ビットトレントシステムによる著作権侵害について判断した裁判例

このコラムでは、ファイル共有ソフトであるビットトレントシステムを利用したことによる著作権侵害に関し、その損害額などについて判示した裁判例(東京地方裁判所令和3年8月27日判決、知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決)について解説をします。

アダルトビデオなどをアップした場合の具体的な損害額算定の参考にしてみてください。

1 BitTorrent(ビットトレント)による著作権侵害の損害額について判断した裁判例

ここ最近、ファイル共有ソフトであるBitTorrent(以下、「ビットトレントシステム」といいます。)を用いた動画や画像などの各種ファイルのアップロード行為に対して、著作権侵害やパブリシティ権侵害を根拠とした発信者情報開示請求や、損害賠償請求が多数なされています

アダルトビデオの製作会社など(有限会社プレステージ(有限会社PRESTIGE)、株式会社クイーンズロード、株式会社KSプロ(株式会社ケイ・エス・プロ)、株式会社Exstudio、有限会社デジタルガガ、株式会社ケイ・エム・プロデュース(K.M.Produce、KMP)、清水健などが多く、当事務所でもこれらの製作会社などからの開示請求のご相談、ご依頼が多数あります。)はP2Pファインダーなどのトレント監視システムを使用し、自社の著作物について違法なアップロード行為がされていないかを頻繁に監視しており、システムを通じて検知したIPアドレス及びタイムスタンプといった情報に基づき、開示請求を行っているのです。

ファイル共有ソフトを利用している人は、ある日突然、自分や家族の契約しているプロバイダーから発信者情報開示請求についての意見照会書を受け取り、その内容を見て著作権侵害行為に気が付くケースが多いです。意見照会文書を受け取った方は、自分の氏名や住所が開示請求者に知られるかもしれないと考え、その対応にとまどうことが多いです。

この点、そのような意見照会文書に対してどう回答するかはこのウェブサイトの別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

そして、ファイル共有ソフトであるビットトレントシステムを使用し、他人の著作物をアップロードした行為に関し、東京地方裁判所令和3年8月27日判決及び同判決の控訴審である知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決では、ビットトレントシステムを用いた利用者に不法行為責任が生じるか否か、生じるとしてどの範囲で生じるか、負うべき損害額はいくらかなどについて詳細な判断が下されています。

そこで、ここでは、これら両判決に基づきビットトレントシステムやこれを用いた場合の損害賠償責任の内容について解説をします。

なお、この両判決はビットトレントシステムを用いて著作権侵害行為を行ってしまった方複数名が原告となって、著作権侵害を主張する会社側を被告として裁判を起こしたもの(著作権侵害による損害はないとの主張ないし裁判)である点、ご注意ください。

また、被告は、原告らに対し、被告が被った損害として、原告らのビットトレントシステムの利用内容や期間に応じ、それぞれ約2,000万円から1億6,700万円の請求をしていました。

2 ビットトレントシステムの概要について

まず、ビットトレントシステムの概要についてですが、地裁判決では以下のとおり整理がされています。

【以下、地裁判決より】

(ア) BitTorrentでは,特定のファイルを配布する場合,まず,当該ファイルを小さなデータ(ピース)に細分化し,分割された個々のデータ(ピース)をBitTorrentネットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。当該ファイルのダウンロードを希望するユーザーは,ネットワークに参加して自らピアとなり,ピースをダウンロードするとともに,多数存在する他のユーザー(ピア)との間でお互いが保有するピースを授受することを通じ,分割された全てのピースをダウンロードした上で,それらを完全なファイルに復元することで,当該ファイルを取得することができる。

(イ) 完全な状態のファイルを持つユーザーは,「シーダー」と呼ばれる。目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ばれるが,ダウンロードが完了し,完全な状態のファイルを保有すると,当該ユーザーはシーダーとなり,今度は,リーチャーからの求めに応じて,当該ファイルをアップロードしてリーチャーに提供することになる。

また,リーチャーは,目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても,既に所持しているファイルの一部(ピース)を,他のリーチャーと共有するためにアップロードする。すなわち,リーチャーは,目的のファイルをダウンロードすると同時に,他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置く仕組みとなっている。

(ウ) BitTorrentは,このようなユーザー相互間のデータの授受を通じて,ファイルを保管するためのサーバを必要とすることなく,大容量のファイルを高速で共有することを可能とするものである。

このように、ビットトレントシステムを利用すると、自らダウンロード行為をすると同時にアップロード行為にも関与することになるのです。

その結果、いつの間にか著作権を侵害することとなるのです。

3 ビットトレントシステムの利用と著作権侵害について

このように、ビットトレントシステムのユーザーは、これを用いることで、意図していなくても著作権侵害行為を行っているという状況に陥ります。

そして、民事上の不法行為としての著作権侵害は、故意による場合に限らず過失による場合でも成立します。

そのため、ビットトレントシステムは用いていたが、ビットトレントシステムを用いることで動画がアップロードされているとは知らなかったし気付かなかったという弁解は通りません。すなわち、ビットトレントシステムを利用している以上は、アップロード行為をしてしまったことについての注意義務違反たる過失は否定できないのです。

現に、知財高裁では、「BitTorrentの本質的な特徴,すなわち動画ファイルを分割したピースをユーザー間で共有し,これをインターネットを通じて相互にアップロード可能な状態に置くことにより、ネットワークを通じて一体的かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能になることを十分に理解した上で、又は容易に理解し得たのに理解しないままこれを利用し,他のユーザーと共同して,本件著作物の完全なファイルを送信可能化した」ものとして故意又は過失による不法行為の成立を認めています(ただし、ビットトレントシステムを通じたアップロード行為の立証ができていないとして2名については責任を否定しています)。

したがって、ビットトレントシステムを用いた以上は過失による場合も含めて著作権侵害の責任を逃れることは通常はできないといえます。

4 ビットトレントシステムによる著作権侵害とその責任の範囲について

(1)ビットトレントによる著作権侵害の損害計算について

では、自らが著作権侵害に関与してしまったことの結果として、どの範囲で、もしくはいくらの損害賠償を負うことになるのでしょうか。

この点、上記の裁判例では被告は、問題となっている動画のDVD・Blu-ray版の料金×ダウンロード回数による損害賠償額を請求しました。

しかし、ビットトレントシステムで問題となっているのは、当該アップロード行為により、DVD・Blu-ray版が売れなくなったという問題ではなく、ダウンロード版が正規にダウンロードされなかったことの損害です。

そのため、地裁判決でも知財高裁判決でも被告の主張するDVD・Blu-ray版の金額での損害計算は認めませんでした(DVD・Blu-ray版の代金の方がダウンロード版よりも高額)。

また、ダウンロード回数について、被告は、原告がビットトレントシステムを用いる以前と、ビットトレントシステムを用いるのを止めた以後の期間も含めてダウンロード回数総数に対する損害賠償責任を負うと主張しました。

しかし、ビットトレントシステムを用いる前と、用いるのを止めた後にまで責任を負わせる根拠はないとし、両判決とも被告の主張は認めませんでした。

その結果、原告がビットトレントシステムを用いていた期間中にダウンロードされた回数のダウンロード版の料金に、被告が受け取っていた利益額(ダウンロードサイトに支払う手数料を控除した額)が原告の負うべき損害額と認定されたのです。

(2)高裁判決における実際の認容額

これら損害額に対する裁判所の判断の結果、原告らの負担すべき損害額としては約2万円から約6万円の範囲で認定されるに留まったのです。

具体的な高裁判決での原告ごとの認容額は以下のとおりです。なお、高裁判決では原告5、原告11はそもそも責任を否定されています。

また、本件裁判ではどの原告も同一の動画のアップロード行為に対する損害賠償が問題となったところ、原告9、10については「通常版」の、その他の原告は「HD版」のアップロード行為が問題となったため、被告に対して負担すべき損害額計算の根拠となる利益額が異なっています。

(1)原告1:74回(原告1のビットトレント利用期間中の当該動画のダウンロード回数)×482円(当該動画のダウンロード版の料金により被告が受けていた利益額)=35,668円

(2)原告2:120回×482円=57,840円

(3)原告3:79回×482円=38,078円

(4)原告4:50回×482円=24,100円

(5)原告6:53回×482円=25,546円

(6)原告7:37回×482円=17,834円

(7)原告8:33回×482円=15,906円

(8)原告9:161回×372円=59,892円

(9)原告10:148回×372円=55,056円

(3)高裁判決を踏まえた損害額算定のまとめ

このような結果は、被告の請求額に照らし、相当の減額になっています。被告としては納得し難い結果だとは思いますが、違法なアップロード行為による著作権侵害の損害額は一人一人のアップロードに照らすとどうしても僅少にならざるを得ないことからするとやむを得ない結論だと言えます。

言い換えると、ビットトレントシステムは、多数の利用者により著作権侵害がなされているので、ビットトレントシステムを利用して著作権侵害をした当事者全員を見つけることができればそれぞれに相応の額の賠償を求めることで、損害の補填ないし回復ができますが、利用者全員を捕捉することが非常に難しく、かつ費用も多額に及ぶことからどうしても限界が生じてしまうのです。

本件裁判では、被告はこのような問題意識も持ちつつ、原告らに相当高額の賠償を求めたものの、あくまで裁判所は各原告がアップロード行為に関与した限度での損害賠償にとどめたのです。

とはいえ、以上のような計算方法に照らし、ダウンロード回数が相当多数回に及ぶ場合であればやはり負担すべき損害額は容易に数百万円単位になりますし、アップロードをした動画が複数になればやはり負担すべき金額は雪だるま式に膨れ上がることとなります(言い換えると、上記裁判例で原告となった複数名はいずれもダウンロード回数はさほど多くなく、かつ対象となる動画自体も1つだけでした。そのこともあり、上記の計算方法に従い計算をすると上記のような金額にとどまったのです。)。

実際、ビットトレントの利用によりアダルトビデオをアップロードしたという事例では、単純にひとつの作品だけアップロードしていることは稀であり、複数の動画をアップロードしてしまっていることが多いのが実情です。

その結果、たとえば複数の動画をアップロードしていた場合には以下のような損害額になることは少なくありません。なお、ダウンロード回数が増えるのは、当該動画が人気作品であるとか、新作であるような場合が多いです。

(1)動画1:1,000回×482円=482,000円

(2)動画2:2,000回×372円=744,000円

(3)動画3:3,000回×372円=1,116,000円

合計;2,342,000円

このように、ファイル共有ソフトの利用により他人の著作権を侵害した場合の損害額の計算方法は非常に複雑ですが、別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

 「ビットトレントシステムなどのファイル共有ソフトで動画などをアップロードしてしまった。いくらの損害賠償になるか。」

5 まとめ

以上のとおり、ビットトレントシステムを用いることで、著作権侵害の責任を逃れることは容易ではありません。

他方で、著作権侵害を主張する側は、ダウンロード回数や1ダウンロード毎の単価を法外な金額で計算することで過剰な請求をしてくることもあります。

そのため、ビットトレントシステムを用いたことによるトラブルに際しては慌てることなく落ち着いた対処が重要になると言えます。そのため、突然届いたプロバイダーからの意見照会書に対しても、自分がいつからいつまでビットトレントシステムを利用したのかを踏まえ、冷静になって対応を検討するべきです。

なお、ファイル共有ソフトを用いてアダルトビデオを違法にアップロードしてしまった場合の開示請求や示談交渉の実際の流れについては別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

 「AVのビットトレント利用による開示請求と示談交渉の実際の流れについて」

 【2023.4.20追記】

ここ最近、本件(ビットトレントを通じたアダルトビデオのアップロードに伴う製作会社からの発信者情報開示請求やプロバイダーからの意見照会書の受領を前提としたお悩みやトラブル)に関するご相談が非常に増えております。

その理由としては、ビットトレントの利用者が相当多数に及ぶこと、ひとりの利用者あたりで通常は相当数の動画をダウンロードしたりアップロードしていること、アダルトビデオの製作会社は多数あるところ、どの製作会社も一律にビットトレント経由での違法アップロードに徹底した対応をとるスタンスをとっていることなどという点にあります。

このような中、意見照会書を受領した利用者の方は、周囲に相談できる状況には通常なく、不安を覚えネットで情報収集をすることが多いと思います。ネット上では当事務所を含め、複数の法律事務所による多数の記事があり、それらの情報が利用者の方の役に立つことはもちろんです。

また、弁護士による記事以外では5ちゃんねるのスレッドに多数の投稿があり、これもまた情報収集のためには一定の意味を持つものと考えられます。

とはいえ、これらネット上での情報収集のみですべての案件に適切な対応ができるかというと限界があるのも事実です。そのため、当事務所を含め、本件に関しては現在、多数の相談が寄せられているのが実情のようです。

そうした中、岡山県と香川県に拠点を持つ当事務所では、現在、岡山県内や香川県内に限らず、中国地方全般(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)、四国地方全般(徳島県、香川県、愛媛県、高知県)にお住まいの方からのご相談も広く承っております(その他の地方のご在住の方からももちろんお受けします)。

その際、遠方のため事務所まで足を運べない方でも、zoom相談にて対応しておりますので、ぜひ一度ご連絡いただければと思います。

相談予約などの連絡先は以下のURLからアクセス願います。

https://kakehashi-law.com/modules/inquiry/

ビットトレントによるアダルトビデオのアップロードに関する問題は、日々状況が変化しています。ネットで得られない情報と最善の解決のために、弁護士へのご相談をご検討ください。

【2023.6.29追記】

当事務所では、ビットトレントシステム関係のご相談は30分あたり5,500円(税込)、ご依頼については着手金165,000円(税込)、報酬は示談で解決した際に110,000円(税込)を頂戴しております。

また、ご依頼中に他の製作会社からの開示請求が届いた場合の追加受任の費用は着手金が55,000円(税込)です(報酬は別途)。

 なお、この間、頂いているアダルトビデオ(AV)の製作会社からの発信者情報開示請求やプロバイダーからの意見照会の問題などについて、Q&Aを別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

 

「AVメーカーからの開示請求についてのQ&A」

【2023.7.7追記】

当事務所では、現在、岡山県内、香川県内に限らず、近隣他県や遠方他県からも相当多数のご相談、ご依頼を頂いている状況です。

ご相談やご依頼の際の面談にはオンライン(ZOOM利用)で実施し、個別のご連絡はLINEやメール、電話を中心にやりとりをさせて頂いております(費用はペイペイかお振込み)。

さらに、案件のご依頼を頂いた場合には、当事務所ではオンラインにて案件の進捗確認ができるシステム(「確認丸」)により、遠方であってもリアルタイムで状況の把握や確認が可能です。

そうした環境整備の結果、遠方の方からも安心してご相談、ご依頼ができたとのお声を多数頂戴しております。

トレントの問題で弁護士に相談したいが、不安な気持ちが伝わるか、汲んでくれるかご心配な方もこれらによる万全のフォロー体制を整えておりますのでご安心いただけます。

トレントによる意見照会が届いて強い不安をお抱えの方は、ぜひ専門の詳しい弁護士にご相談ください。

お問い合わせフォーム等は以下のページにございます。

執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)

1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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