実際にはネットカジノは利用していなかったのではないかとのことになっている阿武町の件ですが、「仮に阿武町から誤送金されたお金で実際にネットカジノを利用し、大勝ちしていた場合、差額は誰のものになるのか?」という問題があります。
この点、民法上の不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権の理屈では、阿武町は差額の返還等を求めることはできません。
すなわち、不当利得返還請求というのは、生じた損失に対して、利得の損する限度において返還する義務を負うものであり、ここでいう「生じた損失」というのは阿武町が誤送金をした4630万円となります。
そのため、仮にネットカジノで大勝ちし、4630万円以上の大金が被疑者に残されても、阿武町が返金を求めることができるのはやはり4630万円に留まるのです。
一応、民法704条では「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない」となっているので、利息の返還義務は生じます。が、これもやはりカジノで勝った額そのものの返還ではありません。
次に、不法行為による損害賠償ですが、これもやはり生じた損害に対する賠償を意味するので、阿武町が被った損害たる4630万円と弁護士費用程度が請求可能になる程度です。
ということなので、被疑者が仮にカジノで大勝ちしていた場合には、非常に納得し難い感情が市民、国民の中に広がることは明らかです。とはいえ、法治国家ですから、被疑者がカジノで勝った金を保有すること自体、違法と言えない以上は、強制的に奪うことは誰にもできないこととなります。