*2024年12月28日から2025年1月5日までお休みです。 *新規ご相談でお急ぎの方はメールフォームよりメールにてお問い合わせください。お問い合わせにはご対応いたします。

身に覚えがないトレント利用での発信者情報開示請求への対応方法を弁護士が解説

このコラムについて

最近は、AV動画の製作会社がファイル共有システムを用いたことを根拠としての開示請求を行うケースが増えています。その結果、ある日突然、プロバイダーからの意見照会書が届くケースが増加しております。

そうした中、自分自身ではこうしたファイル共有システムを利用した覚えがなく、届いた意見照会書に対してどのように対応すべきか困惑するケースも多く見られます。

当事務所には、身に覚えのない意見照会がされたケースについて、多数の相談が寄せられており、これまでの傾向や裁判例などを基に具体的な助言や受任対応を行ってきました。

そこで、本コラムでは、自分には身に覚えのない意見照会が届いた際に、どのように対処すればよいかをケース別に詳しく解説をしたいと思います。

1 ビットトレントシステムとは?

ビットトレントシステム(bittorrent)とは、P2P形式でファイルの送受信が可能なソフトウェア(ファイル共有ソフト)のことです。

具体的には、トレントをインストールしたパソコン等の端末同士で、サーバーを介することなく、ファイルを送信・受信し、簡単に共有するこができる仕組みとなっているのです。

トレントをインストールした他者の端末から特定のファイルをダウンロードしたり、自身の端末を介して自分が保有しているファイルを第三者にダウンロードさせたりすることができます。

このトレントの仕組みを利用したソフトウェアには、「qBittorrent」「BitTorrent」「Vuze」「uTorrent」など、様々な種類があります。

こうしたトレントの仕組み自体は、法的に違法ではなく、問題となるのはトレントを使って違法なファイルのやりとりをすることにあります。

なお、トレントは違法なのか、トレント利用により逮捕されることがあるのか については、別のページ で詳細を説明していますので、そちらをご参照ください。

2 発信者情報開示請求とは?

⑴発信者情報開示請求とは

発信者情報開示請求とは、特定電気通信を通じて発信者から侵害情報を特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録等されたために、自己の権利を侵害された者が、特定電気通信役務提供者に対し、発信者の氏名、住所などの情報の開示を求めることです。

非常に分かりにくいため、簡潔にまとめるとこのように言い換えることができます。

インターネット上で権利侵害投稿をされた人が、プロバイダーに対して当該投稿に用いられたインターネット回線契約の契約者の氏名、住所の開示を求めること

この発信者情報開示請求の根拠は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダー責任制限法」)の5条に規定されています。

そして、自分の権利を侵害された人は、この法律により、プロバイダーに対して、プロバイダーと契約している者の氏名、住所の開示を求めることができます。

ここで注意をしたいのは、発信者情報開示請求を受けたプロバイダーは、契約者の氏名、住所などの情報は持っているが、実際に問題となっている違法ダウンロード又は違法アップロードを誰がしたかのかという情報までは持っていないということです。

つまり、インターネット回線をプロバイダーとの契約者以外の人物(例えば家族が家庭内のインターネット回線を用いて違法ダウンロード又は違法アップロードをした場合など)が用いて問題となる違法ダウンロード又は違法アップロードをすることは当然にあり得るところ、プロバイダーとしては実際の発信者の特定まではできないということです。

そのため、発信者情報開示請求に対しては、プロバイダーから契約者の情報が開示されることになります。

発信者情報開示請求の手続きの中で、プロバイダーは原則として、当該作品のダウンロードを行った発信者に対して開示に対する意見を照会しなければなりません

プロバイダーは、契約者の意見を踏まえた上で、開示請求に対して開示を行うかどうかの方針を立てて対応を行います。

ただし、開示請求が認められるか否かは、最終的に裁判所が発信者が権利侵害を行ったことが明白であるかどうかなどを考慮して判断します。

発信者情報開示請求に関する流れに関しては、以下の記事をご参照ください。

⑵トレント利用で開示請求が行われる理由(トレント利用が違法となる場合)

先にも述べたように、トレントのソフトウェアの利用自体は法的には違法ではありません

しかし、他者が制作・編集した楽曲、映画、アニメ、ゲームソフト、写真、マンガ、AV動画等の著作物を無断でダウンロード(受信)した場合、著作権法上違法となります。

そのため、そのようなダウンロードが違法行為であることを強く認識する必要があります。

また、トレントの仕組み上、自分がダウンロードしたファイルは、ダウンロード中であっても自分の端末を介して同時かつ自動的にアップロードされます。

つまり、自分ではアップロードするつもりがなくても、自動的にアップロードされ、他のユーザーがその作品をダウンロードできる状況になるということです。

他のユーザーがこれをダウンロードすることによって、作品の著作権者が被害を受けるのです。このようなアップロード行為は、著作権法23条に規定されている権利を侵害することになります。

著作権法 23条

1項 著作者は、その著作物について、公衆送信(児童公衆送信の場合においては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

2項 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

知らない間に、アップロードをしてしまった作品を他者がダウンロードしていた場合でも、過失に基づく著作権侵害として民事上の責任を負うことになります。

著作権者としては、違法なアップロード行為によって権利(著作権等)が侵害されたとして、開示請求(その後に賠償請求)を行うのです。

3 身に覚えがない意見照会書が届くケースとは

ある日突然、プロバイダーから意見照会書が届き、身に覚えがないのに自分が違法な権利侵害を行ったとして発信者情報開示請求をされていることに、驚かれる方もいらっしゃると思います。

では、なぜこのような身に覚えのない意見照会が届くのか、以下で具体的なケースを紹介します。

⑴ 同居する家族がダウンロードを行っていた場合

ケース①

同居する家族のために自身がインターネット契約をしている状況で、同居する子供が自分たちのPC等でトレントを用いてダウンロードを行っていた場合(家族間で共有しているPCで子供が知らない間にダウンロードを行っている場合も含まれます。)も、同様にプロバイダーから契約者に対して意見照会が行われることになります。

この場合には、トレントの利用をしたのがプロバイダーの契約者自身でなくても、意見照会が届く結果となるのです。

身に覚えがない場合には、まず同居する家族にトレント利用の有無を確認してください。

もし自分以外の家族がトレントを利用していた場合には、記載されているタイムスタンプ時に利用していたか、対象となっている作品をダウンロードしたことがあるのかを確認してください。

なお、同居する家族がトレントを利用していたとしても、利用期間と意見照会で問題となっている作品のタイムスタンプ(ダウンロード時点)が異なる場合、同居の家族以外が利用していた可能性が考えられます。

⑵来訪した友人等がダウンロードを行っていた場合

ケース②

自宅に遊びに来ていた友人等が、自宅のネット回線を経由して当該作品をダウンロードした場合が考えられます。

この点、契約者の利用するネット回線でダウンロードが行われていた場合、プロバイダーは契約者に対して意見照会を行います。そのため、契約者が知らない間に友人等がダウンロードしていても、契約者に対して意見照会がされることなります。

この場合もやはり、トレントを利用したのがプロバイダーの契約者自身でなくても、意見照会が届く結果となるのです。

⑶従業員がダウンロード行為を行っていた場合

ケース③

会社でネット回線を契約している場合、勝手に従業員がトレントを利用してダウンロードを行っていたケースも考えられます。

この場合もやはり、トレントを利用したのがプロバイダーの契約者自身でなくても、意見照会が届く結果となるのです。

⑷自身でのトレントの利用はあるが、当該作品の記憶がない場合

ケース④

上記のケースとは異なり、自身が日常的にトレントを利用しているものの、PC上にデータ等が残っておらず、当該作品をダウンロードしたかどうか記憶にない場合もあります。

ダウンロードした作品を削除していた場合、何か月、何年も前にダウンロードを行った作品を覚えていないこともあるからです。

この場合には、意見照会書に記載のある開示対象のファイルについては、トレントを通じてダウンロードしたことも、アップロードしたことも記憶にないため、その意味では身に覚えのない意見照会書が届いたものと受け止められます。

⑸ そもそも自身や家族等がトレントの利用がない場合

ケース⑤

上記のように、トレントの利用があったケースとは異なり、自身や家族等に確認をしても、まったくトレントの利用がない場合もあるでしょう。

この場合でも、意見照会は契約者に送られるため、身に覚えのない意見照会が届くことになります。

具体的なケースとしては、他者が契約者の知らないところでWi-Fiを使用していた場合や、Wi-Fiが乗っ取られていた場合などが考えられます。

4 身に覚えがない場合に意見照会書の回答はどうすべきか?

自分に身に覚えのない意見照会が届くケースとしては、以上のような5つのパターンが考えられます。

これらのケースでは、どのように意見照会に対応すべきかを詳しく解説してきます。

⑴同居する家族がダウンロードを行っていた場合

同居する家族によるダウンロード行為であることが判明した場合には、積極的に同意の回答をすることを検討して良いと思います。

同居する家族間で同一のネット回線を利用している場合は多いため、このようなケースはしばしば見受けられます

意見照会書の回答では、違法なダウンロードを行った同居の家族が回答を行うことも可能な場合もあります。その場合、同居する家族から発信者情報の開示に対する回答を行うことも可能です。

これにより、プロバイダーは、相手方に対して、同居する家族がダウンロードを行った旨の回答がされたこと、回答を行った同居家族の氏名、住所等を発信者情報開示手続の中もしくは手続き外において任意で開示します。

この場合、制作会社は同居する家族に宛てて和解に関する通知を行います。その後、ダウンロードを行った家族が制作会社との間で示談をするかどうかの交渉を行うことになります。

他方で、プロバイダーによっては契約者以外の意見照会の回答を受け付けないプロバイダーもあります(例:ソフトバンク株式会社)。

この場合、契約者がプロバイダーに対して同意で回答した上で、直接ダウンロードを行った家族に制作会社との間で示談をするかどうかの交渉を行ってもらうのがいいでしょう。

ただし、契約者の名義で回答を行うこの場合には、制作会社はダウンロードを行った家族に対してではなく契約者に対して示談交渉の通知を送ることになります。

このため、プロバイダーが契約者以外の人物からの回答を受け付けていない場合、プロバイダーは、実際にダウンロードを行った人物ではなく契約者の氏名、住所等の情報を開示することになります。

契約者は、届いた制作会社からの通知を家族に渡し、家族から直接制作会社に連絡を取ってもらい、示談をするかどうかの交渉を行ってもらいましょう。

なお、示談交渉についての対応方法は、「7 身に覚えがない場合における制作会社への対処方法」に記載しておりますので、ご参照ください。

⑵来訪した友人等がダウンロードを行っていた場合

もし友人があなたの契約しているネット回線を介してダウンロードを行っていた場合、直接ダウンロードを行った友人に同意での回答をしてもらいましょう。

なぜなら、契約者の知らないところで友人がダウンロードを行っていた場合、制作会社への損害の責任を負うのはネット回線の契約者ではなく、直接ダウンロードを行った友人になるからです。

友人が同意での回答を行う場合、プロバイダーは制作会社に対して、発信者情報開示手続もしくは手続き外において任意にダウンロードを行った友人の氏名、住所を開示することになります。

これにより、ダウンロードを行った友人宛に制作会社から示談に関する通知が届くことになります。

友人には、示談するかどうかの交渉を行ってもらいましょう。

他方で、契約者以外の者からの意見照会の回答を受け付けていないプロバイダー(例:ソフトバンク株式会社)もあります。

この場合、友人が知らないところで勝手にネット回線を利用しダウンロードを行っていた事情を記載した上で、友人がダウンロードを行ったことは事実であるため、同意での回答を行い、その後の製作会社との示談交渉は友人に行ってもらうのが良いでしょう。

具体的には、契約者が回答を行う場合には、制作会社からの示談交渉に関する通知は契約者宛てに届きます。届いた通知は友人に渡し、友人から制作会社に連絡を取ってもらい、示談をするかどうかの交渉を行ってもらうことになります。

なお、示談交渉についての対応は、「7 身に覚えがない場合における制作会社への対処方法」をご参照ください。 

⑶従業員がダウンロード行為を行っていた場合

従業員が会社のネット回線を利用してダウンロードを行っていたことが明らかになった場合、当該従業員に同意での回答をしてもらいましょう。

なぜなら、会社の業務と関係がないなら、ダウンロードによる制作会社への損害の責任は会社ではなく、直接ダウンロードを行った従業員にあるからです。

この場合、従業員からの回答を受けたプロバイダーは、発信者情報開示手続もしくは手続き外において任意に制作会社に対してダウンロードを行った従業員の氏名、住所等の情報を開示します。

これにより、制作会社からダウンロードを行った従業員に対して示談交渉に関する通知が届くことになります。

ただし、プロバイダーによっては契約者以外の人物からの回答が不可能な場合もあります。その場合、契約者従業員がダウンロード行為を行った事情を記載した上で、同意で回答すると良いでしょう。

なお、会社が回答を行い開示が認められ、会社宛てに制作会社から示談に関する通知が届いた場合には、従業員に制作会社と示談交渉を行ってもらいましょう。

また、示談交渉についての対応は、「7 身に覚えがない場合における制作会社への対処方法」をご参照ください。

⑷自身でのトレントの利用はあるが、当該作品の記憶がない場合

この場合、PC上のデータや履歴に対象となっている作品のダウンロードに関する記録が残っていないものの、自身がダウンロード行為をしていた可能性や心当たりがあるのであれば、同意で回答を行ってもよいでしょう。

一方で、PC上のデータや履歴に対象となっている作品のダウンロードに関する記録がなく、全く記憶にもない場合には、自身のPCに違法ダウンロードを行った記録がないことや、そのような記憶もないことを理由に不同意で回答する選択肢もあります。

だたし、不同意で回答を行った場合でも、必ずしも情報が開示されないわけではないことに注意が必要です。

つまり、発信者情報の開示を判断する裁判所は、契約者にダウンロードを行った記憶がなくても、IPアドレスに基づき契約者が利用しているネット回線から当該作品のダウンロードが行われたことが判明し、権利侵害が明白だと判断すれば、開示請求を認める可能性があります。

そのため、不同意で回答を行っていたとしても、発信者情報が開示されることになるかもしれません。

⑸そもそも自身にも家族等にもトレントの利用がない場合

自身や家族等がそもそもトレントを利用したことがなく、PC上にもトレントのソフトウェアや、開示請求の対象となっている作品のデータ記録がない場合には、そのことを理由に不同意で回答することが良いでしょう。

ただし、この場合でも、裁判所が権利侵害が明白だと判断すれば、開示が認められる可能性があることに注意が必要です。

5 身に覚えがないとして不同意での回答した場合について

ここまで身に覚えのない意見照会が届いた場合のケース別の対応を紹介しました。

身に覚えがない場合には、PC上のデータや履歴等を確認し、同居する家族等がダウンロードを行っていないかを確認する必要があります。

では、身に覚えがないことを理由に不同意での回答を行った場合、どうなるかでしょうか。

この場合、プロバイダーは不同意の理由として記載された

「契約者にダウンロードの記憶がないこと」

「契約者のPC上にダウンロードした履歴やデータがないこと」

を前提として、開示請求の対応を取ることになります。

具体的には、プロバイダーは発信者情報開示手続において、上記理由を基に契約者は対象となっている作品について違法ダウンロード行為は行っておらず、開示請求が認められないとの主張を行うと思われます。

一方で、プロバイダーによっては、身に覚えがない、つまり記憶がないとの回答を行ったとしても、契約者がダウンロード行為を行っていた記録(ログ)の存在を前提に対応するプロバイダーも存在します。

つまり、契約者に当該作品のダウンロードの記憶がないとしても、ログに基づくダウンロード行為の事実がある以上、発信者情報開示請求手続において当該作品のダウンロードが行われていたと認めることになります。

この点においては、契約者が意見照会の回答書に記載した「記憶がない」旨の理由は考慮されないことになります。

6 開示請求が認められた後もしくは任意に開示がされた後の流れ

意見照会での回答書において、「同意」で回答した場合、開示請求が認められることになります。なお、「同意」の場合、プロバイダーによっては発信者情報開示請求の手続き外で任意に開示する場合もあります。

また、「不同意」で回答を行ったケースでも、裁判所が権利侵害は明白だと認め、開示を認める場合もあります。

これらの場合には、プロバイダーから制作会社へ発信者情報(氏名、住所等)の開示が行われます。

ここでは、開示請求が認められた場合または任意に開示が行われた場合の今後の流れについて説明しています。

⑴プロバイダーから開示した旨の通知が届く場合

開示請求が認められた場合、プロバイダーは制作会社に対して、発信者(契約者)の氏名、住所等の情報を開示しなければなりません。

その際、プロバイダーによっては、契約者に対して開示した旨の通知を行うこともあります。

⑵制作会社からの通知

開示請求が認められた場合、その後、制作会社は開示を受けた契約者等の住所に対し、示談交渉に関する通知を送ることになります。

その通知の内容は、著作権法上の刑罰法令や和解金額(示談の条件)の提示が含まれています。

示談金額の提示額については、代理人ごとに異なりますが、一般的には一つの作品での和解金額(33万円)や、他の著作権侵害等が認められる作品も含めた包括的な和解金額(77万円)が提示されています。

また、和解金額とは別に、実損害額(作品の利益額に、当該アップロード後に他者がダウンロードを行った回数を乗じた金額)が提示されている場合もあります。

なお、実損害額はあくまで示談に応じるかどうかの判断材料の一つとして考慮されるものであり、和解する場合には上記の33万円ないし77万円の支払いとなります。

この実損害額の算定に関する詳細は、下記の記事をご参考ください。

7 身に覚えがない場合における制作会社への対処法

これまで、プロバイダーの意見照会に対する回答書の対応について具体的に解説してきました。

では、作品の制作会社に対してはどのように対処すべきなでしょうか。以下では、これらについて具体的に解説していきます。

⑴ 同居する家族がダウンロードを行っていた場合

当事務所では、プロバイダーのログの保存期間を待った上で、示談を行うべきかどうかを判断すべきだと考えています。

その理由としては、結果的に開示請求が行われた作品数等が判明し、適切な助言が可能となり、費用を最小限に抑えることに繋がるからです。

つまり、最初の通知が届いた際には、他の作品についても開示請求がされるかどうかは分からず、単品での合意をすべきなのか、包括合意をすべきなのか判断ができない状態です。

この点、最初の通知が届いた際に、包括合意の対応を勧める法律事務所も存在しますが、包括合意は追加作品での請求がされても責任を負わないというメリットがある一方で、結果的に一作品に留まる場合には必要のない支出をすることになるリスクがあります。

また、単品での合意を行う場合には、追加で2件目以降の意見照会や開示請求がされる危険性もあります。

せっかく示談を行ったのに、2件目以降の請求がされた場合には、包括同意を追加で行うなど、余分に示談金を支払うリスクがあります。

いずれにしても早期での示談は危険性が高いので、早期解決としての示談はしない方が良いです。

この点、他の法律事務所等において、「早期の示談を行わなければ示談金が増額することになる」、「高額請求の訴訟を起こされる危険があるなど」と急かされ示談を行った結果、続けて2件目以降の請求が来てしまい追加の示談金がかさんでしまったとの事例も聞きます。

あくまで可能性ではありますが、過去にトレント利用した期間、頻度に応じて追加で開示請求がされる可能性は残っています。

また、2件目以降の請求がされる可能性は相当低いと言われ、今回の請求でトレントの問題が終了だと考えて示談を行ってしまったケースも後を絶ちません。

他方で、ログの保存期間を待って示談の判断を行う場合には、示談を行わなくても良いケース、示談を行う場合でも単品での示談でよいか、包括合意とすべきかの判断が可能となります。

なお、示談を行うべきかどうかは、「9 示談をするべきかの判断のポイントについて」において解説します。

⑵来訪した友人等がダウンロードを行っていた場合

この場合、直接ダウンロード行為を行った友人に制作会社との示談交渉の対応を行ってもらうべきです。

トレント利用による損害賠償の責任を負うのは、著作権侵害等のダウンロード行為又はアップロード行為を行った者であるため、契約者の知らない間にダウンロード行為が行われていた場合には、契約者が責任を負うことはありません。

そのため、制作会社との間で示談をするべきかどうかの判断は友人に委ねることになります。

この場合も同様に、プロバイダーのログの保存期間を待った上で、示談を行うべきかどうかを判断した方が良いでしょう。

仮に友人が示談を拒否した場合に、契約者が責任を負う、あるいは訴訟を提起され損害を請求されるのではと心配になる方もいらっしゃると思いますが、その場合においてもダウンロード行為に関与していない契約者が責任を負うことはありません。

示談を拒否された制作会社としては、今後、訴訟提起を行うにしても、ダウンロード行為により権利を侵害した友人に対して訴訟提起を行うことになります。

⑶従業員がダウンロード行為を行っていた場合

従業員が会社のネット回線を用いてダウンロード行為を行っていた場合も同様に、責任が帰属するのは従業員となるため、従業員に制作会社との示談交渉の対応を行ってもらいましょう。

この場合にも、制作会社との間で示談をするべきかどうかの判断は従業員に委ねることになります。

そして、この場合も同じように、プロバイダーのログの保存期間を待った上で、示談を行うべきかどうかを判断した方が良いでしょう。

従業員が示談を拒否したとしても、違法なダウンロードに関与していない会社が責任追及されることはありません。

この場合でも、友人が無断でダウンロードを行った場合と同様に、あくまで制作会社は責任追及(訴訟提起など)については権利侵害を行っていた従業員個人に対して行うことになります。

⑷自身でのトレントの利用はあるが、当該作品の記憶がない場合

PC上でのデータや履歴がない場合であっても、自身がトレントを用いてダウンロードした可能性や心当たりがあると考えるのであれば、示談を検討しても良いと思います。

ただし、7⑴で述べたとおり、プロバイダーのログの保存期間を待った上で、示談を行うべきかどうかを判断すべきです。

一方で、全く当該作品に対する記憶がない場合には、ダウンロード行為を行っていないことを理由として示談を断ることも選択肢です。

示談を断る場合には、「8 示談を断る場合のリスクについて」で詳述しますが、民事裁判を提起されることや刑事告訴され刑事事件となるリスクもあります。

この場合も、今後どのような対応を取るかは相手方が判断することにはなるものの、民事裁判の提起、刑事告訴の可能性は低いと思われます。この点についても次項で詳述しておりますので、ご参照下さい。

⑸そもそも自身にも家族等にもトレントの利用の記憶がない場合

そもそもトレント利用の記憶やPC上にも記録がない場合には、トレントの利用、ひいては作品のダウンロードも行っていないことを理由として、示談を断ってもいいと思います。

示談を断る場合には、「8 示談を断る場合のリスクについて」で詳述しますが、民事裁判を提起されることや刑事告訴され刑事事件となるリスクもあります。

今後どのような対応を取るかは相手方が判断することにはなるものの、民事裁判の提起、刑事告訴の可能性は低いと思われます。この点についても次項で詳述しておりますので、ご参照下さい。

8 示談を断る場合のリスクについて

身に覚えがない場合の製作会社への対処方法は、以上のとおりですが、示談することを検討する場合でも、早期に示談を行うのか、単品での示談か包括示談のどちらを選択するかは慎重に判断を行う必要があります。

まずは、落ち着いて整理した上で対応することが大事になってきます。

主なリスクとしては

⑴民事裁判に発展する

⑵刑事事件に発展する

などの法的措置が取られるリスクが考えられます。

以下、これらのリスクについて解説したいと思います。

⑴民事裁判に発展するリスク

民事裁判を提訴するかどうかは、制作会社の判断によることになります。

トレント利用による民事裁判は、制作会社がプロバイダーから発信者の情報開示を受け、発信者の氏名、住所を知った時から、3年間で時効となります。

その間は民事訴訟を提起される可能性があることになります。

訴訟を起こされた場合には、著作権侵害によって減少した作品の売上額(作品の利益額×他者によるダウンロード回数)に加え調査費用、弁護士費用が請求されることになります。

この意味では、裁判所の判決により、示談交渉時に提示された金額よりも高額な支払いを命じられる可能性もあります。

人気のある作品や新作の作品はダウンロード回数が伸び、損害額が高額になる傾向にあります。

他方で、自身がダウンロードした直後に当該作品を削除していたといった事情があり、裁判においてこの事情を主張し立証したケースで、請求額よりも減額された裁判例も存在します。

大阪地判令和5年8月31日

この事件は、トレントを利用し作品をダウンロードした原告が負う損害賠償責任の範囲(損害の金額)が争点となっていました。

制作会社側は、その原告に対し、その原告のダウンロード後、他のユーザーが当該作品をダウンロードすることを可能にし、かつ、原告がアップロードしたデータをダウンロードした第三者もそれを通じ永続的に作品がアップロードされることを理由として、アップロードされた以降に生じる全損害が範囲となると主張していました。

しかし、その原告は、ダウンロード後、数時間の間に当該作品ファイルを削除していた事情を陳述書にして裁判で提出したところ、裁判所は損害についてダウンロード後から削除するまでの間の範囲についてしか責任を負わないと判断しました。

その結果、損害の金額についてもその範囲の期間において他のユーザーがダウンロードすることで生じた利益部分に限定されるとしたのです。

こうした裁判例の判断は、トレントが記録媒体等からデータを削除すればアップロードされることはなくなる仕組みとなっており、原告が作品データを削除した以降は著作権侵害が不可能になる点においても妥当します。

上記裁判例を踏まえると、製作会社としても、裁判を行っても必ずしも請求額全額を回収できるわけではないため、費用対高価の観点から裁判を行う可能性は高くないと思われます。

もっとも、2024年10月23日現在において、制作会社側から数件の訴訟提起がされています。

当事務所においても、有限会社プレステージから特定のトレント利用者に対して訴訟提起がされています。

ただし、現在、訴訟を提起している制作会社は一部にとどまり、かつ、その対象もトレント利用者のうちのわずか一部に留まっています。

また、裁判例に関する詳細は、次の記事で説明をしています。

⑵刑事事件に発展するリスク

著作権侵害親告罪(著作権法123条1項本文)であり、親告罪の告訴期間は6月(刑事訴訟法235条本文)となっています。

そのため、制作会社が発信者の氏名、住所等の開示を受けて発信者を知った時点から6カ月間は、刑事告訴され罪に問われる可能性があります。

実際に、トレント利用により違法に音楽や漫画のアップロードを行っていたケースで逮捕された事例も存在します。

ただし、アダルトビデオ作品に関しても逮捕される可能性がないわけではないものの、現在、アダルトの関係で逮捕された事例は未だ確認されておりません。

なお、詳しくはトレント利用により逮捕された事例を解説している以下の記事をご参照ください。

9 示談をするべきかの判断のポイントについて

上記のケースにおいて、示談をするべきかの判断の際には、どのような事項を考慮すべきかを説明していきます。

⑴トレント利用や対象となっている当該作品に全く身に覚えがない場合

この場合、当該作品を違法ダウンロード又は違法アップロードしていないとして、示談を断る選択もあります。

その後、民事裁判や刑事告訴を行うかどうかは制作会社の判断となりますが、前記8「示談を断る場合のリスクについて」のとおり、民事裁判や刑事告訴のリスクは低いと考えられます。

⑵示談金を支払う余裕がない場合

示談を行いたくても、示談金を一括で支払うことができない場合には、分割払いでの示談を求めることも可能です。

他方で、示談金を支払うことが不可能な場合には、制作会社にその事情を伝えて、示談を断念する選択肢もあります。

このケースでも同様に、その後、民事裁判や刑事告訴を行うかどうかは制作会社の判断となりますが、前記8「示談を断る場合のリスクについて」のとおり、民事裁判や刑事告訴のリスクは低いと思われます。

また、示談金を支払うことが困難な事情の下では、相手方は民事裁判で勝訴したとしても回収が困難となる可能性もあり、民事裁判を起こされるリスクは軽減されると考えられます。

⑶当該作品のダウンロード行為を行ったものの、すぐに削除していた場合

当該作品のダウンロード後にすぐに削除していた場合、裁判例においても削除後の損害については責任を負わないとされています。

そのような事情がある場合、当該作品をダウンロードした時点から削除した時点までの間に生じた損害は限定され、損害額(実損害)は低額となる可能性があります

示談交渉の段階でも、この事情を相手方に伝え、提示された解決金額が実損害よりも高額であることを理由に示談を断ることも選択肢となります。

一方で、示談を断る場合には民事裁判を提起されるリスクがあることは前記のとおりですが、制作会社としては裁判において損害額が低額に限定されるリスクを踏まえて民事裁判を行うかを検討するため、そのリスクは相当低くなると考えられます。

仮に裁判となった場合でも、この事情を主張・立証することで損害はその限度に限られるため、示談交渉の時点で示談を断ることも選択肢となります。

⑷提示された実損害額が和解金額よりも低額に留まる場合

制作会社から提示された実損害額が、(最終的に意見照会がされた作品が一作品に留まる場合には)33万円ないし(複数の作品がある場合にはその合計額が)77万円を下回る場合には実損害を超える範囲については責任を負わないため、示談を断るのも選択肢です。

ただし、制作会社によっては、示談金額の減額の求めに応じないスタンスを取るところが多いように思われます。

こちらが提示額よりも低い金額での解決を提案しても、示談には至らないため、提示された示談金額での示談を受けるかどうか、上記リスク等を踏まえ検討する必要があります。

⑸他の利用者からの示談によって自身の責任が減少している可能性があること

トレントのシステム上、ダウンロードを行うと同時に、自動的に自身の端末を介して当該作品の一部をピースとしてアップロードされます。

そのため、他のユーザーがアップロードしている当該作品のピースが集まって、他のユーザーが当該作品をダウンロードすることが可能となります。

このように複数のユーザーが一体となって一つの作品のアップロード(著作権侵害等)が行われるため、複数のユーザーによる共同不法行為(民法719条1項)に該当します。

共同不法行為の場合、権利侵害を行った複数のユーザー全員が生じた損害に対して責任を負います。

他方で、その中の一部のユーザーが損害を支払うことで、支払われた限度において他のユーザーの責任も減少します。

トレント利用による制作会社からの通知は多数の者に送付されていることから、一部の者が既に示談金が支払われている可能性が高いといえます。

これにより、自身が負うべき責任は既に減少ないし消滅している可能性も考えられます。

このことを踏まえて、示談を断る選択も可能だと思います。

また、制作会社に対し、他のトレント利用者から解決金を受け取っているのか、受け取っている場合はその金額を尋ねて確認しようとしても、制作会社からの回答を得られない可能性が高いです。

示談を断る場合においても、前述のように民事裁判等のリスクはあるものの、民事裁判や刑事事件に発展する可能性は低いと考えられます。

10 法律事務所に相談するメリット

⑴事案や依頼者の意向に応じた最適な解決方法を提案

弁護士が意見照会書の内容を精査した上で、開示請求の見通しや適切な対応方法を知ることができます。

示談交渉の場合でもログの保存期間を踏まえた交渉を行い、最終的に依頼者にとって最適な解決方法を提案します。

⑵ログの保存期間を見据えた交渉が可能

ログ(誰のネット回線でダウンロード行為が行われたかの記録)の保存期間中、制作会社に示談交渉を待ってもらい、最終的に開示請求がなされた制作会社数、作品数、損害額等を踏まえた解決ができます。

これにより、

示談を行う方が良いのか

示談を行わない方が良いのか

を、適切に判断できます。

また、示談をする場合でも単品での示談で良いのか、あるいは包括的な示談で良いのかを判断できます。

金銭的にすべての著作権侵害における示談が困難であっても、より優先度の高いものを見極めた上で示談を行うことが可能です。

解決の目安としては、ログの保存期間の期間が目安となります。

ログの保存期間はプロバイダーによって異なります。保存期間は一般には半年とするプロバイダーが多く、長いと1年の期間を設けているプロバイダーもあります。

もっとも、最近はログの保存期間の時期を超過して意見照会が届く場合も少なくありません。

要するに、ログの保存期間内に情報開示請求が申し立てられたものの、情報開示請求の手続きやプロバイダーでの意見照会の事務処理に時間を要している場合もあり得ます。

⑶手続や対応の負担を軽減

弁護士に手続きや示談交渉を依頼することで、プロバイダーや制作会社とやり取りの窓口として弁護士が対応を行います。

弁護士が今後の見通しを説明し、対処方法を提案することで、依頼者の不安や心配、悩み、やり取りの負担も減らすことができます。

制作会社及びその代理人との示談交渉は、弁護士が行うため自宅に通知や連絡が届くことはありません。その点でも、心理的負担が解消されるでしょう。

11 まとめ

身に覚えがないトレント利用に係る発信者情報開示請求や意見照会が届いた場合、驚かれるかもしれませんが、冷静に対処することが重要です。

当事務所でも、身に覚えのないケースの相談も多数お受けしており、依頼者の力となれるよう日々、最新の判例や開示請求の情勢を注視して、これまでの経験に基づき個々の事情に応じた適切な解決方法をご提案しています。

事務所の解決実績に関しては、次のコラムをご案内します。

当事務所では、トレントを普段から頻繁に利用していたため、立て続けに意見照会が届いた方や、多数の開示請求が来ることが不安な方でも、弁護士費用を抑えられるおまとめプランも用意しています。

おまとめプランの詳細

・着手金:308,000円(税込)

報酬:308,000円(税込み)

今後、今後の開示請求が不安な方や費用を最小限に抑えたい方にはこのプランをお勧めします。

他方で、トレントを数回程度しか利用しておらず、作品も少数である場合には、制作会社ごとに契約する通常プランもございます。

通常プランの詳細

・着手金:220,000円(1社目)※2社目以降は1社あたり追加で55,000円

・報酬:示談にて解決の場合は110,000円

    示談を断って制作会社に請求を断念させた場合は165,000円

法律相談は、LINE、お電話、メールにて受付しております。

トレントでのトラブルを抱えている場合には、お気軽にご連絡ください。

タイトルとURLをコピーしました