ネットに投稿された誹謗中傷投稿を削除する方法

このコラムでは、ネットでの誹謗中傷を受けた際に、具体的にどのような場合であれば削除請求が可能なのかを権利侵害の内容毎に対策方法の解説をしています。最後までお読み頂くことでどのような場合であれば削除が可能か、どのような対策が必要かをご理解して頂き、問題解決にお役立てください。

1 ネット誹謗投稿の削除が可能な場合について

爆サイや2ちゃんねる、5ちゃんねるなどのインターネット上の掲示板や、Twitter、FacebookなどのSNS、Googleマップやグーグルマイビジネスなどの口コミに投稿ないし掲載された情報により、自身や会社の誹謗中傷被害を受けた際に、一定の場合にはその削除が可能です。

その際、実際にどのような場合であれば削除が可能かは、掲載ないし投稿された内容により、どのような権利が侵害されたといえるかどうかにより決まります。

具体的には、誹謗中傷と一言に言っても、当該投稿によって具体的にどのような権利が問題となるのかはケースバイケースです。そもそも「誹謗中傷」という概念自体が非常に広範で曖昧さのある言葉であることや、これ自体が法律用語でないことにも注意が必要です。

そのため、当該誹謗中傷投稿により、当該投稿が違法となるのは、以下のような場合です。

(1)人や会社の社会的評価が低下したと言える場合には名誉棄損の問題

(2)社会的評価は低下していないが、名誉感情を酷く傷つけられたと言えるのであれば侮辱の問題

(3)氏名や住所などの個人情報を公にされた場合にはプライバシー権侵害の問題

他にも、誹謗中傷とは言いませんが、

(4)自分が著作権を有する著作物を流用された場合には著作権侵害の問題

となります。

そして、現行法上は、主にこれら(1)ないし(4)に記載の権利が侵害されたと言える場合には、その排他的権利性から当該投稿は違法だとしてその削除が認められています。

したがって、当該誹謗中傷投稿が、これらの権利を侵害していると認められる場合には当該投稿の削除が法的に可能となります。同時にこれら権利の侵害があれば投稿者に対する損害賠償もまた可能です。

ただし、投稿者に対する損害賠償は発信者情報開示を経た後にとるべき手段となるところ、削除自体は発信者情報開示を経なくても行える点で手続きの流れや取るべき手段が異なってきます。

また、削除のために要する期間と開示請求と損害賠償のために要する期間とも大きく異なってきます。

いずれにして以下では、これら権利を侵害していると認められるケースを説明した上で、具体的に削除を求める、実現するための流れや手続きを説明します。

2 当該投稿により権利侵害が認められるケースについて

(1)名誉毀損について

(1)名誉毀損とは

名誉毀損とは、人の社会的評価を低下させる行為であり、民事上は不法行為が成立し、刑事上は名誉毀損罪(刑法230条)が成立しえます。ただし、民事上は事実を適示しての名誉毀損と、意見論評による名誉棄損とがありますが、刑事上は意見論評による名誉毀損はありません。

そして、当該投稿の削除請求との関係では、名誉毀損の成立により名宛人(書き込みをされた被害者である個人または会社)の人格権を侵害することから、人格権に基づく妨害排除請求権としての削除請求が可能だとされています。

 このように名誉毀損の場合には、民事上の責任の他にも刑事上の責任が成立するので、刑事事件として刑事告訴をすることも可能です。

 (2)名誉棄損の成立要件について

削除請求の前提となる、民事上の名誉毀損が成立するためには、

・不特定又は多数人に対して(公然性の要件)

・事実を適示してもしくは適示せず意見論評により

・人の社会的評価を低下させること

が必要です。

そのため、「特定かつ少数の人に対して」述べるだけでは名誉毀損は成立しません。名誉棄損の保護の対象が「人の社会的評価」であることから、ごく内輪で他人の悪口を言ったような場合には、社会的評価(すなわち、多くの人による評価)の低下にはならないと考えられるからです。

 また、単に「バカ」とか「くそ野郎」などと述べるだけでも名誉毀損は成立しません。具体的な事実の適示にはならない上に意見論評とも言えないからです(ただの個人の感想や主観的気持ちを表現したに過ぎない)。 

ただし、悪しざまに言うことで言われた人の名誉感情を酷く傷つけることになれば名誉毀損とは別に侮辱による名誉感情侵害が成立し得ます。

さらに、不特定又は多数人に対して事実を適示したとしても、言われた人の社会的評価が低下しないことには名誉棄損にはなりません。これも名誉棄損が人の社会的評価を保護するためだからです。

そのため、単なる感想や個人の意見に留まる表現は、この社会的評価の低下がなく、名誉棄損は成立しません。

なお、当該投稿が人の社会的評価を低下させるか否かはいわゆる「一般読者基準」(一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合、その投稿が事実に反し名誉を棄損すると認められるかどうか)に従って判断することとなります。

これもやはり、名誉棄損が人の社会的評価の低下を保護法益とする関係で、当該投稿をされた人ではなく、当該投稿を目にした一般の人から見て投稿された人の評価が低下するかどうかにより判断するためです。

(3)名誉毀損が成立する例

以上を前提として、どのような場合に名誉毀損が成立するかを例示すると次のとおりとなります。

・「Aは会社の金を流用して毎日飲み屋で使っている」→会社の金を流用しているという点が事実の適示に該当し、その結果、Aが横領をしているとの印象を一般閲覧者に抱かせ、Aがそのような犯罪行為をする人物として社会的評価が低下する。

・「Bは、Cが嫌がるのにしょっちゅう、食事に強引に誘っている」→BはCが嫌がるのに食事に強引に誘っているという点が事実の適示に該当し、その結果、Bは人が嫌がるのに強引に食事に誘う人物との印象を一般の閲覧者に抱かせ、Bの社会的評価を低下させる。

・「Dは上司のEと関係を持って社内で優遇してもらっている」→DはEと関係をもって優遇をしてもらっているとの事実を適示し、その結果、一般の閲覧者に、Dは性交渉と引き換えに社内での立場を優遇してもらう人物との印象を抱かせ、Dの社会的評価を低下させる。

(2)侮辱について

以上の名誉毀損と異なり、人の社会的評価ではなく、人の名誉感情を侵害した場合の典型例として侮辱があります。

ここで侮辱とは、人格に対する否定的価値判断をいうとされ「バカ」「あほ」「まぬけ」などが典型です。

また、名誉毀損とは異なり、保護すべき権利は人の社会的評価ではなく、人の個人的な内部的名誉たる名誉感情です。そのため、名誉棄損の成立の際に必要となる公然性の要件は必要がありません。

では、この侮辱行為についてどのような場合に不法行為が成立するかですが、裁判例では、単にこれらの侮辱行為があれば不法行為の成立が認められるとはせず、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて不法行為が成立する」としました。

その理由は、単に一言でも他人を悪く言えばすぐさま名誉感情が成立するとなると、日常生活は円滑に進まなくなってしまうからです。

(3)プライバシー権侵害について

プライバシーとは「他人にみだりに知られたくない個人に関する情報」と考えられています。そして、プライバシーの重要性が高まる昨今では、ネット上にプライバシーに関する情報が投稿されることに非常に敏感になっています。

たとえばプライバシー情報としては、氏名、電話番号、メールアドレス、住所、勤務先、家族構成、交際相手、病歴、性的指向、犯罪歴、本籍地、口座番号、収入や納税額など枚挙にいとまがありません。

このように、プライバシーに関する情報には多彩なものがあること、あらゆるプライバシーに関する情報が、投稿された途端にプライバシー権侵害に該当するとしてしまうと円満な社会生活は送れません。

とりわけ、プライバシーに関する情報がどこに、どのような経緯で投稿されたかによってもプライバシー権侵害を認めるべきか否かの考え方が異なってきます。そのため、プライバシー権侵害が成立すると認められるか否かは慎重に判断がされます。

その結果、プライバシー権侵害を根拠とした削除が可能か否かは、プライバシーを秘匿したい利益と公表する利益とを比較衡量の上で前者が後者に優越する場合に認められるとされています。

(4)著作権について

著作権は、著作権法によりその排他的権利性が認められていることから(著作権法112条)、著作権を侵害する投稿すなわち多くは違法アップロードに対してその削除請求が可能です。

3 削除を求める、実現するための流れや手続きについて

(1)管理者への直接請求について

上記のように自身の権利侵害が肯定された場合、まず容易に考え着くのは当該投稿を管理している者に対する削除依頼です。これは、個人で管理されているブログやウェブサイトなどの場合には比較的効果が生じやすい手法です。

具体的には、サイトの管理者へメールなどで連絡をし、当該投稿が自分の権利を侵害しているので削除をして欲しいと求めるものです。

(2)管理者へプロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドラインに従った削除請求について

プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会は、被害者からの削除請求などに対して、発信者情報開示請求の手続や判断基準等を可能な範囲で明確化するためにガイドラインを作成しています。このガイドラインには、送信防止措置すなわち当該投稿の削除を求めるための送信防止措置依頼の方法について定めています。

したがって、このガイドラインに従って掲示板などの管理者に削除を求める方法が考えられます。

(3)削除を求める仮処分について

上記二つの方法はあくまで掲示板などの管理者に対して権利侵害を理由として当該投稿の任意での削除を求める手続きでした。あくまで任意なので管理者が応じなければ削除の結果には至りません。

そのため、法的に仮処分の方法で削除を求めることがあり得ます。仮処分では、裁判所に対して当該投稿により自身の権利が侵害されていることの疎明を行い、かつ保全の必要性についても肯定してもらえれば削除の仮処分決定が言い渡されることとなります。通常、仮処分決定が出れば、管理者は当該投稿を削除するに至ります。

(4)削除を求める訴訟について

仮処分とは別に、いわゆる通常の民事訴訟にて削除を求めることも可能です。仮処分で削除が認められなかった場合や、仮処分に応じない管理者に対して民事訴訟にて解決を図ることが考えられます。

しかし、民事訴訟は仮処分と異なり、結論が出るまで長期間を要するのでそれまでの間、権利侵害状態が長引いてしまうというデメリットがあります。

4 まとめ

以上のように、インターネット上に投稿された内容に対しては、そもそも自身のどの権利が侵害されているのかを慎重に見極め、適切な方法選択の上で削除という対策をとる必要があります。

その判断は非常に難しく専門的な知識を有する弁護士に相談をすることをお勧めする分野だと言えます。

執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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