、開示請求がなされてすぐに示談をしてしまうと、その後、引き続き開示請求が届いた際に追加で支払う示談金に苦労したり、そもそも当初の示談自体が妥当だったのかと後悔することになるためです。

たとえば、1社との示談をした直後に2社目の開示請求が届くことも少なくないのです。

当然、2社目の示談金もすぐに払えるようでしたら構いませんが、だとしても3社目の開示請求が来ることも加味して考えると、やはりたちまちの示談にメリットはあまりありません。

むしろ、自分がトレントの利用に伴い負担すべき賠償額の全体像も把握できないままに次々と示談金の負担に迫られ、不安は強くなるばかりだと思います。

そのため、当事務所では上記のとおり、全体像を把握してからの示談を強くお勧めしています。

では、その際にどの程度の期間を猶予してもらえるかですが、全体像の把握にはプロバイダーのログ保存期間の経過が必要ですので、その期間程度の猶予は当然にお願いをしていますし、実際にこれが可能です。

制作会社側としても、非常に多数の開示請求、示談交渉を抱えている現状では、半年程度、1年程度の猶予はやむを得ないし、仮に猶予はできないと返答してみたところで訴訟を起こすなど、次の手を打つ余裕もありません。

したがって、示談の猶予は半年から1年は可能と考えて頂き、その間に追加で開示が来ないかを見極めて示談を決めればよいと考えます。当然、ご依頼頂ければ当事務所にて示談の猶予やログ期間経過までのプロバイダーや相手方弁護士とのやりとりすべてを行うことが可能です。

Q24 制作会社との減額交渉は可能か?

開示請求の結果、アダルトビデオの制作会社とその賠償金に関し、示談交渉をすることとなりますが、その際に、「制作会社との減額交渉は可能か?」と聞かれることがあります。

この点、減額については諸般の理由(ビットトレントを常時接続していなかった、ダウンロードしたファイルは常にすぐに削除していた、支払い能力がないなど)がありますが、かといって示談交渉の際に相手方弁護士にてすぐに減額に応じることはありません。

とりわけ、多数のAVメーカーから、ビットトレントシステムの利用に伴う開示請求や損害賠償請求の依頼を担っている弁護士法人ITJ法律事務所では、そのウェブサイトにて、減額交渉の余地を明確に否定しています。

トレントの発信者情報開示請求について – 弁護士法人ITJ法律事務所

これは、減額を求める事情の立証の可否という問題でもありますが、むしろ実質的には制作会社のスタンスの問題です。

すなわち、制作会社としては、日々、相当多数の開示請求を申し立てており、相当多数の開示結果を踏まえて、相当多数の利用者を相手に損害金の請求をしています。

そのような中で、個別に減額の交渉をすることは労力上の限界があることや、仮に減額に応じれば一律の基準がなし崩しになってしまうことから、一切減額には応じないのです。

したがって、減額交渉は実現しないため、当事務所においても「減額を求めるくらいであればそもそも支払い義務がない。」という交渉を持ち掛けることを提案しています。

Q25 制作会社との分割払いの交渉は可能か?

可能です。制作会社側としても、一円も支払いがないよりも、きちんとした合意に基づき分割払いにより支払いを受けることを可能と明言しています。

Q23にある、弁護士ITJ法律事務所のウェブサイトにおいても分割払いの余地を明確に認めています。

Q26 意見照会書に同意で回答をすると、回答結果を踏まえて自分の情報が他の製作会社に漏れるなどし、次々と開示請求がされるのではないか?

このようなご質問を多数頂戴しています。トレントを通じてアップロードをしたことは事実だとしても、同意で回答をすることで次々と開示請求が続くことを心配するのはよく分かります。

しかし、そもそも製作会社は、ビットトレントネットワーク上で特定のハッシュをアップロードしているユーザーを監視することを前提とした監視システムを通じて違法なアップロード行為の有無を調査しています。

これはすなわち、「特定のファイル」について違法アップロードがされているか否かを調べるものであり、「特定のIPアドレス」について違法アップロードがされているか否かを調べるものではないということです。

したがって、意見照会書に同意で回答をしたからといって、他にも開示請求が乱発するということはありません。

Q27 製作会社からの損害賠償請求に対して、損害賠償額が少額に限られた裁判例(大阪地裁令和5年8月31日判決)について教えてください。

トレントの利用に伴う損害賠償額については、東京高裁判決により、ビットトレントを通じたアップロード行為が可能であった期間×当該ファイルの利益額により計算をすべきとの判断がなされています(知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決)。

この詳細については別の記事で詳しく解説をしているのでそちらをご確認ください。

これとは別に、2023年8月31日に大阪地裁で、トレントによるアップロード行為の損害賠償額が少額に限定された事案がありました。

この事案では、トレントシステムを利用し、ファイルをダウンロードした結果、自分自身もそのファイルをアップロード可能な状態に置いたものの、ダウンロード後にすぐにファイルを削除したことを主張し、これが認められたものです。そのため、ユーザーが当該ファイルをアップロード可能な時間は、ダウンロード後に削除するまでの3時間に限られるとし、損害賠償額は37,675円にとどまるとされたのです。

この事案では、他にもユーザーの損害額を限定するための理屈として寄与度減額(ユーザーがアップロード行為に寄与した割合に応じた減額の主張)、過失相殺(製作会社からの開示請求に時間を要したために損害額が拡大したのでその分を差し引きすべきとの主張)、権利濫用(製作会社が把握している他の当該ファイルの利用にかかるユーザーの情報の開示を拒否したことから、製作会社の損害賠償請求は認められないなどとする主張)も展開していましたが、これらはいずれも排斥されています。

この事案は、トレントの仕組み上、実際にアップロード行為が可能な期間に限り損害を負担すべきとの本来あるべき損害賠償責任論にしたがって結論づけられており、至極まっとうな判断だと考えられます。

ただし、今後、この結論が高裁でも維持されるのか、他の事案でも通用するのかは裁判例の蓄積がまだまだ必要だといえます。

【2024.3.8追記】

上記大阪地裁判決については、判決の結論に対して被告側からの控訴がなく、その結果地裁判決が確定をしています。この地裁判決の結論に対して、どうしてアダルトビデオの制作会社側からの控訴がなかったのかは非常に気になるところです。

すなわち、この大阪地裁の事案の前に、東京地裁の令和3年8月27日判決と、その高裁判決である東京知財高裁令和4年4月20日判決が出ているところ、この事案の際には製作会社側は控訴をしているのに、本件では大阪地裁判決に対する控訴はしていないのです。

この点、確かに東京地裁及び知財高裁の事案の製作会社は株式会社WILLであり、大阪地裁の事案の製作会社は株式会社EXstudioという違いはあります。しかし、いずれの事案も製作会社の代理人は弁護士法人ITJ法律事務所という点では同じです。

そこで、被告が控訴をしなかった理由を敢えて考えてみたところ、以下のような一つの考察に辿り着きました。

すなわち、東京地裁、知財高裁の事案では

①そもそもユーザーのアップロード行為の後の、当該ファイルのダウンロード回数のカウント自体を被告がしていなかったため、ダウンロード回数に基づく実際の損害額計算がされなかった

②そのため、実際のダウンロード回数を推計するために、当該ファイルを販売しているサイトにおける実際の販売数の増加率に基づき、当該ファイルのダウンロード回数を推計している

③ところが、通常アダルトビデオは配信間もない時期に多くダウンロードされる傾向にある

④その結果、ユーザーによるアップロードの期間から離れた時点でのダウンロード回数に基づき計算をされることは、被告からすれば不本意である

⑤したがって控訴をしたということかもしれません。

他方で、大阪地裁の事案では

①被告(ないし多くのアダルトビデオの製作会社)では、上記東京地裁、知財高裁の判決の後、当該ファイルの実際のトレントを通じてのダウンロード回数をカウントするようになった

②そのため、大阪地裁の事案でも、アップロードを検出した時点以降の当該ファイルのダウンロード回数の立証はできるようになった

③そして、当該ダウンロード回数の始期は、ユーザーによるアップロードの検出時であり

④終期は開示請求の意見紹介に対する回答書を作成した時期などである

⑤このような前提の下、大阪地裁では④の終期については原告の主張を認めたものの、その他の点では被告としても納得できる(もしくは控訴する材料がない)結論となったため、控訴をせずに確定に至ったのかもしれません。

非常に両事案で検討すべき点が多い問題ですが、いずれにしても大阪地裁の事案を踏まえて思うのは、アダルトビデオの製作会社側は、決して損害賠償を求める訴訟には熱心ではない(ように見える)ということです。

これは推測ですが、以前からも相談者の方にお伝えしているように、ひょっとするとアダルトビデオの製作会社としては、開示請求を経て開示になったトレント利用者のうち、連絡が付き、示談になる方との示談には積極的であるが、そうでない方にはそこまで興味を持たず、したがって示談が決裂したからと言ってさほど熱心に民事訴訟を起こしたり、刑事告訴をしたりまではしてないように見えるのです。

当然、このように断定はできませんが、少なくとも現時点で私の知る限り、当事務所で把握する限りはこのように思われるのです。

このことは、この度の大阪地裁の事案に対する被告側の対応を見ても感じたところです。

ところで、大阪地裁の事案では、原告(トレントを利用し、開示請求を受けた側)の実際のダウンロード回数について、「3時間分」との認定がされています。その結果、以下のような損害額計算となり、少額の賠償額に留まっているのです。

547回✖️1450円(販売価格)✖️38%(利益率)÷24時間✖️3時間

=37,675円

この計算のうち、冒頭の547回というのは、原告が当該ファイルをアップロードした初日における他のユーザーによる当該ファイルのダウンロード回数です。そして、大阪地裁の事案では、原告が「ファイルをダウンロードするのに3時間かかった。ダウンロードした後に当該ファイルは削除した。」との陳述書を提出しており、判決ではこの陳述書に基づき、原告により当該ファイルが他のユーザーにダウンロード可能だったのは初日のダウンロード時間に相当する3時間に限られるとしたのです。

結果、この大阪地裁の事案では最終的な損害額が4万円弱に収まっているのです。

他方で、大阪地裁の事案のように、「ダウンロードした後、すぐに削除した」と言えない事案では、当然、具体的な損害額はもっと多額になります。大阪地裁の事案でも、仮に3時間で削除していなければ初日で10万円を超える損害額になります。

そして、ダウンロードしたファイルをすぐに削除するユーザーばかりではなく、実際には意見照会書が届いてから慌ててファイルを削除するケースは少なくありません。

そうすると、最初にダウンロードしてから、意見照会が届くまで仮に5ヶ月(150日)が経過していれば、仮に1日あたりのダウンロード回数が100回としても以下のような損害額計算になります。

100回✖️150日✖️1,450円✖️38%=8,265,000円

すなわち、大阪地裁の事案は、「3時間」に限られたからこそ、定額に留まっているものの、大阪地裁の考え方を基にしても、「期間」が長いケースでは実際の損害額は多額になることも多々ありうるのです。

この点は要注意です。

ただ、大阪地裁の事案のように、「ダウンロードした後、すぐに消した」と言い切れるケースでは、利用者にとって有利な結論に持っていきやすいと言えます。

したがって、トレントファイルをダウンロードしたユーザーの方、意見照会が届いたユーザーの方が、ファイルをどのように管理ないし削除していたかはこの問題を有利に解決することができるかどうかに関し、とても重要な意味を持つといえます。

特に、大阪地裁では、ユーザーがファイルを削除したことに関し、客観的な証拠を問わずに認めている点も注目に値します。

これは、そもそも不法行為に基づく損害賠償請求の際に、「損害の立証責任は賠償を求める側にある」という立証責任の問題にも関係しているように思います。

すなわち、トレントファイルのアップロードにより損害を被ったと主張する製作会社としてが、「このユーザーの行為により、一体何回のダウンロードがされたかを製作会社が立証しなくてはならない」のであり、「ユーザーの側で、『ダウンロードした後にすぐに削除したこと』の立証責任を負うものではない」ということを意味していると思うのです。

なので、ユーザーがすぐにダウンロードしたファイルを削除したことについては陳述書しかなくても、被告において、「いつまでファイルが他のユーザーにダウンロード可能な状態に置かれていたか」の立証に成功しない限り、原告の言い分を前提にして構わないということなのだと思います。

これは当然、「だったらダウンロードした後にすぐに削除したことにしておけば得」という問題ではありません。

大阪地裁の事案がそうだったということであるので、ご自身のも同じようなケースと言えるかどうかは慎重に吟味をしてみてください。

Q28 アダルト動画以外の著作物についての開示請求への相談対応はしていますか?またご依頼も可能ですか?

アダルト動画以外の著作物についての開示請求への相談対応も、居合対応もいずれもしております。

具体的には、漫画や映画、音楽などの各著作物に関し、それらを、ビットトレントシステムなどを通じてアップロードしてしまったことに伴う開示請求や意見照会への対応が可能です。

ここ最近(2024年3月時点)では、ナカシマ723さん(原作:ロケット商会)の「勇者のクズ」(発行:株式会社リイド社)に関し、開示請求、意見照会が増加しております。

この件に関しては、当事務所でもご相談が増加している件であり、ナカシマ723さんのX(旧:Twitter)においても、開示請求や損害賠償請求、刑事責任の追及に関してかなり積極的に投稿がなされています。

当事務所では、これらマンガや映画、音楽などに関してもトレントを通じたアップロード行為に関する対応を強化していますので意見照会書が届いたら一度、ご相談頂けたらと思います。

Q29 トレントユーザーの負担すべき賠償額について判断した3つの裁判例(東京地方裁判所令和3年8月27日判決、知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決、大阪地裁令和5年8月31日判決)の考え方の違いについて教えてください。

この間、ビットトレントを利用してアダルト動画をアップロードしたことの損害賠償額について、以下の3つの裁判例が存在します。

判決①

東京地方裁判所令和3年8月27日判決

判決②(判決①の高裁判決・確定)

知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決

判決③(確定)

大阪地裁令和5年8月31日判決

これら裁判例について、考え方の異動をまとめてみると以下のとおりです。

【論点①・ユーザーがトレントを利用する前や利用を停止した後の損害についても責任を負うか】

結論:判決①ないし③のいずれも否定。

理由:以下のような理由により、ユーザーがトレントファイルをダウンロードしてから、これを削除するか、ビットトレントの利用を停止した後に製作会社に生じた損害については責任を負わないとしました。

この点、製作会社側の代理人は、①当該ユーザーがトレントファイルをダウンロードする以前、②削除ないしビットトレントの利用を停止した以降の分の他社によるダウンロードについても損害賠償責任を負うと主張していますが、完全に排斥されています。

判決①

「自らが本件各ファイルをダウンロードし又はアップロード可能な状態に置く前に他の参加者が行い,既に損害が発生しているダウンロード行為についてまで責任を負うと解すべき根拠は存在しない」

「BitTorrentは,ソフトウェアを起動していなければアップロードは行われないほか,BitTorrent上や端末の記録媒体からファイルを削除すれば,以後,当該ファイルがアップロードされることはないものと認められる。そうすると,原告X1らがBitTorrentを通じて自ら本件各ファイルを他のユーザーに送信することができる間に限り,不法行為が継続していると解すべきであり,その間に行われた本件各ファイルのダウンロードにより生じた損害については,原告X1らの送信可能化権侵害と相当因果関係のある損害に当たるというべきである。他方,端末の記録媒体から本件各ファイルを削除するなどして,BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信ができなくなった場合には,原告X1らがそれ以降に行われた本件各ファイルのダウンロード行為について責任を負うことはないというべきである。」

判決②

「一審原告らと本件各ファイルをアップロードしている他の一審原告ら又は氏名不詳者との間に共謀があるものでもないのであるから、一審原告らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前や、BitTorrentの利用を終了した後においては、本件著作物について権利侵害行為をしていないのは明らかである。」

判決③

「損害額の算定にあたっては、次の事項、すなわち、①利用者がビットトレントを通じて自らファイルを他のユーザーに送信することができる間に限り、不法行為が継続していると解すべきであること、②端末の記録媒体からファイルを削除するなどして、ビットトレントを通じてファイルの送受信ができなくなった場合には、利用者がそれ以降に行われたファイルのダウンロード行為について責任を負うことはないことを考慮すべきである。この場合、利用者は、①と②の期間中に他のユーザーがファイルをダウンロードしたことにより生じた損害の限度で賠償義務を負うことになる。」

【論点②・損害賠償を負うこととなる始期と終期をどう認定するか】

結論:始期についてはユーザーがトレントファイルをアップロードした日にち。

終期については

・判決①では弁護士に相談をした日

・判決②では弁護士に相談した日もしくはユーザーがトレントファイルを削除し、もしくは利用を停止した日

・判決③ではトレントファイルを削除するまでの3時間

理由:始期についてはトレントの仕組み上、ファイルをダウンロードすると同時にアップロードがされる関係にあるところ、アップロードをするようになれば他者からのダウンロードが可能となるのでその時点となります。

終期については判決①と判決②で若干、異なっています。

すなわち、判決①、②では多数のユーザーが原告となって債務不存在確認請求訴訟を提起しているところ、各ユーザーによって、当該ファイルの削除ないしビットトレントシステムの利用停止の時期が多少異なります。

具体的には、意見照会書が届くまでにすでに利用を停止していたり、意見照会書が届いてすぐに削除したりしています。

その上で、判決①では、意見照会が届いた後に弁護士に相談をした時点をもって、トレントの利用を停止したとし、その日をもって、損害賠償を負うべき終期としています。

他方で判決②では、判決①とは異なり、各ユーザーが申告するトレントファイルを削除した日にちそのものや、ビットトレントシステムの利用を停止したとする日にちそのものを終期としています。そのため、判決②の方が終期までの期間が短くなっています。

また、判決③では、トレントファイルをダウンロードした後、3時間後に削除したとのユーザーの申告をもって、終期はダウンロードから3時間後と認定しています。

判決①は、終期について「原告X1らは,それぞれ,別紙「損害額一覧表」の「終期」欄記載の各年月日に原告ら代理人に相談をしたことが認められるところ,同原告らは既にプロバイダ各社からの意見照会を受け,著作権者から損害賠償請求を受ける可能性があることを認識していた上,上記相談の際に,原告ら代理人からBitTorrentの利用を直ちに停止すべき旨の助言を受けたものと推認することができるから,同原告らは,それぞれ,遅くとも同日にはBitTorrentの利用を停止し,もって,本件各ファイルにつきアップロード可能な状態を終了したものと認めるのが相当である。」としていますが、これはあくまで裁判所としての推認に基づく事実認定です。

他方で判決②と判決③はより直截に、ユーザーが陳述書で主張する利用停止時期や削除の時期をもって終期を素直に認定しているのです。

この点について、判決②では「これは、一審原告X1らの陳述書(甲15、20の1)に基づき認定したものであるが、プロバイダからの意見照会を受けたことで怖くなり、BitTorrentのクライアントソフトを削除したり、BiTorrentの利用を控えるのは通常の行動であり、上記各陳述書の内容に不自然な点はない」と明確に論じ、判決②の原審である判決①の判断を覆しています。

考えてみると、そもそもアダルト動画の製作会社は、ユーザーの行為により生じた損害を求めるに際して、自らが損害の発生と額を立証する必要があるところ、始期と終期は損害額を計算するために重要な要素です。

そして、この終期についても当然に製作会社に立証責任があるところ、そもそも製作会社は具体的な終期としては、ユーザーがトレントの利用を停止した後も損害を負うと主張し、直近でのダウンロード回数をもって終期の数としています。

しかし、裁判所はこのような考え方は採用せず、結局は、ユーザーが自認する限度すなわちユーザーがファイルを削除したとか、ビットトレントシステムの利用を停止したとかと述べている時点まで終期を認定しているものと考えられます。

そのため、製作会社としては具体的な終期の立証において失敗をしており、求める損害が多額な割に、実際には裁判では有利な結論を得られていません。

この点は今後、製作会社側にて対応を採ることが考えられますが、ユーザーとしては、削除までもしくはビットトレントシステムの利用を停止したまでの期間が短ければ短いほど有利と言えます。

ただし、最近はアップロードから開示請求、意見照会までのスパンが非常に伸びている結果、意見照会が届いた時点で削除をしたとしても相当の回数になってしまうケースもあると思われます。

執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)

1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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