熟年離婚を弁護士に相談することの意味やメリットについて


この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)

出身:東京  出身大学:早稲田大学
2008年に弁護士登録後、消費者案件(出会い系サイト、占いサイト、ロマンス詐欺その他)、負債処理(過払い、債務整理、破産、民事再生)、男女問題(離婚、不倫その他)、遺言・遺産争い、交通事故(被害者、加害者)、刑事事件、インターネットトラブル(誹謗中傷、トレント、その他)、子どもの権利(いじめ問題、学校トラブル)、企業案件(顧問契約など)に注力してきた。
他にも、障害者の権利を巡る弁護団事件、住民訴訟など弁護団事件も多数担当している。

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*この記事の内容を分かりやすく動画で解説しています。複雑な記事の理解にお役立てください。


社会の高齢化に伴い、高齢になってからの離婚の割合が増加しています。とりわけ女性の立場でどのようにしたら有利に離婚ができるかの参考にしていただければ幸いです。

1 熟年離婚とは

(1)熟年離婚における「熟年」の意味について

日常的に耳にすることのある「熟年離婚」という言葉ですが、具体的にその意味を明らかにしようと思うと案外と難しいものです。

この点、「熟年」という言葉が、人について「成熟した年代」を意味するところ、これを年代に引き直すと中高年くらいを指すものと捉えられています。

そうすると、「中高年」とは、何歳くらいを指すものかということになりますが、40歳代以上を指すとされています。

このような整理に従うと「熟年離婚」とは結局、40歳代以上の離婚を指すことになりそうですが、どうにもこれは世間一般に言うところの「熟年離婚」のイメージに合致しそうにありません。

すなわち、世間一般としては、熟年離婚と言えば長年連れ添った高齢の夫婦が離婚を選択することと考えられているので、40歳代以上であればすべて「熟年離婚」と言われるとスッキリしないのです。

(2)熟年離婚と婚姻期間について

このように、40歳代以上をすべて熟年離婚と言うと、世間の人々が感じる熟年離婚のイメージに合致しないことから、離婚をすることとなった夫婦の年齢ではなく、婚姻期間に照らして判断をすることの方が分かりやすいかと思います。

その意味では、「熟年離婚」とは、概ね婚姻期間が20年を超える夫婦が離婚を選択することという定義の方が分かりやすいかもしれません。実際、熟年離婚の定義を婚姻期間が20年を超える夫婦の離婚だと説明するものも少なくありません。

とはいえ、この定義に従った場合でも、20代で結婚をし、40代で離婚をすることとなった場合にも「熟年離婚」になるのかということとなります。

そして、この場合にもやはりいわゆる世間一般で受け止められているところの「熟年離婚」のイメージには合致しません。

(3)熟年離婚の本当の意味について

以上のとおり、「熟年離婚」と一言で言っても、その内容を端的に表すことは難しいのですが、結局のところは、「長年連れ添った夫婦が相当の年齢に至った上で離婚すること」と考えておけば良いのではないかと思います。

【熟年離婚の意味】

一律の明確な定義はない

長年連れ添った夫婦が相当の年齢に至った上で離婚することと捉えれば分かりやすい

2 熟年離婚の原因と離婚の可否

(1)熟年離婚の原因について

熟年離婚も結局は離婚の問題なので、それぞれに離婚に至る原因があります。とはいえ、熟年離婚に限った離婚原因についての裁判所や国による統計は取られていません。そのため、熟年離婚に固有の離婚原因を統計的に明らかにすることはできませんが、当事務所における過去の相談事例に照らすと以下のような傾向があることは明らかです。

(1)性格の不一致

これは、長年の夫婦生活の中で少しずつ積み重なってきた価値観や性格の不一致が積もり積もって熟年離婚の原因となるパターンです。

お互いが若いころには我慢が出来たことも、年齢を重ねると我慢ができなくなったり、間に入る子どもが実家を離れて暮らすようになったりして問題が顕在化するようです。

とりわけ、男性は女性よりも年齢を重ねる毎に自分の価値観が強く形成され、頑固になる傾向にあるため、性格の不一致を理由として熟年離婚を切り出すのは妻側であることが多いと言えます。

(2)暴力を振るう、乱暴な言葉を投げかける

昨今では暴力(DV)は離婚原因の中でも減少傾向にありますが、それでも高齢男性の中にはやはり未だに暴力を振るったり、乱暴な言動を妻にしたりするケースが少なくありません。

このようなケースでは、夫が定年をし、自宅にいる時間が増えたためにそれ以前よりも暴力を受けたり乱暴な言葉を投げかけられたりする機会が増えたことをきっかけにして、妻が離婚を切り出すことが多いと言えます。

(3)不倫

高齢であるからと言って不倫がないということはありません。70代、80代であっても妻以外の女性に興味をもって不倫関係を持つケースというのは少なくないのです。

そして、ふとしたことをきっかけに、夫の不倫を知り、妻が離婚を切り出すことが多いのです。

(4)葬式、相続問題

熟年離婚に至るケースでは、10年以上の別居期間を経てやっと離婚に至るという割合が非常に高くなります。すなわち、厚生労働省の「令和4年度離婚に関する統計の概況」によると、夫が60歳から64歳まで年齢の場合には、10年以上の別居の割合が10%を超え、以後、年齢を増すごとにこの比率が高くなり、15%を超えるのです。

そうした中、別居に留まらず、きちんと離婚を成立させておきたいと希望する方が相当数います。そのような方が長年の別居を経て、いよいよ離婚に踏み切る理由は、自分の配偶者が死んだ際に葬式をしたり、相続をしたりしたくないと考えるからです。

【熟年離婚の原因として多いもの】

・性格の不一致

・暴力、乱暴な言動

・不倫

・葬式、相続の問題

(2)熟年離婚と離婚の可否について

ア 法律上の離婚原因について

熟年離婚の原因として多いものは上記のとおりです。そして、これらを離婚原因として協議離婚や離婚調停、離婚訴訟を争うこととなりますが、仮に協議離婚でまとまらない場合、調停離婚でもまとまらない場合に離婚訴訟において裁判所は離婚を認めてくれるのかという問題があります。

言い換えると、離婚を切り出したものの、相手方が応じなかった場合に強制的に離婚ができるのかという問題です。

この点、法律上の離婚原因(離婚裁判により離婚が認められるための要件)は、民法770条1項に定めがあります。

【民法770条1項】

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

1 配偶者に不貞な行為があったとき。

2 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

3 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

4 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

5 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

条文では、「次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。」とありますが、これは、1号から5号の事由があれば離婚を裁判所が認めてくれるという意味としてご理解ください。

イ 暴力や不倫と離婚の可否

そして、たとえば夫の暴力は、もはや婚姻を継続し難い重大な事由として5号に該当しますし、不倫は1号に該当します。

ウ 性格の不一致と離婚の可否

では性格の不一致はどうでしょうか。

この点、性格の不一致は、単に性格の不一致があるというだけでは5号における「婚姻を継続し難い重大な事由」には該当しないとされています。

すなわち、夫婦の性格が異なること、不一致であることは大なり小なり当然にあり得ることなので単に性格の不一致というだけでは裁判所は離婚を認めないのです。

とはいえ、性格の不一致が著しい場合にまで婚姻生活を強制することも望ましくありません。

そこで、性格の不一致については、性格の不一致の程度が著しく、お互いにこれ以上努力をしても歩み寄りが困難で、婚姻生活を維持し難いほど関係が破たんしていることなどが認められれば離婚が可能とされています。

したがって、仮に熟年離婚を考えている場合に、離婚原因が性格の不一致の他にないようでしたら、このような性格の不一致の程度が著しいことの証明の可否が重要となってきます。

なお、性格の不一致による離婚の可否は別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

 

エ 葬式、相続問題と離婚の可否

さらに、葬式や相続問題を避けたいがために離婚ができるかというとこれは無理だと言わざるを得ません。

とはいえ、上記のとおり、これらの問題を理由に離婚を考えるケースでは、すでに長年の別居をしていることが多いです。そして、別居は相当年数を経ると離婚原因となるとされていますので、別居をもって離婚をすることが可能です。

この点、実際にどの程度の別居であれば離婚が可能かは婚姻期間にもよりますが、3年ないし5年と考えられており、その程度の別居期間を経ているようであれば離婚が認められる可能性が十分にあるといえます。

【熟年離婚と離婚の可否】

・暴力(DV)の場合;当然に可

・不倫:当然に可

・性格の不一致:不一致の程度が著しい場合に限り可

・葬式、相続問題:長年の別居になっていれば可

3 熟年離婚と財産分与

(1)熟年離婚の際の財産分与の注意点

熟年離婚の際に、離婚に伴う財産分与を進めるに際しては注意が必要です。

というのも、婚姻期間が長いことから夫婦の財産が多種多様なものが築き上げられていること、お互いの財産を十分に把握しきれていないこと、一定程度の特有財産があり得ることなどという事情があるからです。

(2)多様な夫婦の財産とその把握について

婚姻期間が長くなると、使っている預金口座や証券会社の口座が複数になったり、様々な保険に加入をしていたりします。また、途中で転職をしていると、前の会社を退職する際の退職金はどこにいったのかとかという問題が生じることもあります。

さらには、婚姻中に病気や事故に遭い、保険金が支払われていることもあるでしょう。

まだ定年を迎えていない場合には、定年により受け取る予定の退職金が多額に及ぶこともあり得ますが、その詳細を把握していないことも少なくありません。

さらには、へそくりをしていたり、いつの間にか子ども名義で多額の貯金をしていることもあり得ます。

したがって、熟年離婚の場合には、若年離婚の場合と比較して、多様な財産がお互いにあり得ることを念頭に、慎重に財産内容の精査をしないとなりません。

(3)熟年離婚と特有財産について

婚姻期間が長くなると、婚姻前に築いた自分の財産(特有財産)がいくらかあったとしても、それがいくらくらいだったかの証明が難しいことが大半です。それは、婚姻時の自分の当時の預貯金通帳などが古くてもう処分してしまっていたりするからです。

当然、取引履歴を取り寄せようとしても古すぎで金融機関にも残されていません。

これとは別に、婚姻期間中に自分の父母が亡くなるなどして相続をしていることがあります。これもやはり特有財産なので、夫婦の財産とは区別をしておくことが大切です。

仮に区別をせずに家計と一体となってしまうと、いざ離婚の時に特有財産の主張が通らないことがありますので注意が必要です。

4 熟年離婚と慰謝料

では、財産分与とは別に慰謝料を請求することは可能でしょうか。この点、暴力があった場合、不貞があった場合にはいずれも慰謝料の請求が可能です。

いずれのケースでも暴力の内容や期間、不貞の内容や期間などが慰謝料額に影響をしますが、100万円以上の慰謝料は当然で、重大なケースであれば300万円程度に至ることもあり得ます。

また、モラハラの場合にも同様に慰謝料の請求は可能です。とはいえ、立証の問題があるのでその点の注意が必要です。

なお、モラハラを理由とした慰謝料の請求の可否は別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

他方で性格の不一致の場合には慰謝料請求は難しいと言わざるを得ません。すなわち、離婚に伴う慰謝料請求は、離婚に至る主たる原因がどちらか一方にあることが必要ですが、性格の不一致の場合にはお互いの問題なので慰謝料事由とされていないのです。

【熟年離婚と慰謝料請求の可否】

・暴力・不倫:当然に可

・モラハラ:可

・性格の不一致:不可

5 熟年離婚のために必要な準備について

このように、熟年離婚の際には、離婚の可否、財産分与の内容、慰謝料請求の可否などを巡り配偶者と相当の協議をしないとなりません。当然、協議がまとまらなければ調停をすることとなりますし、それでもまとまらなければ離婚裁判をしないとなりません。

当然、資料は膨大になりがちですし、これまでの長年に渡る恨みつらみも相当大量になるはずです。苦しかったこと、辛かったことを裁判所の調停委員や裁判官に訴え、理解してもらうためには周到な準備が必要です。

とりわけ、離婚の可否を巡っては離婚原因に相当するエピソードの整理が、財産分与を巡っては夫婦の財産や自分の財産の整理が、慰謝料を巡ってはこれまでされてきた出来事の整理が必要です。

これらは急には用意できるものでないので、離婚を考えたと同時に徐々に準備をしていくようにしてください。

そして、離婚を切り出すよりも前に必ず離婚に詳しい弁護士に相談をし、資料や内容の過不足を確認してもらってください。

そのような準備が納得の離婚に必ずつながるからです。

6 熟年離婚を弁護士に依頼するメリット

熟年離婚は非常に苦労の多い問題です。

そもそも、相手方に離婚を切り出すこと自体がしづらい(長年連れ添っており、相当の情があるのは事実であったり、配偶者の親族には今でも良くしてもらっていたりということが少なくない)とか、いざ離婚を切り出してうまく話しが進むのか(自分の配偶者は頑固者で自分が離婚を切り出しても聞く耳を持たず話合いにもならないということが少なくない)とか、離婚に応じるとの返事はもらったがいざ財産の分け方の話になるとまともな話合いにならないとかということが良くあります。

そうした問題をひとつひとつクリアするために弁護士の力を借りることはとても意味が大きいと思います。

自分からは言い出しにくいことでも代理人を通じてきちんと伝え、あいまいに終わらされそうな離婚条件もきちんとまとめてもらうことができるからです。

そうしてしっかりと離婚に向き合い、長かった婚姻生活に終止符を打ち、残りの人生を充実した時間にするために、弁護士に依頼をすることは決して無駄ではないと思います。

執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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