身に覚えのない発信者情報開示請求への対応について

不意に届いたプロバイダーからの意見照会について、身に覚えがない場合、どのように対処すべきか、ケース別に解説をしています。

1 発信者情報開示請求とは

発信者情報開示請求とは、特定電気通信を通じて発信者から侵害情報を特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録等されたために、自己の権利を侵害された者が、特定電気通信役務提供者に対し、発信者の氏名、住所などの情報の開示を求めることです。

非常に分かりにくいので簡潔にいうと、「インターネット上で権利侵害投稿をされた人が、プロバイダーに対して、当該投稿に用いられたインターネット回線契約の契約者の氏名、住所の開示を求めること」と理解して頂いて構いません。

この発信者情報開示請求の根拠は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダー責任制限法」)の5条に規定があります。

そして、この法律によって自分の権利を侵害された人は、プロバイダーに対して、プロバイダーとの契約をしている者の氏名、住所の開示を受けることが可能となるのです。

ここで注意をしたいのは、発信者情報開示請求を受けたプロバイダーは、プロバイダーと契約を締結している人の氏名、住所などの情報を持つ限りであり、実際に問題となっている投稿を誰が投稿したかの情報までは持っていないということです。

すなわち、インターネット回線を、プロバイダーとの契約者以外の人物(例えば家族が家庭内のインターネット回線を用いて侵害情報投稿をした場合など)が用いて問題となる権利侵害投稿をすることは当然にあり得るところ、プロバイダーとしては実際の投稿者の特定まではできないということです。

そのため、発信者情報開示請求に対しては、プロバイダーからは契約者の情報が開示されることとされています。

2 発信者情報開示請求の手続の流れについて

インターネット上に自己の権利侵害情報の投稿を知った人は、発信者情報開示請求のために以下のとおりの手続きをすることとなります。

 (1)投稿された投稿先(たとえばインターネット上の掲示板への投稿であれば当該掲示板の管理者)に対して、権利侵害投稿がなされた際に用いられたIPアドレスの照会もしくは開示を求める仮処分

 (2)(1)により判明したIPアドレスをWHOIS検索にかけて、当該IPアドレスを割り当てられているインターネットサービスプロバイダーを特定する

 (3)(2)により明らかになったインターネットサービスプロバイダーに対して、一般社団法人テレコムサービス協会の書式を用いての発信者情報開示請求

 (4)(3)により、発信者情報開示請求を受けたインターネットサービスプロバイダーから、契約者に対して開示に応じるか否かの意見照会

 (5)(4)により開示に同意するとの回答があった場合もしくはインターネットサービスプロバイダーの独自判断により権利侵害の明白性と発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると判断された場合には、契約者情報の開示(任意開示)

 (6)(4)により、開示に同意しないとの回答があり、かつインターネットサービスプロバイダーにおいても権利侵害の明白性などの要件を具備していると判断できない場合には、権利者からインターネットサービスプロバイダーを被告とした発信者情報開示請求訴訟の提起

 (7)(6)の結果、裁判所から開示請求に対する認容判決が出た場合には、判決確定後にインターネットサービスプロバイダーから改めて契約者情報の開示

3 身に覚えのない発信者情報開示請求がなされる理由について

発信者情報開示請求の根拠とその手続きの流れは以上のとおりです。

2項で説明した手続きの流れの中で、(4)の段階においてインターネットサービスプロバイダーとの契約者に対して発信者情報開示請求がなされていることが明らかとなります。

この点、自分自身は何ら身に覚えのない発信者情報開示請求であるため、どのように対応をすべきか躊躇することがあると思います。

そして、どうしてこのような事態が生じるかをケースに分けると以下のとおりです。

 (1)自分がインターネットサービスプロバイダーの契約者であるものの、その回線を用いて家族や知人、友人、会社の従業員、その他の人物が権利侵害情報を投稿している場合

 (2)自分が投稿者であるものの、当該投稿を自分がしていることにまったく気が付いていない場合

 以下、順に説明をします。

4 (1)自分がインターネットサービスプロバイダーの契約者であるものの、その回線を用いて家族や知人、友人、会社の従業員、その他の人物が権利侵害情報を投稿している場合

たとえば、自宅にインターネット回線を引いている場合には、父親の名義であったりすることがありますが、この回線を用いて息子や娘がインターネットを使い、掲示板などに侵害情報を投稿していることがあります。

この場合には、インターネットサービスプロバイダーからの意見照会は父親宛てに届くため、父親からすると何でこんなものが届いたのか理解ができないこととなります。

他にも、自分の携帯を友人に貸した際に友人が投稿をしたとか、会社名義の携帯で従業員が投稿したという場合も同様です。

さらには、飲食店やフリースペースなどでWi-Fiを提供している場合には、Wi-Fiに接続して当該侵害情報を投稿されると、意見照会はWi-Fiの契約者に届きますのでまったくどこの誰が投稿したのか見当もつかないという事態に至ります。

したがって、このような場合には身に覚えのない発信者情報開示請求となってしまうのです。

そして、意見照会に対しては、家族や従業員による投稿だと判明しない限りは、開示に対して不同意として回答することとなります。

5 (2)自分が投稿者であるものの、当該投稿を自分がしていることにまったく気が付いていない場合

これは、今どき利用者の多いビットトレントシステムなどのP2Pシステムを用いたアップロード行為をいつの間にかしてしまっている場合が典型です。

ビットトレントシステムなどのトレントシステムは、ダウンロードをする行為とアップロードする行為がある意味でセットとなっており、アップロードのみを自由に制御することは通常はできません。

しかし、このようなビットトレントシステムの仕組みを理解しないままに利用をしている人も少なくありません。

その結果、発信者情報開示請求が届いて驚き、対処に困るという状態に陥るのです。

しかし、過失であろうと民事上の責任があることは明らかなので、よほどのことがない限り発信者情報開示請求を逃れることは容易ではありません。

なお、ビットトレントシステムなどのファイル共有ソフトを用いた場合の民事上、刑事上の責任については別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

6 身に覚えのない発信者情報開示請求への対処について

以上のように、身に覚えのない発信者情報開示請求がなされることは実は案外少なくありません。

そして、家族や身内、従業員による投稿かどうかが判明するようであれば、積極的に同意の回答をすることを検討して良いと思います。

また、開示請求を受けて初めてビットトレントシステムによりいつの間にかアップロードしていたと気が付いた場合でも同様だと言えます。

したがって、身に覚えのない発信者情報開示請求がなされた場合にはいったん落ち着いて周囲の者や自分の使っているシステムに問題がないかを確認することが大切になります。

【2023.4.20追記】

ここ最近、本件(ビットトレントを通じたアダルトビデオのアップロードに伴う製作会社からの発信者情報開示請求や、プロバイダーからの意見照会書の受領を前提としたお悩みやトラブル)に関するご相談が非常に増えております。

その理由としては、ビットトレントの利用者が相当多数に及ぶこと、ひとりの利用者あたりで通常は相当数の動画をダウンロードしたりアップロードしていること、アダルトビデオの製作会社は多数あるところ、どの製作会社も一律にビットトレント経由での違法アップロードに徹底した対応をとるスタンスをとっていることなどという点にあります。

このような中、意見照会書を受領した利用者の方は、周囲に相談できる状況には通常なく、不安を覚えネットで情報収集をすることが多いと思います。ネット上では当事務所を含め、複数の法律事務所による多数の記事があり、それらの情報が利用者の方の役に立つことはもちろんです。

また、弁護士による記事以外では5ちゃんねるのスレッドに多数の投稿があり、これもまた情報収集のためには一定の意味を持つものと考えられます。

とはいえ、これらネット上での情報収集のみですべての案件に適切な対応ができるかというと限界があるのも事実です。そのため、当事務所を含め、本件に関しては現在、多数の相談が寄せられているのが実情のようです。

そうした中、岡山県と香川県に拠点を持つ当事務所では、現在、岡山県内や香川県内に限らず、中国地方全般(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)、四国地方全般(徳島県、香川県、愛媛県、高知県)にお住まいの方からのご相談も広く承っております(その他の地方のご在住の方からももちろんお受けします)。

その際、遠方のため事務所まで足を運べない方でも、zoom相談にて対応しておりますので、ぜひ一度ご連絡いただければと思います。

相談予約などの連絡先は以下のURLからアクセス願います。

お問い合わせ・ご相談
受付・ご相談時間、法律相談費用、お問い合わせ・ご相談・来所予約のご案内です。

ビットトレントによるアダルトビデオのアップロードに関する問題は、日々状況が変化しています。ネットで得られない情報と最善の解決のために、弁護士へのご相談をご検討ください。

執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)

1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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