
▶この記事の執筆者
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)
出身:東京 出身大学:早稲田大学
2008年に弁護士登録後、消費者案件(出会い系サイト、占いサイト、ロマンス詐欺その他)、負債処理(過払い、債務整理、破産、民事再生)、男女問題(離婚、不倫その他)、遺言・遺産争い、交通事故(被害者、加害者)、刑事事件、インターネットトラブル(誹謗中傷、トレント、その他)、子どもの権利(いじめ問題、学校トラブル)、企業案件(顧問契約など)に注力してきた。
他にも、障害者の権利を巡る弁護団事件、住民訴訟など弁護団事件も多数担当している。

▶この記事の執筆補助者
弁護士 河田 布香(かわだ のぶか)
出身:岡山 出身大学:岡山大学
2019年に弁護士登録後、離婚・男女関係のトラブル、子供の権利に関する問題(いじめ、学校事故の問題等)、インターネットトラブル(詐欺サイト被害、匿名誹謗中傷問題など)に注力し、積極的に取り組んでいる。さらに、岡山弁護士会の子どもの権利委員会副委員長を務めるほか、子どもシェルターモモの理事、岡山大学非常勤講師を担当している。
このコラムについて
このコラムでは、法改正により実現することとなった離婚後の共同親権について、離婚弁護士の立場からその意義や要件、予想される運用などについて詳しく解説をします。
特に、共同親権の獲得を目指したい場合、もしくは共同親権を拒否したい場合にどうすればうまくいくのかについても触れています。
今回の法改正の結果、離婚の際には単独親権か共同親権かを協議で決めるか、これが無理なら裁判所に審判で決めてもらうことが必須となりました。
また、法改正以前に離婚をしたケースであっても、今回の法改正の結果、共同親権への変更申立てが可能となりました。
したがって、共同親権制度はすでに離婚をした方でも、これから離婚をする方でもいずれにおいても重要な問題です。
実際、すでに当事務所でも共同親権を巡る問題が具体的な事案として生じてきています。
そこで、この記事を踏まえ、離婚後の夫婦の在り方、親子の在り方に大きな影響を与えるこの法改正について、ぜひご確認ください。
1共同親権とは何か?
そもそも親権とは、未成年者(18歳未満)の監護や教育を行い、その財産を管理する権限および義務を指します。
そして、親権者は、未成年者に対する法定代理人としての立場にあります。
共同親権とは、この親権を父・母が共同で行使するという制度をいいます。
親権の内容は、子の身上監護権(居所指定権、職業許可権、監護教育権など)と子の財産管理権の二つに大きく分けられます。
日本では、従前
婚姻中は父母が共同して親権者となり、親権を行使
離婚後は父母のいずれかが親権者となり、単独で親権を行使する
こととされてきました。
すなわち、婚姻時は共同親権、離婚後は単独親権の制度がとられていました。
しかし、この親権について、改正法では、離婚時または離婚後に、父母の話し合い(協議)により、親権者を「父母のいずれか一方」とするか「父母の双方」とするかを選択できるようになったのです(改正民法819条)。
(離婚又は認知の場合の親権者)
2共同親権導入の背景
上記のとおり、これまでの日本の制度では、婚姻中は父母の共同親権でしたが、離婚後は単独親権制がとられていました。
この単独親権制に対しては、親権者とならなかった他方親にとっては疎外感を与えるものであり、親子としての絆が薄れ、面会交流や養育費の支払いにも支障を来すなどの批判がありました。
また、国際的にも離婚後の共同親権制を採用している国が増え、共同親権制導入に対する対外的な要請も強まりました。
アメリカ(一部の州)、カナダ(一部の州)、韓国、中国、イタリア、イギリス、スイス、スウェーデン、ドイツ、フランス、その他
インド、トルコ
そうした中、離婚の際の「親権争い」を減らすことや、養育費の支払い、面会交流の促進などの名目の下で共同親権制が導入に至りました。
3共同親権はいつ施行されるか?
共同親権の導入を含む改正民法は、2024年5月17日に成立し、5月24日に公布されました。
そして、政府は、この改正民法の施行日を2026年4月1日と発表しています。
したがって、2026年4月1日以降に離婚をする場合には、必ず共同親権もしくは単独親権を協議、選択することとなります。
そしてこれができない場合には裁判所が判断をすることとなります。
また、同日以前に離婚が成立している場合でも、同日以降に共同親権への変更を求めることも可能となります。
4共同親権制度の意義や特徴
共同親権制度は、「子どもの利益」を確保することを目的としています。
その手段として、父と母の両方が親権者になることができる制度です。
離婚後も父母が子育てに関与することで子どもの成長に良い影響を与え、ひいては子どもの利益を確保するということです。
そのことを明確にする趣旨で改正法では親の責務等が明文化されました。
すなわち、改正法では
離婚の前後を通じて、父母は子どもの人格を尊重して養育し、子どもの利益のため互いに人格を尊重し、協力しなければならないこと
が明確に規定されたのです(新設民法817条の12)。
5 面会交流、養育費の支払いについて
この親の責務等を十分に尽くすためには、単に共同親権とするだけではなく、離婚後も父母が双方で子どものことについて日ごろから十分にやりとりをし、物事を決定することが必要になります。
また、その前提として、取り決めた養育費の確実な支払いや、充実した面会交流も必要となります。
ところが、改正法では、これら(特に面会交流)を十分に確保するための規定が十分盛り込まれてはいません。
いわば、「共同親権が実態を伴う充実したものになるか否か」は今後の運用次第(父母の意識や協力次第)なのです。
この点、諸外国の制度では、共同親権者の相互の家を子どもが頻繁に行き来し、父母が多くのことをやりとりして共同親権を充実させるようになっている点、日本の法制との違いがあります。
6 共同親権の決定方法と予想される実際の運用について
⑴改正法に基づく共同親権の決定方法について
改正法では、共同親権とするか単独親権とするかは、まずは父母の話し合い(協議)で決定します(改正民法819条1項)。
しかし、協議がまとまらない場合は、家庭裁判所が以下の基準に基づき審判により決めます(改正民法819条7項)。
(パターン①)
以下のいずれかの要件に該当し、かつ「子の利益を害すると認められるとき」には単独親権としなければならないとされています(改正民法819条7項1号、2号)。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
(パターン②)
上記改正民法819条7項1号、2号に該当しない場合でも、「その他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」にも単独親権としなければならないとされています(改正民法819条7項本文)。
以上の必要的単独親権がとられる二つのパターンに該当しない場合には、
「父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。」
とされており、共同親権とするか単独親権とするかは裁判所の判断次第となります(改正民法819条7項本文)。
⑵共同親権に関する法務省Q&Aについて
繰り返しになりますが、共同親権は、2026年4月1日から施行されます。そして、改正法の条文は上記のとおりで、共同親権になる場合やそうでない場合は、条文上は明確です。
ところが、具体的なケースに応じた当てはめを詳しく紹介しているものが未だに存在せず、今後の裁判所における運用が注目されています。
しかし、当事者からすれば、自分自身のケースにおいて共同親権となるのか、単独親権をとれるのかは大いに関心のある問題だろうと思います。
この点、法務省は、「Q&A方式の解説資料(民法編)」をwebサイトで公開しています。
この資料から共同親権になる場合とそうでない場合の手がかりを探ってみたいと思います。
長い資料ですので、以下、共同親権と単独親権の判断に関する部分を一部抜粋してご紹介いたします。
- Q新民法第819条第7項は、父母双方を親権者とするか、その一方を親権者とするかについて、いずれかを原則とし、他方を例外として定めているのか。父母の一方を親権者とする旨の判断よりも、双方を親権者とする判断の方が認められやすいのか。
- A
この法改正は、父母が離婚後も適切な形で子の養育に関わり、その責任を果たすことが、子の利益の観点から重要であるとの理念に基づくものである。したがって、離婚後の親権者を父母双方とするか、その一方とするかについては、個別具体的な事情に即して、子の利益の観点から最善の判断をすべきであり、新民法第819条も、このような考え方に沿ったものである。
離婚後の親権者を父母双方とするか、その一方とするかについては、個別具体的な事情に よって判断されるものであるので、どちらが認められやすいということは一概にはいえないものと考えられる。
- Q父母間にDVがあるために裁判所が必ず単独親権の定めをしなければならない場合とは、身体的 DVがある場合に限られるのか。
- A
新民法第819条第7項第2号は、父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の 心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無のほか、父母間に協議が調わない理由その他の事情を考慮して、「父母が共同して親権を行うことが困難と認められるとき」に、裁判所が必ず単独親権としなければならないこととしている。したがって、身体的DVだけでなく、精神的DV、経済的DV、性的DV等によって、父母が互いに話し合うことができない状態にある場合等、親権の共同行使が困難な場合も、この要件に当てはまることがあると考えられる。
- Q新民法第819条第7項各号の父又は母が子の心身に害悪を及ぼす「おそれ」や、父母の一方が他 の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害 な影響を及ぼす言動を受ける「おそれ」の有無は、 どのように判断するのか。
- A
新民法第819条第7項第1号にいう父又は母が子の心身に害悪を及ぼす「おそれ」や、 第2号にいう父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及 ぼす言動を受ける「おそれ」とは、具体的な状況に照らし、そのような害悪や暴力等を及ぼ す可能性があることを意味する。この「おそれ」については、裁判所において、個別の事案ごとに、それを基礎付ける方向の事実とそれを否定する方向の事実とが総合的に考慮されて判断される。父母の一方が過去に虐待やDVをしたという事実は、今後の虐待等の「おそれ」を基礎付 ける方向の重要な事実と認められ、それらの「おそれ」が肯定される方向に傾く大きな考慮 要素となる。
- QDVや虐待を理由として単独親権の定めを求めるためには、医師による診断書等の客観的証拠が必ず必要か。
- A
新民法第819条第7項各号の「おそれ」の判断においては、個別の事案ごとに、それを基礎づける方向の事実とそれを否定する方向の事実とが総合的に考慮されることとなり、医師の診断書のような、過去にDVや虐待があったことを裏付ける客観的な証拠の有無に限らず、諸般の状況が考慮されることになる。 他方で、当事者が虐待やDVを主張したとしても、その主張が認められず、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情が考慮された結果として、父母の双方を親権者と定められることもあり得る。
- Q改正法において、父母の合意がない場合においても裁判所が父母双方を親権者とすることができることとされたのはなぜか。 高葛藤のケースや、父母の一方が相手方と「関わりたくない」「口も聞きたくない」などの感情的な主張をしたケースにおいては、単独親権の定めがされることとなるか。
- A
離婚後の親権者の定めについて父母の協議が調わない場合に、裁判所が、離婚後の親権者を父母双方とするかその一方とするかは、個別具体的な事情に即して、子の利益の観点から最善の判断をすべきである。
父母の協議が調わない理由には様々なものが考えられるから、合意がないことのみをもって父母双方を親権者とすることを一律に許さないのは、かえって子の利益に反する結果となりかねない。
そのため、新民法第819条第7項は、裁判所は、単独親権とするか共同親権とするかの判断に当たっては、子の利益のため、父母と子の関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮して実質的・総合的に判断すべきこととしている。
この際には、父母の協議が調わない理由等の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であるかという観点からも検討されることとなる。
また、裁判所の調停手続においては、父母の葛藤を低下させ、子の利益に目を向けてもらうための取組も実施されていると承知しており、高葛藤であったり、容易に合意ができない状態にあったりした父母であっても、調停手続の過程で感情的な対立が解消され、親権の共同行使をすることができる関係を築くことができるようになるケースもあり得ると想定される。
そのため、父母の合意が調わないために裁判所における親権者指定の調停等の申立てがされた場合に、当初の段階から父母双方を親権者とする選択肢を一切除外するのではなく、子の利益の観点から最善の選択がされるよう、当事者の合意形成に向けた運用をすることは望ましいと考えられる。
他方で、父母が高葛藤であるケースにおいては、家庭裁判所における調停手続を経てもなお父母間の感情的な対立が大きく、父母が親権を共同して行うことが困難であると認められることがあると考えられるが、新民法第819条第7項は、そのようなケースにおいて裁判所が親権の共同行使を強制することを意図するものではなく、父母の協議が調わない理由等の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるときには、必ず単独親権としなければならないとしている。
⑶共同親権となるか単独親権となるかの実例予想
以上の改正法の条文や法務省Q&Aを踏まえた当事務所としての運用の予想を以下、事例に分けていくつかご紹介します。
【事例①~子に対する虐待~】
夫が日ごろから子に暴力をふるうなどの虐待行為を繰り返している。妻は見かねて離婚を決意。単独親権を主張したい。
このようなケースは、改正民法819条7項1号に該当します。そして、子に対する虐待をする父親を共同親権者とすることは「子の利益を害する」ことは明らかなので、単独親権が認められると予想します。
【事例②~妻に対する暴力~】
夫が妻に対して暴力をしている。妻は子を連れて別居をし、離婚を進めることとした。
このようなケースは、改正民法819条7項2号に該当するかを検討することとなります。
そして、条文では「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無」と規定されており、これは離婚後にもそのような暴力をうけるかどうかを問題とする趣旨です。
そのため、婚姻中の暴力がその後も続くおそれの有無を裁判所が判断することとなります。
そして、こうした暴力が継続するおそれや、協議が調わない理由、その他の要素も考慮し、結果として「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」といえる場合、単独親権となります。
暴力が続く「おそれ」について、別居をした以上、他方配偶者が日常的に暴力をふるう状況自体は環境的に改善されるかもしれません(つまり、そばにいない以上、暴行を受ける機会は減るだろうということです)。
しかし、法務省Q&Aによれば、過去にこのような暴力があれば、暴力等を受ける「おそれ」があることの肯定に大きく傾く要素となると示されています。
そして、夫婦の一方が他方に暴力をふるうような状況では、互いが対等な立場で子の親権行使のために協議することが困難であるとされることでしょう。
そのため、その過去の暴力行為についての証拠の程度、暴力行為の頻度や態様などにもよりますが、基本的には単独親権になる可能性が高いと予想します。
【事例③~妻に対するモラハラ~】
夫の妻に対するモラハラを理由に離婚を決意した場合はどうでしょうか。
これも事例②と同じく、819条7項2号の該当性を検討することとなります。
先ほどの法務省Q&Aをもとにすると、過去にDVをしていた場合には「おそれ」があると判断される重大要素になる、かつ、過去のDVは身体的DVのみならず精神的DV等も含まれるということでした。
そのため、単純に考えれば、妻に対する暴力があったのと同様に、単独親権となる可能性が高くなるということになりそうです。
しかし、モラハラは、そもそも立証が難しいうえに、どこからどこまでが単なる喧嘩・言い合いで、どこからがモラハラであるのか、一見曖昧な部分もあります。
このように、基本的には単独親権になる可能性が高いものの、立証の問題などから共同親権が認められるケースがあると予想します。
【事例④~夫の浮気~】
夫の妻に対するモラハラを理由に離婚を決意した場合はどうでしょうか。
夫の長年にわたる浮気が発覚したので、妻は子を連れて家を出た。この場合も、新民法819条7項2号でいう「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」の該当性を判断することになります。
もっとも、この場合、夫は妻や子に対して過去に暴力等をしているわけではありません。したがって暴力等の「おそれ」は特殊事情がない限り認められにくく、少なくとも夫婦ともに対等な立場で協議はできると判断されるでしょう。
一方で、お互いが対等な立場であるとしても、浮気という事態が発生したがために、夫婦関係が悪化したとして、「共同して親権を行うことが困難」と判断されることがあり得るのでしょうか。
この点については非常に悩ましいところです。
しかし、従前、実務上では単独親権下においても一方の不貞は親権の判断には基本的には影響しない(他方配偶者への不法行為であっても子に対しての不法行為ではない)とされてきました。
そのため、他方配偶者の不貞があってもただちに単独親権とはならず、共同親権になる余地があると考えられます。
ただし不貞後の他方配偶者の対応や、不貞をきっかけとした夫婦関係の悪化の程度などをみて、場合によれば単独親権になるケースもあるでしょう。
【事例⑤~妻の浮気~】
妻の浮気が発覚し、夫がこれを咎めたところ、妻が子を連れて出て行った。
この場合は、事例④よりもさらに共同親権になる可能性が高く、単独親権になる可能性は例外的な場合に留まるのではと予想します。
この場合、一方が他方に暴力等を振るっているのでない以上、基本的には対等に協議ができると考えられます。
また、夫婦仲が悪化したとしても、これは主に妻側にその原因があるものと考えられます。自ら不仲の原因を作出したものに対して、その不仲を理由に、妻の意向に沿って単独親権にするということは法が不正義に加担することとなりかねませんから、より慎重に判断されるのではと考えています。
(ただし、不貞以前から不仲であった場合、夫にも不仲の原因があった場合、夫が不貞に対して過剰・違法な対応をしている場合、共同親権を求める理由が子のためではなく妻への攻撃であると容易に推測できる場合などは、やはり単独親権との判断がされることもあるでしょう)。
以上のとおり、離婚原因別に単独親権の可否を検討してみました。
事案では、不貞やDV等、一方に明確な責任がある場合を想定しましたが、たんなる性格の不一致であったり、いずれに責任があるとも判断し難いケースも多々あると思います。
この点、条文上は「共同親権が原則」とはされていませんが、そもそも共同親権制度を導入した趣旨に照らすと、このような場合においては共同親権になるケースが多いのではないかと思います。
もっとも、まだまだ判例や実務の流れが確定しているわけではありません。今後も改正後の情報を蓄積し、発信していきます。
7共同親権の行使方法と例外
離婚に伴い共同親権を選択するなどした場合には、以後、以下のような方針にしたがって親権を行使することとなります。
原則:共同行使
転居、進学先の決定、重大な医療行為、財産管理などの重要な事項については、原則として父母双方が合意して決めます(改正民法824条の2第1項本文)。
転居、進学先の決定、重大な医療行為、財産管理
例外:単独行使
以下の場合は一方の親が単独で親権を行使できます。
①父母の一方が親権を行うことができないとき(改正民法824条の2第1項2号)。
②子の利益のため急迫の事情があるとき(改正民法824条の2第1項3号)
例:DVや虐待からの避難、緊急手術、入学試験の期限が迫っている場合など
③監護及び教育に関する日常の行為(改正民法824条の2第2項)
例:食事、買い物、習い事、服装の決定、短期間の観光旅行、高校生のアルバイト許可など
④家庭裁判所が認めたとき(改正民法824条の2第3項)。
⑶監護者の権利義務
以上の親権の定めとは別に、監護親の権利についての条文も追記されました。
これによると、監護親は単独で子供の監護、教育、居所の指定や変更等ができることとなります。
その結果、上記で解説した共同親権の例外は思ったよりも広く適用され、実際上は共同親権と言いつつも同居親(監護権者)の権限が強いものと認められます。
なお、離婚の際は、一方を単独の監護者とするのではなく、共同して監護をすることを前提に監護の分掌を定めることもできるとされています。
法務省のパンフレットでは、以下のような監護の分掌が例として挙げられています。
平日は父母の一方が子どもの監護を担当し、土日祝は他方が担当するといった定め
こどもの教育に関する決定は同居親に委ねるが、その他の重要な事項については父母が話し合ってきめることとするといった差定め
もっとも、現行法においても父母間で合意ができるのであればこのような養育体制をとることも事実上可能でした。
そのため、監護分掌の規定が新設されたからといって、今後ただちにこうした分掌が一般的なものになることは予想しておりません。
8共同親権制度のメリットや期待される機能
以上のような共同親権については、以下のようなメリットないし機能が期待されています。
①親子間の交流促進
別居親も子育てに積極的に関われるようになり、子どもが両親からの愛情を感じられる機会が増えることが期待されます。面会交流の促進も期待されます。
なお、平成28年の厚労省の調査では、母子の面会実施状況は29.8%、父子のそれは45.5%にとどまっています。
②養育費の支払い促進
別居親の責任が明確になり、親権者としての自覚が生まれることで、養育費の支払いが滞るケースが減少する可能性があります。
なお、平成28年の厚労省の調査では、母子の養育費の支払い状況は24.3%(父から母への支払い)、父子のそれは3.2%(母から父への支払い)にとどまっています。
また、養育費の平均受給額は母子が受け取っている月額の平均が43,707円、父子のそれが32,550円とのことです。
このような養育費の未払い状況も踏まえ、共同親権の改正と同時に、法定養育費制度が導入されています。
これは夫婦の合意がなくても子供一人当たり月額2万円を請求できる制度であること、先取特権として差押えの権限が認められることなど養育費を受け取る側にとって極めて有利な制度となっています。
この制度の導入もまた養育費の支払い促進につながると考えられます。
③親権争いの回避
父母双方が親権を持てる選択肢ができたため、離婚時の親権獲得を巡る激しい争いを回避できる可能性があります。これにより、紛争の長期化や子の奪い合いを避ける効果が期待されます。
ただし、今後は「共同親権か単独親権か」を巡る争いが増えることも懸念されるところです。
また、離婚を早めたいがために共同親権に妥協するケースも生じると予想されます。そして、離婚後に単独親権への変更を求めようと思っても容易には実現しないと予想されています。
④監護親の負担軽減
父母が協力する機会が増えることが期待されるため、子どもと同居する親(監護親)の育児の負担が軽減されます。
ただし、この点も結局は離婚後の父母の関係次第によるところが大きいと予想されます。
⑤子の連れ去り問題への対応
親権問題での争いが減少し、親権獲得のために子どもを連れて別居する問題を防ぐ狙いがあります。
9共同親権制度のデメリット
他方で、共同親権には以下のようなデメリットも指摘されています。
①DV・モラハラの継続リスク
共同親権により父母間のやり取りが継続するため、離婚前にDVやモラハラ(身体的、精神的、経済的、性的暴力を含む)があった場合、離婚後も被害が継続するおそれがあります。
DVやモラハラの客観的証拠がない場合、裁判所がそれを認定できず、単独親権とされない懸念もあります。
当事者も、容易に認定されないモラハラなどを諦め、離婚を優先するために共同親権にすることに妥協するケースが生じると予想されます。
その結果、離婚後もこれらモラハラ等の被害が続く可能性が指摘されています。
②意思決定の遅滞
共同親権では親権行使のため、父母の話し合いが必要となります。
その結果、教育方針や進学、医療行為など重要な事項について意見が対立した場合、意思決定が滞り、子どもの利益が損なわれる可能性があります。
意見対立が解消されない場合、家庭裁判所の判断を仰ぐことになり、審理が長期化する懸念があります。
③子の負担増
父母間の対立に子どもが巻き込まれ、板挟みになるなど、子どもの精神的な負担が大きくなる可能性があります。
④親権争いの再燃
既に離婚している夫婦間でも、共同親権への変更を巡って争いが再燃する可能性があります。
また、離婚時に共同親権で妥協したものの、後に単独親権への変更を求めての争いが生じることも考えられます。
⑤親権単独行使ができる範囲の不明確さ
「子の利益のため急迫の事情があるとき」(改正民法824条の2第1項3号)や「監護及び教育に関する日常の行為」(改正民法824条の2第2項)の範囲が不明確とされています。
そのため、共同親権行使か、単独親権行使かを巡る新たな紛争が発生し、訴訟リスクや、支援機関の支援の萎縮効果が懸念されています。
一応、これらの例としては以下のものが考えられます。
DVや虐待からの避難、緊急手術、入学試験の期限が迫っている場合など
食事、買い物、習い事、服装の決定、短期間の観光旅行、高校生のアルバイト許可など
⑥経済的支援の後退
親権者の収入を基に支援の可否が判断される一部の公的支援制度において、「ひとり親」と判断される場面が狭められ、ひとり親家庭への支援が後退する可能性が指摘されています。
10共同親権制度について弁護士ができること
弁護士は、共同親権制度の導入という大きな変化の中で、依頼者と子どもの利益を最優先に考え、多岐にわたるサポートを提案、提供します。
①最適な親権形態の検討とアドバイス
配偶者からのDV・虐待の有無、不倫ないし浮気の有無、モラハラ、子の年齢や意思、養育状況などを考慮し、共同親権または単独親権のどちらが「子の利益」に最も適うか、法的な観点からアドバイスを行います。
当事務所では、これまでも親権争いの事例を多数扱っていることから、共同親権を求める側、共同親権を拒否する側のいずれの立場にたってのアドバイスも可能です。
父親の立場で親権を獲得した実績もあるので、今後は共同親権を主張する父親の立場でのご相談も十分に対応が可能です。
夫婦間の離婚問題に発展し、離婚協議をする中で、夫が子を連れて実家に帰ることとなりました。妻もこれに了承しましたが、親権自体は後に争ってきたため、双方が弁護士を介入した上で調停などの手続を踏みました。
妻は頑なに親権を主張しましたが、裁判所の心証はあくまで現在の監護状況を踏まえて夫が親権者として妥当であるとの結論になりました。
離婚時、夫婦の取り決めで元妻を子の親権者としたが、その後数年たった後に親権者変更の申立てを行い、元夫において子の親権を獲得した事例です。
②交渉および代理
相手方との離婚協議や親権者変更調停において、依頼者の代理人として交渉にあたり、感情的な対立を避けて手続きをスムーズに進めます。
当然、共同親権の獲得もしくは拒否に向けた交渉が可能です。
③裁判所手続きのサポート
希望する親権形態(特に単独親権を希望する場合やDV・虐待がある場合)を獲得できるよう、家庭裁判所での調停や審判における法的主張と証拠に基づく立証活動をサポートします。
④DV・虐待事案における安全確保
DVの事実を裁判所に適切に認定してもらうための証拠収集のアドバイスや、必要に応じた保護命令の申立てなど、依頼者と子どもの安全を最優先に考えた対応を検討します。
⑤合意書の作成支援
共同親権を選択する場合、将来のトラブルを防止するために、意思決定のルールや連絡方法、緊急時の対応などを具体的に定めた合意書(離婚協議書、調停調書など)の作成を支援します。
⑥最新情報の提供
施行に向けた今後の運用ルールやガイドラインに関する最新かつ的確な情報を提供し、継続的にサポートします。
⑦離婚後の共同親権への変更の可否や方法
改正法施行前に既に離婚が成立して単独親権となっている場合でも、親権者変更の手続きにより共同親権に変更すること(移行すること)が可能です(改正民法819条6項)。
ただし、共同親権への移行が認められるのは、家庭裁判所が「子の利益のため必要がある」と判断した場合に限られます。
単独親権から共同親権へ移行するためには、父母の協議だけでは不十分であり、家庭裁判所に親権者変更の調停または審判を申し立てる必要があります。
調停前の父母双方の話し合いは必須ではありませんが、事前に協議することで、裁判所においてスムーズに変更できる可能性が高まります。
親権者変更の調停では、子の利益となるか否か、父母と子との関係、父と母との関係、その他一切の事情が考慮されます。
父母双方が共同親権を希望し、育児放棄などの事情がない場合は、変更が認められやすいケースとなります。一方、DVやモラハラの懸念がある場合や、父母の合意がない場合は認められにくいです。
11共同親権に関する弁護士費用(相談料)
ご相談料一覧
初回相談:5,500円(税込)/50分 以後1,100円(税込)/10分
2回目以降:5,500円(税込)/30分
*無料相談、電話相談は行っておりません。
*土日、祝日はお休みです。
法律相談については、初回50分とさせていただいております。
この点、市役所、法テラスや法律相談センターでの相談時間が僅か20~30分であり、その時間内では、なかなか全ての事情を弁護士に説明することができません。
そこで、当事務所ではお客様のお話を充分にお聞きするために相談時間を50分間とさせていただきました。
相談料金も、1回5,500円(税込)とさせていただいております。
従いまして、当事務所に相談にいらっしゃいました折には、お時間を気になさらずにゆっくりと落ち着いてお話いただき、ご納得されるまで弁護士にご相談いただきたいと思います。
ご相談のご予約はメールフォーム(24時間受付)、LINE(24時間受付)、お電話(平日9時~17時)にてお受けしています。お気軽にどうぞ。

