別居や離婚と児童手当、児童扶養手当の関係について
このコラムでは、別居や離婚の際に児童手当や児童扶養手当の受給がどうなるのかについて解説をしています。
1 離婚を前提とした別居と各種社会保障制度の関係について
離婚を前提として子どもを連れて別居をし、離婚に至るまでの生活設計を考えた際に、各種社会保障制度をどの程度自分に有利に使えるか、もしくは使えないかという問題に悩まされることがあります。
そのうち、頻繁に問題となり、相談としても多いのが①児童手当の受給はどうなるのか、②児童扶養手当は受給できないのかという点です。
そこで、以下、これらについて順番に解説をしたいと思います。
2 ①児童手当の受給はどうなるかについて
⑴児童手当について
児童手当は児童手当法に規定があり、「児童を養育している者に児童手当を支給することにより、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的とする。」とされています(児童手当法1条)。
⑵児童手当の受給権者について
そのため、児童手当は、児童に対する支給ではなく、児童を養育している者に対する支給であることに注意が必要です。すなわち、児童手当は、児童のお金ではなく、夫婦のお金なので、児童手当を貯めた貯金は子どもの特有財産とはならず、夫婦の共有財産として財産分与の対象となるのです。
また、児童と父母が同居をしている場合には、世帯の中で生計の中心を担っている方(収入の多い方)に支給されることとなっています。
そのため、別居に際して妻が子を連れて出たのに相変わらず夫に支給が続くという場合があるので、この場合には受給者を変更する手続きをしないといけません。
具体的には離婚協議中であれば、夫婦がそれぞれ「受給事由消滅届」と「認定請求書」を書いて役所に提出をすることとなります。離婚調停中であれば事件係属証明書を裁判所から取りつけ、役所に提出することとなります。
その上で、別居後に相手方に支払われてしまった児童手当は、相手方に請求をし、こちらに支払ってもらうこととなります。
⑶児童手当の終期や金額について
この児童手当は、児童が15歳に達した後の翌3月31日まで支給されます(児童手当法4条1号イ)。
児童手当の金額はひと月あたり、子ひとりにつき1万円からとなっており、子の年齢と人数により異なります。
また、所得制限があり、一定の所得を超えると児童手当ではなく、子ひとりあたり月額5,000円の特例給付の支給となります。さらに、2022年10月からは世帯主の年収が1200万円以上の場合にはこの特例給付も受けられないこととなりました。
⑷児童手当の支給月について
児童手当は、このようにして金額が決まり、2月、6月、10月の3回に、それぞれの月までの児童手当が支給されます(2月には前年10月、11月、12月、当年1月分が、6月には当年2月から5月分が、10月には当年6月から9月分が支給されるのです)。
そのため、別居をしたのがたとえば6月であれば、10月に支給される児童手当のうち6月分は夫婦共有財産とされますので注意が必要です。
3 ②児童扶養手当は受給できないのかについて
⑴児童扶養手当について
児童扶養手当は、「父又は母と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について児童扶養手当を支給し、もつて児童の福祉の増進を図ることを目的とする。」とされています(児童扶養手当法1条)。
児童手当とその趣旨は似通っていますが、それぞれ別の法律により規定がされていて、支給要件も異なります。
⑵児童扶養手当の受給権者について
児童扶養手当も児童手当と同様に、児童自体ではなく、これを監護、養育する父母が受給権者となります。
そして、その受給要件は父母が離婚をしたこと、父母のいずれかが死亡したことなどとなっています(児童扶養手当法4条)。
そのため、児童手当と異なり、法律上明確に離婚が条件となっているのです。したがって、離婚を前提にして別居をしているだけでは児童扶養手当の支給は受けられません。
そう考えると、早期に離婚をした方が得なようにも思えることもあると思います。場合によっては、児童扶養手当の受給をさせないがために離婚を先延ばしにする夫もいるかもしれません。
⑶児童扶養手当と養育費の関係
このように、離婚が成立すると児童扶養手当を受けられるようになりますが、養育費との関係はどうなるのでしょうか。
この点、養育費を支払う側としては、児童扶養手当を受けられるならその金額も加味して養育費を算定すべきだと主張するかもしれません。
しかし、児童扶養手当法は、「児童扶養手当の支給は、婚姻を解消した父母等が児童に対して履行すべき扶養義務の程度又は内容を変更するものではない。」としています(児童扶養手当法2条3項)。
したがって、児童扶養手当法の支給があるからといって、養育費の額には影響しないこととなります。
これは、別居親が、離れて暮らす子どものために尽くす義務は公的な給付である児童扶養手当により左右させるべきでないことから定められた規定といえます。
4 まとめ
児童手当も児童扶養手当もいずれも子どもの健全な成長のためのものであり、これを子どものために使うべきこととされています。そうすると、やはり子どもの生活を日々監護している側がきちんと受給し、子どものために使うことが望ましいものです。
したがって、別居や離婚をきっかけに受給権者の変更などが生じれば適切な対応が必要です。また、上記のとおり、児童扶養手当があるからといって養育費の額を減らすことなど本末転倒であることも明らかです。