1 離婚慰謝料が認められるケースについて
離婚に伴い、離婚慰謝料を相手方配偶者に求めたいというケースやお悩みは多々あります。
それまで円満だった夫婦生活が、相手方配偶者の責任により離婚という結末を迎えざるを得ない以上はそのことにより被った精神的苦痛に対する賠償を慰謝料という形で請求したいと考えるのはとても自然なことです。
しかし、夫婦婚姻共同生活は、もともと夫と妻の協力により初めて成り立つものであること、婚姻共同生活は通常、相当長い年月を共にすることを念頭においていること(結婚の際に、「5年経ったら離婚しましょう」と約束する夫婦はおらず、通常は結婚する=終生を共にするつもりです。)、長い婚姻生活の中では楽しいこともあれば辛いこともあるのが通常で、その中で夫婦としての考え方の違いから喧嘩になることも少なくないこと、そうした日々の積み重ねの結果、お互いの気持ちが離れ、最終的に離婚に至ることが少なくないことから、離婚するに至れば当然に他方配偶者に対して慰謝料が認められるという関係にはありません。
そうすると、一体どのような場合であれば離婚に伴う慰謝料を請求できるか、支払ってもらえるかですが、実務上は「離婚に至った主たる原因が一方の配偶者にある」と言えるかどうかで判断されています。
すなわち、夫婦婚姻共同生活というのは、お互いの思いやりや努力によって成り立っているところ、これをどちらか一方が壊したような場合には、離婚慰謝料を認めましょうということです。
言い換えると、夫婦関係の中では途中で波風が立つこともあるところ、お互いに至らぬところがあるような場合にまで離婚慰謝料を認めることはしないということです。
そのため、離婚に伴い慰謝料を請求したいケースはとても多く、かつこれを求める方もとても多いですが、実際上は離婚慰謝料を獲得することは容易ではありません。
2 離婚慰謝料が認められる典型例について
他方で、離婚の原因がたとえば浮気、不倫にある場合には離婚に至った原因としてはっきりとしています(浮気や不倫を認めているとか、これらの明確な証拠があることを前提にしています)。他にも暴力があったという場合も同様です。
したがって、これらを原因として離婚に至るのであれば離婚慰謝料の請求が可能です。その際、たとえば浮気、不倫があったために離婚をすることになったのであればおおよそ150万円程度の慰謝料が認定されることが多いです。
そして、浮気・不倫によって離婚をすることになった場合には、離婚の慰謝料イコール不倫の慰謝料と考えることが可能であり、そうすると結局は、離婚により配偶者に求める慰謝料はいわゆる不倫の慰謝料と実質的にほぼ同視できます。
なので、浮気・不倫を理由とした離婚の慰謝料は、不倫の慰謝料の算定基準に基づき判断されるのが通常です。この点、不倫の慰謝料については別のページに詳細に説明していますのでそちらをご参照ください。
3 離婚慰謝料の相場について
以上のとおり、離婚慰謝料を認めてもらうことは容易ではありませんが、一方でこれが仮に認められるとしたら具体的にいくらぐらいになるかも気になるところです。
この点に関しては、数十万円から数百万円の範囲で算定されることが多い傾向にあります。
離婚原因を裏付ける証拠の有無や、離婚に至る事情ないしケースによってかなり幅がありますが、離婚慰謝料が認められることとなった原因や婚姻期間、支払い側の経済力によりどの程度の精神的苦痛を被ったかなどによって千差万別となることから金額にも開きがあると思ってください。
その際、婚姻期間が長期間であればあるほど高額になる傾向にあること、支払う側の経済力(収入)が高額であればあるほどやはり慰謝料も高額になる傾向にあります。
以上を踏まえ、次項以下では、離婚原因ごとに離婚慰謝料が認められるか否かを整理してみたいと思います。
4 離婚原因毎の離婚慰謝料の当否と金額について
(1)性格の不一致と離婚慰謝料について
性格の不一致を離婚原因とするケースは少なくありません。
しかし、上記のとおり、夫婦婚姻共同生活を送る中で、性格の不一致により喧嘩になるなどということはもともと婚姻当初から想定されていたことであること、性格の不一致自体が当然には法律上の離婚原因とは認められていないことから、性格の不一致を理由とした離婚慰謝料の請求は困難だといえます。
したがって、性格の不一致を理由とした離婚慰謝料はまず裁判所は認めないと思ってください。ただし、当然のことではありますが、離婚協議の際に交渉をし、相手方が慰謝料を支払うと認めた場合は別です。
なお、性格の不一致を理由とした離婚請求の当否は別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
(2)夫又は妻による借金と離婚慰謝料について
夫、又は妻による借金が原因で家計が回らなくなり、離婚を余儀なくされた場合に、妻又は夫から離婚を求め、離婚慰謝料を請求するケースも少なくありません。
この場合、家計を顧みない、収入に釣り合わない支出を繰り返し、かつ借金を続けるようであれば法律上の離婚原因が認められることでしょう。
借金の問題なのでいついくら借金をしたのかの証拠もハッキリととれるのでその意味でも主張しやすい類型と言えるかもしれません。
では、離婚慰謝料まで認められるかですが、裁判例の中にはこれを肯定しているものが複数見受けられます。その場合には、100万円から500万円程度の認定例がありました。
このように、借金による離婚とその慰謝料請求の肯定例がありますが、問題は借金をする人から具体的にどのように、認定された慰謝料を支払ってもらうかということです。
借金の支払い自体が困難な中で果たして実際問題、離婚慰謝料をどう回収するかは別の問題となります。
(3)浮気、不貞行為と離婚慰謝料について
夫、又は妻による浮気や不倫、不貞行為は典型的な離婚原因です。当然、慰謝料請求も認められます。その場合の慰謝料額などは別のページに詳細に説明していますのでそちらをご参照ください。
なお、不倫相手に対して請求する慰謝料と、自分の配偶者に対して請求する慰謝料とは、共同不法行為として連帯責任になるため、不倫相手からであろうと、自分の配偶者からであろうと、客観的に算定されるもしくは当事者間で合意をした慰謝料額の支払いを受ければそれで終わりとなります。言い換えると、不倫相手と自分の配偶者からとの二重取りを裁判所は認めていませんので注意が必要です。
具体的には、不倫による慰謝料が仮に200万円とされるケースで、不倫相手から200万円の支払いを受けた場合には、不貞慰謝料はそれで尽きるので、不貞慰謝料については別途、自分の配偶者から支払ってもらえる金額はないということです。
これとは別に、不貞以外にも離婚原因があるような場合(たとえば不貞の他にも暴力があったなど)であれば、不貞の慰謝料200万円とは別に、暴力の慰謝料が請求可能ですので注意が必要です。
(4)モラハラを理由とした慰謝料請求について
昨今、その被害が多く相談されるモラハラとその慰謝料請求については、別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
モラハラは、程度問題でありどの程度のモラハラであれば慰謝料の対象になるかという問題と、そもそもモラハラとして主張する個々の行為について証拠があるのかないのかという問題があるので要注意です。
加えて、モラハラ加害者は得てして自分の加害行為を認識していない、もしくは自己正当化が強いですからモラハラ慰謝料を交渉により支払ってもらうことは相当困難だと言わざるを得ません。
5 まとめ
以上のとおり、離婚の際に何を原因にいくらの離婚慰謝料が認められるかどうかは非常に難しい判断が求められます。
離婚に際して慰謝料を支払ってもらわないと納得できないのは、ある意味、心情としては当然のことだといえます。
とはいえ、慰謝料請求を徹底して求めるために離婚という結論が先延ばしになってもよいのかという問題も考える必要があります。そのため、ご自身のケースが離婚慰謝料の対象となるのかどうか、これをどのような方法でどこまで徹底して求めるのかどうかをの判断が重要となります。
したがって、離婚の際の慰謝料の問題でお悩みの際にはまずはご相談されることをお勧めいたします。
執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
香川県高松市に香川オフィスを開所
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
香川県高松市に香川オフィスを開所