この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)
出身:東京 出身大学:早稲田大学
2008年に弁護士登録後、消費者案件(出会い系サイト、占いサイト、ロマンス詐欺その他)、負債処理(過払い、債務整理、破産、民事再生)、男女問題(離婚、不倫その他)、遺言・遺産争い、交通事故(被害者、加害者)、刑事事件、インターネットトラブル(誹謗中傷、トレント、その他)、子どもの権利(いじめ問題、学校トラブル)、企業案件(顧問契約など)に注力してきた。
他にも、障害者の権利を巡る弁護団事件、住民訴訟など弁護団事件も多数担当している。
どのようにして離婚を有利に進めることができるのか、置かれた状況毎、争点毎に解説をしています。これから離婚を考える際の参考にしていただければ幸いです。
1 離婚を有利に進めるために必要なことについて
いざ離婚を考えた時、夫もしくは妻との間で具体的に何をどのように話し合えばよいのか、具体的にどのように進めれば有利な結論を得ることができるのは、予め十分に検討と準備の必要があります。
感情的になって勢いで離婚を切り出したために不利な状況に陥ってしまったとか、不利な結論に至ってしまったというケースが少なくありません。
そこで、離婚を考えた際にはまず以下の点について検討ないし準備をして頂きたいと思います。
(1)離婚について相手方が応じるか否かの確認ないし見通し
(2)子どもがいる場合には自分は親権獲得を希望するのか否かの意思決定及び相手方が親権を主張してくる可能性の見通しの確認
(3)養育費として希望する金額及び裁判所の算定基準に基づき獲得し得る金額の確認
(4)面会交流についての自分の考えや相手方の意向の見通し
(5)財産として分与すべき内容や資料の確保
(6)慰謝料を請求する意思の有無と慰謝料事由の有無(仮に慰謝料事由があるとした場合の証拠の有無や確保)
以下、順番に説明をしたいと思います。
2 (1)離婚について相手方が応じるか否かの確認ないし見通し
自分は離婚をしたいが、相手方がこれに応じないとなればその後の離婚協議、離婚調停、離婚訴訟は困難を極めます。なぜなら現在の日本の法律では、一方が離婚をしたいと考えても他方がこれを望まない場合には、厳格な法律上の離婚原因という要件を具備しないとならないからです。
この点、法律上の離婚原因(民法770条1項)は以下のとおりです。
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
これによると、単なる性格の不一致が含まれないことは明らかですし、いわゆるモラハラがあれば当然に離婚ができるとも定められていません。
したがって、相手方が離婚について応じるか否かは離婚の話合いや手続きを進めるに際して極めて重要な意味を持ちます。仮に相手方が離婚に任意には応じないとなった場合には、上記の法律上の離婚原因を充足できるかどうかを慎重に検討し、仮にこれが認められるのであれば最終的には離婚訴訟で離婚が実現しますが、そうでない限りはそうそう簡単には離婚は実現しません。
実際の事例でも、相手方が離婚をしないと固執した結果、離婚することを諦めざるを得なかったケースが多々あります。
そのため、まずは相手方が離婚に応じるかどうかを確認するか見通しを立てておくことが重要です。
3 (2)子どもがいる場合には自分は親権獲得を希望するのか否かの意思決定及び相手方が親権を主張してくる可能性の見通しの確認
親権を取得するか否かは、その後の人生設計や子どもの生育に極めて重要な影響を及ぼします。
また、離婚に際していったん決まった親権を後に変更することは容易ではありません。さらに、離婚の協議中に「やっぱり親権を取得したい」と考えを改めたとしてもその時点では時すでに遅しで、相手方が親権者としてほぼ確定してしまっているということも多々あります。
そのため、離婚を考えた際には、自分自身の離婚の問題だけでなく、親権をどうするつもりなのかをしっかりと考えておくようにしてください。
当然、相手方が親権を争ってくるかどうかも重要です。離婚の話合いを始めた途端に相手方が子を連れて別居してしまうということも良くある話で、そうなるとその後の親権争いに重大な影響を及ぼすこととなります。
なお、別居の際に子を連れて出ることの問題性の有無などについては別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
また、よく男性は親権者になれないとか、親権争いでは女性が圧倒的に有利だとのことを聞き、夫が最初から親権を諦めるケースが少なくありません。しかし、最近では必ずしも常に妻が親権者ということばかりではなく、男性が親権を主張し、きちんとこれが認められるケースも増えています。
この点に関し、当事務所では男性が親権を獲得した事例をご紹介しています。
また、別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
4 (3)養育費として希望する金額及び裁判所の算定基準に基づき獲得し得る金額の確認
離婚を考え、別居になり、その後の生活を自分が中心として成り立たせないといけない場合に、子の養育のための養育費についても当然、月々の収入の一部として考慮することとなります。
この点、離婚した相手方が十分に養育費を支払ってくれるなら当然問題はありませんが、常にそうなるとは限りません。
相手方の収入や性格に照らし、具体的にいくらなら支払ってもらえるかを想定しておくことは離婚後の生活を安定させるためにとても重要なことです。
その際、相手方との間で任意に養育費の額を協議できない可能性がある場合には、裁判所の算定基準を参照してください。
というのも、相手方が何だかんだと言ったとしても最終的にはこの算定基準に基づき養育費の額が決まることが大半だからです。
当然、支払うことになる側としてもこの算定基準に基づき予想を立てておくことは重要です。
また、養育費は離婚後のものですが、別居した後、離婚に至るまでの間は婚姻費用の支払いを受ける(支払う)こととなります。婚姻費用は養育費よりも高額になるので、離婚に至るまで婚姻費用をどの程度受けられるかもまた離婚を考えた際に十分検討しておくことが良いと思います。
なお、婚姻費用と養育費の違いについては別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
5 (4)面会交流についての自分の考えや相手方の意向の見通し
子がいる場合には離婚をした後も子と別居親との面会が子の健全な生育のためにはとても重要です。
別居親としても我が子と時折、交流をすることはご自身のためにとても大切なことだと思います。
このような親子にとって当然、とても重要な面会交流ですが、最近では面会交流が十分もしくはまったく実施できておらず、トラブルになるケースが増えています。
また、面会交流自体は実施しているものの、実施のあり方を巡って激しく対立するケースも増えています。
そのため、別居をした際に自分はどの程度、どのような内容での面会をしたいのか、させたいのか、もしくはまったくさせたくないのか、したくないのかを事前に考えておくことはとても重要です。
同時に自分の希望に対して相手方がどのような対応をとるかも予想しておいた方が良いと思います。それは、こちらが希望した面会の方法などに相手方が反発し、調整に苦労するケースが多いからです。
面会交流についてはお互いの話合いで条件がまとまらなければ裁判所の調停や審判で結論を出すことは可能ですが、やはり結論に至るまでの道のりは容易ではありません。
また、面会の実施に合意が出来ても、お互いで日程の連絡調整ができないとか、受け渡しができないというケースも多く、そのような場合には第三者機関を用いることも視野に入れた方が良いかもしれません。
なお、当事務所では以下の第三者機関を用いることが多いのでご参照ください。
6 (5)財産として分与すべき内容や資料の確保
とにかくまずは別居だとか、離婚だとかという考えから、その後の離婚条件として重要になる財産分与の問題を後回しにし、別居後に財産分与の資料を用意しようと思ったが十分に揃わないとか、相手方の財産を十分に明らかにできないというケースがあります。
DVの事案などではたしかにとにかく身の安全を守る必要があるので財産資料を事前に確保しておくことは容易でないかもしれません。
そうでないケースであれば、やはり別居以前の段階で、離婚を切り出す前の段階で夫婦の財産資料、とりわけ相手方の財産資料を写真でもコピーでも良いので確保しておくことが大切です。
後になって「○○銀行の預金があったはず」となっても、相手方がこれを任意で出さない場合には話が前に進まなくなります。
ただし、調停や裁判になれば、たとえば、具体的にどの銀行のどの支店に口座があったかの推測さえつけば、調査嘱託という方法で金融機関から直接、財産資料の開示を受けることができます。
他方で、どの銀行か分からない、どの支店かわからないとか、どの証券会社かわからないというような場合には、照会先すら特定できないので裁判所を通じても明らかにすることができないのです。
そのため、財産資料の事前の確保はとても重要です。
なお、財産調査の方法については別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
7 (6)慰謝料を請求する意思の有無と慰謝料事由の有無(仮に慰謝料事由があるとした場合の証拠の有無や確保)
離婚に際して慰謝料を求めたいと希望する方はとても多いです。
しかし、離婚慰謝料が認められるケースは決して多くはなく、仮に認められるとした場合の典型例は不貞やDVの場合です。
この点、具体的にどのような場合に離婚の慰謝料が認められるかや、その相場については別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
仮に離婚慰謝料が認められそうな状況であれば、今度はそのための証拠をきちんと集めることが大切です。せっかく慰謝料事由があるのであれば、後でこれを相手方が否認したとした場合に備えて証拠で裏付けるべきだからです。
これもやはり離婚を切り出す前にしっかりと準備しておくことが大切だといえます。
8 まとめ
離婚はある日突然、降りかかることもありますが、多くのケースでは事前に離婚に向けて自分の考えが徐々に固まっていくことが大半だと思います。
そうであるなら、単なる「離婚」という結論のみならず、「有利な離婚」に向けて、少しずつ準備をするべきです。そのための具体的な項目は上記のとおりですが、すべてを完全に有利に結論付けることは、それはそれで容易ではないと思います。なので、上記の条件の中で、「自分にとって重要な条件」を考えておいて頂きたいと思います。
執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所