弁護士の仕事は毎日が「説得」と「納得」の連続です。文章や口頭のやりとり、説明などを通じて相談者や依頼者、相手方や裁判所を説得することが常です。
そして、その説得の結果、相談者や相手方、裁判所などが「納得」してくれれば弁護士が想定した結論へと大きく近づきます。
このように説得と納得は裏腹のようですが、それぞれの本来の意味の違いには大いに注意が必要です。
まず、説得とは「よく話してわからせること、説き伏せること」を言います。
次に、納得とは「他人の考えなどを理解し、もっともだと認めること」です。
説得というのは、たとえば弁護士が持論等を展開し、時に力説し、話の聞き手を説き伏せるという作用が含まれます。
他方で、納得というのは、話の聞き手が得心する点に重点があります。
すなわち、説得の主体は話し手であり、納得の主体は聞き手という大きな違いがあるのです。説得をする側は理屈に基づきあれこれと論破を試みますが、その結果、聞き手が納得するかどうかはあくまで聞き手次第なのです。
当然、理屈に基づく説明で納得する聞き手もいれば、そうでない聞き手もいます。
このことを良く理解せずに、単に「理屈や事実に基づき説得すれば納得するはずだ」と考えると、聞き手の理解を得られず単に独り善がりの弁護士となってしまいます。
なので、相手を納得してもらうためには、単に理屈等だけに基づいて話をすれば良いわけではないのです。むしろ、あれこれと理屈に基づく説得を試みる前に、聞き手の考え、思考、求めるもの、性格、置かれた状況などを分析し、「どう話をしたら納得してもらえるか?」を先に考えて分析することが大切です。
そして、そのような分析が成功すれば、上記のような力説型の説得は実は必要ありません。
むしろ、相手の話を聞いて、うんうんと頷いて、少しだけ理屈を説明し、置かれた状況に照らして取り得る方法やメリットデメリットを話すだけで最後はすんなりと納得してくれるものです。
これは太陽と北風のようなもので、相手を納得させようと理屈を語り、説得を試みるのは北風式、そうではなく、相手の置かれた状況や求めるものを踏まえて優しく接するのは太陽式です。
法律の世界で仕事をしていると、「いつも理屈に基づき動いている」「正論ばかり言われる」と思われるかもしれませんが、実はそうでなく、「どうしたら人が納得するか」に基づき、その相手に応じた話し方をすることが一番重要なのです。
その意味で優れた弁護士は実はあまり「説得」はしません。聞き手との自然なやりとり、穏やかな説明だけで最後は聞き手はすんなりと「納得」してしまうことが大半なのです。
なので、あなたの相談した弁護士、依頼した弁護士があなたを「説得」しようとばかりするのであれば、弁護士選びを考え直した方が良いかもしれません。
いかがでしょうか?
説得と納得の違いを「納得」頂けたでしょうか。