この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)
出身:東京 出身大学:早稲田大学
2008年に弁護士登録後、消費者案件(出会い系サイト、占いサイト、ロマンス詐欺その他)、負債処理(過払い、債務整理、破産、民事再生)、男女問題(離婚、不倫その他)、遺言・遺産争い、交通事故(被害者、加害者)、刑事事件、インターネットトラブル(誹謗中傷、トレント、その他)、子どもの権利(いじめ問題、学校トラブル)、企業案件(顧問契約など)に注力してきた。
他にも、障害者の権利を巡る弁護団事件、住民訴訟など弁護団事件も多数担当している。
*近場、遠方を問わずZOOM相談希望の方はご遠慮なくお申し出ください。
*この記事の内容を分かりやすく動画で解説しています。複雑な記事の理解にお役立てください。
誹謗中傷被害に遭った際に、その後の開示請求や損害賠償請求がどのように進むのかを知りたい方向けに解説をしています。被害回復までに要する期間などの目安としていただければと思います。
1 発信者情報開示請求とその根拠について
ネット上の掲示板やTwitter、Facebook、インスタグラム、Googleの口コミなどで誹謗中傷の被害に遭った際に、当該誹謗中傷をした人物を特定するためには、発信者情報開示請求が可能です。
ここで、発信者情報開示請求とは、特定電気通信を通じて発信者から侵害情報を特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録等されたために、自己の権利を侵害された者が、特定電気通信役務提供者に対し、発信者の氏名、住所などの情報の開示を求めることを言います。
非常に分かりにくいので簡潔にいうと、「インターネット上で誹謗中傷などの権利侵害投稿をされた人が、プロバイダーに対して、当該投稿に用いられたインターネット回線契約の契約者の氏名、住所の開示を求めること」と理解して頂いて構いません。
この発信者情報開示請求の根拠は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダー責任制限法」)の5条に規定があります。
そして、この法律によって、誹謗中傷で自分の権利を侵害(名誉権侵害、名誉感情侵害、プライバシー権侵害、著作権侵害等)された人は、プロバイダーに対して、プロバイダーとの契約をしている者の氏名、住所等の開示を受けることが可能となるのです。
以下では、誹謗中傷の被害を受けた場合の発信者情報開示請求の手続きとその流れについて解説をしたいと思います。
2 発信者情報開示請求手続きの流れについて
(1)2段階の開示請求手続きについて
以上を前提に、実際にどのような流れで発信者情報開示請求手続きが進むかですが、大きく2段階に分かれているとご理解ください。
すなわち、
(1)まず初めに、コンテンツプロバイダ(爆サイ.com係やFacebook、Twitterなどの掲示板やSNSを提供しているプロバイダのこと)に対して、問題となる投稿がなされた際もしくは投稿に近接するログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプの開示を求め、
(2)続いて、開示されたIPアドレスに基づき、当該IPアドレスを管理しているアクセスプロバイダに対して、問題となる投稿がなされた際に当該IPアドレスを割り当てられていた契約者情報(氏名、住所など)の開示を求める
こととなるのです。
これらの2段階の手続に関しては、いずれの段階に際しても、コンテンツプロバイダーやアクセスプロバイダーの保有するログに関するデータが残されていることがとても重要です。
そして、これらデータは各プロバイダーにより様々ではあるものの、一般的には3か月から6か月程度で消去されることが多いと言われています(ただし、実際には1年程度、ログを保存しているプロバイダーもあります)。
そのため、発信者情報開示請求を行うためには、厳格な期限があると思ってください。
また、これら2段階の手続に関しては、2022年10月1日に法改正があり、これまで2段階に分かれていた法的手続きについては1段階でまとめて行うことが可能となりました。その結果、手続きに要していた時間と費用を抑えることが可能となったのです。
【第1段階】
コンテンツプロバイダへのIPアドレスの開示請求
【第2段階】
アクセスプロバイダへの契約者情報の開示請求
(2)IPアドレスの開示請求手続きの具体的方法について
以上の2段階の開示請求手続きについて、第1段階のIPアドレスの開示については、コンテンツプロバイダによっては一般社団法人テレコムサービス協会の書式を用いた開示請求や、弁護士照会の方法でIPアドレス及びタイムスタンプの開示請求を行うことがあります。
したがって、まずはこれらの手法によりIPアドレス及びタイムスタンプの開示を求めることが考えられます。
仮にこの方法によるIPアドレス及びタイムスタンプの開示に応じないコンテンツプロバイダの場合には、仮処分を裁判所に申し立ててIPアドレス及びタイムスタンプの開示を求めることとなります。
なお、問題となっている投稿がなされた際に用いられたIPアドレス及びタイムスタンプの情報については、上記のとおり、コンテンツプロバイダがこれを保管している期間として3か月程度から6か月程度と言われることが多いので、発信者情報開示請求を行う場合には、遡って3か月程度から6か月程度の投稿しか対象とし得ないことに注意が必要です(ただし、プロバイダーによっては1年程度、ログを保存しているところもあります)。
さらには、開示請求手続きを依頼した後、実際に申立をするための準備の時間などもいるので、問題となる投稿に気が付き、発信者情報開示請求を検討した際には早急に弁護士への相談と依頼が必要になります。
【IPアドレスの開示のための方法】
(1)任意開示
(2)仮処分
(3)契約者情報の開示請求手続きの具体的方法について
上記の各方法によりIPアドレスの開示を受けた後、当該IPアドレスについて、これを管理保有しているインターネットサービスプロバイダをWHOIS検索で調べます。
その結果、どのインターネットサービスプロバイダが当該IPアドレスの割り付けを受け、管理保有しているかを特定できたら、今度は当該インターネットサービスプロバイダ(アクセスプロバイダ)に対して発信者情報開示請求訴訟を起こすこととなります。
併せて、発信者情報開示請求訴訟の結論が出るまでの間に問題となっている投稿がなされた際に用いられたIPアドレスがどの契約者に割り当てられていたのかの情報をアクセスプロバイダが削除してしまうことを防ぐために、これら情報の削除をしないよう任意で求めたり、仮処分を申し立てたりすることが必要です。
【開示請求訴訟の際の流れ】
(1)WHOIS検索によるアクセスプロバイダの特定
(2)契約者情報の任意もしくは仮処分による保全
(3)発信者情報開示請求訴訟の提起
(4)発信者情報開示請求訴訟の具体的内容
発信者情報開示請求訴訟は、アクセスプロバイダを被告として行うこととなります。管轄裁判所はアクセスプロバイダの所在地を管轄する地方裁判所です。
その上で、発信者情報開示請求が認められるためには、
(1)権利侵害の明白性
(2)違法性阻却事由の不存在
(3)開示を受けるべき正当な理由
があることが必要となります(プロバイダ責任制限法5条1項1号、2号)。
訴訟では、これら要件の存否を巡り、原告(投稿された側)と被告(アクセスプロバイダであり、投稿をした人ではない)とで争われます。
(1)については具体的には名誉棄損、侮辱、プライバシー権侵害、著作権侵害などの各権利侵害の有無について争われることとなります。そして、名誉棄損や侮辱、プライバシー権侵害はその権利侵害の成否の判断が非常に難しいことから、審理期間も数か月を要するのが通常です。
(2)については、主には名誉棄損の事例で、当該投稿をすることについて違法性があるかないかが争われます。
最後の(3)については、名誉棄損などの権利侵害を受けたとなれば、通常は損害賠償請求権の行使のために開示を受けるべき正当な理由があると判断されます。
(5)発信者情報開示請求訴訟の判決と控訴について
以上のようにして発信者情報開示請求を認めるか否かが審理され、最終的には地裁にて判決の言い渡しがなされます。結論に対して双方が納得すれば判決は確定しますが、上記の通り、名誉棄損等の成否の判断は非常に難しいことから、いずれかが結論に不服があれば控訴に至ります。
そのため控訴審にて改めて発信者情報開示請求を認めるか否かの審理がなされます。
いずれにしても判決が確定すれば、認容された結果に対してアクセスプロバイダから原告に対して契約者情報の開示がなされます。
3 改正法に基づくひとまとめでの開示請求について
従来の発信者情報開示請求手続きは、上記のとおり、コンテンツプロバイダーとアクセスプロバイダーとに対して順次、別々の手続をとることとなっていました。
しかし、時間と費用の問題や被害者の救済の観点から2022年の改正法施行によりひとまとめの手続にて開示が受けられるようになったのです。
その結果、時間と費用を節約することができるようになったので、ケースによっては改正法に基づき発信者情報開示命令の申立てを検討する価値があります。
4 発信者情報開示を受けた後の損害賠償手続について
(1)開示された情報と実際の投稿者の同一性の確認について
発信者情報開示を受けた場合、開示された契約者情報に基づき、その者に対して損害賠償請求などをすることとなります。ただし、開示された情報は個人情報であることからその取扱いには慎重な対応が必要です。しかも、開示された情報が当該投稿者の情報そのものでないことがあり得る点にも注意が必要です。
具体的には、(1)家族名義の場合、(2)Wi-Fi利用の場合、(3)会社名義の場合などです。
(1)については、家族がアクセスプロバイダの契約者で、自宅にてそのインターネット回線を用いて、他の者が問題となる投稿をしたような場合です。この場合には、開示された者に対して通知書などを送付し、契約者と投稿者の同一性を確認したりします。
(2)については、Wi-Fiを提供している者(たとえば飲食店や公共施設など)に対して通知をしたところで、実際に誰がWi-Fiを用いて投稿をしたかの特定はできないことから、請求を断念せざるを得ないことが通常です。
(3)については、会社の規模によりますが、当該端末をどの従業員に貸与していたかが特定できるような場合には、会社に情報提供を求めるなどして投稿者の特定が可能になることもあります。
【開示された情報と投稿者の同一性に注意が必要な場合】
(1)家族名義の場合
(2)Wi-Fiの場合
(3)会社名義の場合
(2)実際の投稿者に対する損害賠償請求について
以上の結果、実際の投稿者を特定できた場合には、当該投稿者に対して損害賠償請求をすることとなります。
場合によっては内容証明郵便を送付し、示談交渉により解決することもあると思います。
しかし、慰謝料だけでなく、発信者情報開示のために要した費用を含めて請求をすると、かなりの額(慰謝料で200万円、発信者情報開示のための費用で100万円だとしたとしても300万円)になることから、示談での解決も容易ではありません。
そうすると、改めて損害賠償請求訴訟を提起することとなります。この場合には、原告となる方の所在地を管轄する地方裁判所に提訴することが可能です。
裁判では、発信者情報開示請求訴訟にて名誉棄損等の権利侵害の認定を受けているものの、相手方によっては、これら権利侵害の成立自体を否認し、争ってくることがあります。
原告からすると、すでに発信者情報開示請求訴訟で詳細に主張を展開し、証拠も提出した上で権利侵害を肯定されているのに、改めて今度は投稿をした者からこれらの点について争われると二度手間感が否めませんし、解決までの期間が長期化するので負担が大きく感じられます。
とはいえ、投稿をした者からすると、発信者情報開示請求訴訟に自らは何ら関与をしていないこと、そのため自分としては権利侵害の成否について争う機会を得られていないことから、手続保障としては必要なことではあります。
いずれにしても、訴訟の中でお互いの主張立証を尽くし、場合によっては和解により、これが無理であれば判決により結論が出ることとなります。
5 発信者情報開示を受けた後の刑事告訴手続について
4では、発信者情報開示を受けた後の民事上の責任追及について説明をしましたが、問題となる投稿が名誉棄損や侮辱を構成するなど、刑事罰の対象となっている場合には、刑事告訴が可能です。
この点、ネット上への書き込みがどのような理由から刑事手続の対象となるかについては別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
6 発信者情報開示請求の流れなどのまとめ
発信者情報開示のための手続きは非常に複雑であり専門性が高いこと、迅速性が求められることから弁護士への相談、それもこの分野に詳しい弁護士への相談が避けられません。なので、この問題で悩んだ際には躊躇せずに専門の弁護士にご相談なさってください。
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所