不倫をした側の5つの主張とこれらが通る可能性について

このコラムでは、不倫をした側においてなされる典型的な5つの主張をご紹介し、これら主張がどのような場合にどの程度通るのか通らないのかを、この分野に詳しい専門の弁護士の視点から詳しく解説をします。このコラムを踏まえて、不倫慰謝料請求に対する方針、示談の当否を検討いただけますと幸いです。

1 浮気、不倫した側の5つの主張について

浮気や不倫をした相手方に内容証明や書面を送付し、慰謝料請求をすると、事実を認め、責任をとろうとする場合以外では、主に以下の5つの主張のいずれかがなされることが典型です。

(1)そもそも不貞行為がない

(2)不貞行為は認めるが、さほどの期間や回数ではない

(3)既婚者であると知らなかったし、知り得なかった

(4)婚姻関係はすでに破綻していた

(5)誘ってきたのは既婚者側の不倫相手である

これら主張は、いずれも浮気や不倫の被害を受けた側からすると、とても強くストレスに感じるものです。

しかし、これらの主張に対してはきちんと対応をし、再反論をしないことには自ら受けた不倫の被害に対して十分な慰謝料の獲得は実現しません。

また、不倫をしたとして慰謝料請求を受ける側からすれば、自己の言い分をきちんと尽くさないことには不当な慰謝料の負担を負うことになりかねません。

そこで、ここでは不倫をした側から出される上記5つの主張の内容について、これらがどのような場合であれば認められる可能性があるのか(有利に働く可能性があるのか)についてご説明いたします。

この内容を踏まえてこれら主張についての対応を決めるようにしてください。

2 (1)そもそも不貞行為がない

(1)不倫による慰謝料請求の法的根拠について

不倫による慰謝料請求は、自分の配偶者と第三者が不貞行為を行ったことを根拠として、その被った精神的苦痛に対する賠償を認めるものです。これは、不倫行為が夫婦婚姻共同生活の平穏ないし法律上の利益を故意又は過失により棄損することが、不法行為(民法709条)に該当するからです。

そのため、そもそも不貞行為がないとなれば当然のことながら慰謝料請求は認められません。

そして、不倫をしたと思しき当事者が、不貞行為を否認した場合には、慰謝料を請求する側で不貞行為の立証をしないとなりません。その際の一番の問題は、具体的にどのような事実を立証できれば不貞行為があったと認められるかになります。

具体的に訴訟の場で不貞行為を否認された場合によく問題となるのは主に以下のような主張です。

(1)ラブホテルへの出入りは認めるが、中で会話をしたり、映画を観たり、カラオケをしていただけだ。

(2)自宅への出入りは認めるが、食事をしたり、ゲームをしたりしていただけだ。もしくは同居人や友人が居たので性交渉などしていない。

(3)避妊具やラブホテルのカードを持っていたがそれは友人からもらった、職場の人から預かっただけだ。

(2)(1)ラブホテルへの出入りは認めるが、中で会話をしたり、映画を観たり、カラオケをしていただけだ。との主張について

ラブホテルへの出入りについては、証拠の写真が撮られているような場合でも、このような弁解をする当事者がいます。このような弁解については、ラブホテルの中で本当に性交渉に至っていなかったことの積極的な立証がなされない限り、裁判所がかかる主張を採用し、不倫慰謝料請求を棄却する判断や判決をすることはまずありません。

すなわち、ラブホテル自体がそもそも男女二人きりでの密室空間を提供するものであること、そこでは性交渉を持つことを前提としていること、会話をしたりなどという行為は決してラブホテルでないとできないことではないことからすると、ラブホテルに男女二人で出入りをしていたようであればそれだけで不貞行為があったとの強い推認が働くからです。

ただし、ラブホテルに入ってからごく短時間(数分や十数分)で退出をしているような場合には、そのような短時間で性交渉を持って退出することは考え難いため、不貞行為はなかったとされる可能性があります。なので、ラブホテルの出入りを証拠とする場合には、入りと出の証拠をきちんと確保することが大切です。

他方で、ラブホテルで性交渉を持っていなかったとの主張をする場合には、ラブホテルで性交渉以外の具体的な何かを何時間していたのかの客観的証拠の提出が必要と言えます。

(3)(2)自宅への出入りは認めるが、食事をしたり、ゲームをしたりしていただけだ。もしくは同居人や友人が居たので性交渉などしていない。との主張について

自宅はラブホテルと異なり、当然に性交渉を持つことを想定した場とは言い難く、かつ常に二人きりで過ごすことを想定した場でもありません。

そのため、自宅への出入りを不貞関係の証拠とするためには、二人きりでの出入りであること、1回あたりの滞在時間がそれなりの時間であること、回数が頻繁であることなどの立証が重要です。

たとえば、自宅への出入りと言っても、いずれかの実家だったりするため、他の同居人がいる場合や、1回あたりの滞在時間が短いとか、という場合には不倫関係は認定されない可能性が高くなります。

他方でこれらがないような場合であれば不貞関係の強い証拠となります。すなわち、健康な男女がいずれかの自宅に頻繁に長時間を共に過ごしているようであれば、社会通念上そこでは不貞関係があったと見るのが自然だからです。

なので、そうではないと主張する側においては、具体的に自宅で何をしていたのかを客観的な証拠に基づいて主張することが重要になります。

(4)(3)避妊具やラブホテルのカードを持っていたがそれは友人からもらっただけだ。との主張について

夫婦の間で避妊具やラブホテルの利用がないようであれば、これを持っていること自体が他者との不貞関係の証拠に他ならないと考えがちだと言えます。

しかし、例えば避妊具についてはこれを男性が持っていたとしても、常に女性との性交渉の際に使うとは限らず、いわゆる自慰行為の際に用いただけである場合も否定しきれません。

また、ラブホテルのカードについては、一人でアダルトビデオを観るために用いていたとか、風俗のサービスを受けるのに用いていたとの抗弁も考えられます。

さらには、そもそもラブホテルのカードなどについては、これらが他者との性交渉の際に用いられるなどしたものだとしても、具体的にどの人物との関係の際に用いられたかの証拠にはならないという点に注意が必要です。

したがって、配偶者がラブホテルのカードなどを持っていたとした場合には、これらの証拠以外の証拠を必ず用意することが重要です。

もちろん、このような事情があるからといって、これらの証拠がまったく無価値ということではありません。これらの事情を踏まえて他の証拠とも付き合わせて用いることが重要ということです。

3 (2)不貞行為は認めるが、さほどの期間や回数ではない

事実確認や交渉の結果、不貞行為は認めたものの、その期間や回数を争うケースも少なくありません。当然、期間が長く、回数が多いほど夫婦婚姻共同生活の平穏ないし法律上の利益の侵害度合いは大きく、慰謝料の金額は高額化する傾向にあり、その算定上、大きな影響を与えるからです。

そして、たとえば不貞行為の証拠として、調査事務所による調査報告書がある場合には、調査をした期間(たとえば1か月)の不貞行為しか立証ができません。

そのため、不貞行為の期間について争われた場合には、いつから不貞関係があったかについての証拠を十分に用意しないことには満足行く結論にはなりません。

そして、不貞行為の期間を立証するためには、知り合った時期、関係が親密になった時期、不貞行為が始まった時期について、不貞行為の当事者のLINEや手紙、日記などを手掛かりにすることが多いと思います。

なお、どのような証拠が不貞の証拠となるかは別のページに詳細を解説していますのでそちらをご参照ください。

他方で、「いついつ頃から夫の帰りが遅くなった。だからその頃から不貞関係が始まったに違いない。」という類の主張も多く見受けられるところですが、これだけでは十分な証拠とはなりません。

というのも、夫の帰宅が遅くなったのは仕事のせいかもしれないし、帰宅前に一人でぶらぶらしていたのかもしれないし、友人と過ごしていたのかもしれないからです。

そのため、不貞行為の始期についてはかなり争われるケースが多く、かつ上記のようなLINE等の証拠がない限り、十分に始期を明らかにすることはできないのが実情です。

4 (3)既婚者であると知らなかったし、知り得なかったとの主張について

(1)はじめに

不倫相手から、既婚者であることを知らなかったし、知り得なかったとの主張が出ることは少なくなく、かつそのパターンとしては以下の二つに集約できると思います。

(1)不倫相手と知り合った経緯が出会い系アプリなどである場合

(2)不倫相手に、「未婚である」とか「離婚をした」と説明をしていた場合

(2)(1)不倫相手と知り合った経緯が出会い系アプリなどである場合について

この場合、出会い系への登録上、自分の本当の名前や属性を偽って登録することは少なくなく、かつ不倫相手としてもそこでの情報以外にその人物の個人属性を知る機会がないことが多いです。

そのため、このようにして知り合った場合には、不倫相手が、既婚者であると知っていたケースはほぼなく、かつ既婚者であると知らなかったことに過失もないことが大半です。

したがって、不倫行為のきっかけとして出会い系で知り合ったという抗弁が出された場合には、慰謝料を不倫相手に求めることはかなりの困難を極めると思ってください。

(3)(2)不倫相手に、「未婚である」とか「離婚をした」と説明をしていた場合

上記の場合と異なり、単に自分は未婚であるとか離婚をしたと説明をしただけであるような場合には状況が異なってきます。

すなわち、もともとの知り合いだった相手に、自分の現在の身分関係を偽り、関係を持つようになった場合、不倫相手としては、これまでの人間関係に照らし、既婚か否かは知っていただろうし、仮に知らなかったとしても容易に知ることができた(調べたり確認したりできた)と言える以上、少なくとも過失はあったとなります。

したがって、不倫相手としては、自分と関係を持った相手がこのように説明をしたとしても、安易に信用をする訳にはいかず、後々、損害賠償責任を負うことがあると考えた方が無難です。

5 (4)婚姻関係はすでに破綻していたとの主張について

婚姻関係破綻の抗弁とは、不貞関係を持った時点では夫婦関係が破綻していた以上、慰謝料請求権は生じないという不倫当事者からの弁解をいいます。

かかる弁解が仮に認められれば当然、慰謝料請求は認められないこととなります。

この弁解は不貞慰謝料請求の実務上、とても多く主張をされることから、別のページにて詳細を解説していますのでそちらをご参照ください。

6 (5)誘ってきたのは既婚者側の不倫相手であるとの主張について

かかる主張は、自己の責任を前提としつつも、あくまで自分は不貞関係を自ら積極的に求めたものではなく、既婚者側の当事者に強く求められたため、止む無くもしくはしぶしぶ関係を持つに至っただけだというものです。法律的には、慰謝料減額事由として主張されるものです。

しかし、不貞行為による損害賠償責任は、既婚者側の当事者と不倫相手の不真正連帯債務とされています。これはお互いで共に全額の負担をすべきであり、不貞行為の被害を受けた側からすると、いずれに対しても全額の慰謝料を請求が可能ということを意味します。

なので、いずれが積極的であろうと消極的であろうと、不貞行為の被害者からすれば関係のないことですから、上記のような主張が通る余地はありません。

ただし、不貞行為の当事者間で責任割合が争いになった場合には、かかる主張について検討されることとなりますが、これは不貞行為の被害者とは無関係の話です。

なお、不貞行為の当事者間による責任割合の問題は別のページで解説をしているのでご参照ください。

7 まとめ

以上のように、浮気、不倫をした側からなされる典型的な5つの主張について整理をしました。必ずしも容易に通らないものも少なくないのですが、そのような主張が展開されるだけで不倫の被害を受けた当事者としては精神的な苦痛が増すことでしょう。

他方で、不倫をした側としては、これら主張を展開することが不倫の被害を受けた側にどのような影響を与えるか、またどの程度、自己の言い分が採用される余地があるのかを十分に検討の上で展開をすることが重要だと言えます。

したがって、いずれの立場に立ったとしても、これら主張の当否について慎重に検討をされることをお勧めします。

執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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