
この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)
出身:東京 出身大学:早稲田大学
2008年に弁護士登録後、消費者案件(出会い系サイト、占いサイト、ロマンス詐欺その他)、負債処理(過払い、債務整理、破産、民事再生)、男女問題(離婚、不倫その他)、遺言・遺産争い、交通事故(被害者、加害者)、刑事事件、インターネットトラブル(誹謗中傷、トレント、その他)、子どもの権利(いじめ問題、学校トラブル)、企業案件(顧問契約など)に注力してきた。
他にも、障害者の権利を巡る弁護団事件、住民訴訟など弁護団事件も多数担当している。
このコラムについて
このコラムでは、トレント案件に詳しい弁護士の視点から、ITJ法律事務所からトレント利用者に届いた通知書添付の「ご案内とお願い」及び「よくあるご質問(FAQ)」(以下「ご案内とお願い等」といいます)のうち、示談の判断に際して特に重要な点に対して詳しく解説いたします。
このご案内とお願い等は、トレント利用者が抱える強い不安に訴えかけ、迅速な「和解」へと誘導する傾向が見られます。
しかし、安易な即示談は追加の請求リスクや過大な金銭負担につながる可能性があるため、冷静かつ専門的な視点から、最善の解決を目指すことが不可欠です。
以下、ご案内とお願い等にあるQ&Aのうち、重要なものを引用しつつ、当事務所の見解を解説します。
なお、AVビットトレント利用に伴う開示請求・意見照会への対応にお悩みの方、また、迅速な和解を求められている際の具体的な解決戦略に関しては、こちらの記事をご参照ください。




-
これは刑事事件になるのですか?
-
いいえ。本件は直ちに刑事事件となるものではありません。著作権者はまず事実確認を行い、民事的な円満解決を目的としています。ただし、誠実な対応をいただけない場合には、刑事告訴を検討する可能性があります。
【トレント案件に詳しい弁護士からの反論】
著作権法違反は刑事罰の対象となっており、ITJ法律事務所からの通知書には、そのことについての指摘があります。
そのため、通知書を受け取ったトレント利用者は刑事罰を受けることに強い不安を覚えます。
また、ネットでもそのリスクが謡われていることもあり、さらに不安を強めることとなります。
そうした中、ITJ法律事務所は、ただちに刑事事件になることはないと明言をしている点は、ITJ法律事務所からの通知書を受け取った利用者としては安心材料の1つと受け止めてよいと思います(ただし、その方針がいつ変わるかは注意が必要です)。
実際に、当事務所でも1000件を超えるご相談、ご依頼をお受けする中でトレント(アダルトビデオ)の利用に伴う刑事事件になったケースは聞いたことも担当したこともございません(2025年11月)。
そのような実情を踏まえ、以下の点もご留意ください。
1. 故意犯の原則: 著作権侵害による刑事責任は故意責任が前提であり、システム利用の仕組みを「知らなかった」「気づかなかった」という過失のみの場合には犯罪とはなりません。
2. 親告罪: 著作権侵害は親告罪であり、被害者である著作権者(制作会社)の告訴がなければ刑事処分には至りません。かつ、その告訴期限は6カ月と極めて短期間です。
3. 実態: 実際に刑事事件として立件されやすいのは、商業的に違法行為を行っていたり、大量の作品をアップロードしていたりするなどの悪質な事案に限定されます。私的に少し利用した程度の事案で、刑事事件になるリスクは極めて低いと考えられます。
4. 当事務所の統計: 当該法律事務所の取り扱い事例では、AVのトレント利用による逮捕事例や刑事告訴されたケースは、現在まで一件も把握されていません(2025年10月現在)。
5. 回避策: たしかに示談が成立すれば、刑事罰にならず前科もつかないため、告訴を回避できます。しかし、多数に及ぶ可能性のある開示請求のすべてを示談することの可否については慎重な検討が必要と考えます。
法的な違法性と刑事的なリスクに関するご不安に関して、こちらの記事をご参照ください。


-
どのようにすれば解決できますか?
-
書面の内容をご確認のうえ、2週間以内にご連絡ください。ご希望に応じて、和解手続きを進めさせていただきます。
【トレント案件に詳しい弁護士からの反論】
「2週間以内」に「和解手続きを進める」という対応は、多くの場合、依頼者の最善の利益に反する可能性があります。
1. 複数請求のリスク: トレント案件では、複数の制作会社から立て続けに意見照会が届く可能性が非常に高いことが常態化しています。
2. 「即示談」の危険性: 慌てて早期に示談してしまうと、ログ保存期間が経過する前にまた別の会社から請求が届き、「一旦示談したけどまたすぐ届いた」という再度の不安に繋がります。
3. 戦略的解決: 当事務所の基本方針は「即示談以外の解決」です。プロバイダーのログ保存期間の経過を待って、追加の開示請求リスクがゼロに近づいた段階で、最終的な示談の当否(和解するか拒否するか)を判断することが、総額の確定とリスク回避において最も確実な戦略です。
トレント利用による開示請求は、複数回行われるケースがあるのか、また、示談交渉をどのように進めるべきかについて、こちらの記事に弁護士が詳しく解説しております。
ビットトレントシステムの利用に伴う「意見照会書」を受領し、今後の対応や、提示された高額な示談金請求への対処法に関してお悩みの方、こちらの記事をご参照ください。

-
期限を過ぎた場合はどうなりますか?
-
期限を過ぎますと、著作権者側が方針を変更し、告訴や民事裁判などの法的手続きに移行する可能性があります。円満な解決をご希望の場合は、必ず期限内にご連絡ください。
【トレント案件に詳しい弁護士からの反論】
この回答は、期限厳守を促すためにリスクを強調しすぎている可能性があります。
現に当事務所が受任した場合には、2週間の期限を経過していても、すぐに訴訟などになることはありません。以下、要点をご確認ください。
1. 無視のリスク実態: 意見照会書や示談通知を無視した場合でも、民事訴訟や刑事事件のリスクが「高まる」という客観的なデータは確認されていません。これらのリスクを高めるという主張は、過剰な表現であると評価すべきです。
2. 訴訟リスク: 当該法律事務所の統計上、示談を拒否したり交渉が決裂したりした場合でも、実際に民事訴訟になるケースは1%未満に留まっています(2025年現在)。
3. 示談金値上げリスク: ただし、示談の通知を無視し続けた場合、次に届く通知書において示談金額を少しずつ値上げして提示してくるリスクは指摘されているため、無視は推奨されません。
4. 最善の対応: 期限を徒に恐れるのではなく、弁護士に依頼し、ログ期間経過を待つ戦略的な交渉を行うことで、訴訟や刑事告訴のリスクを回避しつつ、提示された示談金額の拒否または大幅な減額を目指すことが可能です。
ただし、プロバイダーからの意見照会書や著作権者からの示談金請求を「無視」した場合にどのようなリスクが生じるのか、また、取るべき具体的な対処法に関しては、こちらの記事をご参照ください。

-
弁護士を通じて対応しても良いですか?
-
はい。ご自身での対応が難しい場合は、代理人弁護士を通じてご連絡いただいて構いません。
【トレント案件に詳しい弁護士からの反論】
弁護士を介すことのメリットは大きいですが、依頼の目的を明確にしないと弁護士費用が無駄になる可能性があります。
1.依頼の必要性: 単に制作会社側から提示された和解条件に従うだけであれば、ご自身で対応可能であり、弁護士に依頼する費用は不要です。そのため、弁護士に依頼するにしても、その弁護士の解決に向けたスタンスをよくご確認ください。
2.弁護士の役割: 弁護士に依頼する真のメリットは、専門知識に基づく戦略的な解決(ログ期間経過待ち、示談金減額/拒否)や、煩雑な交渉窓口の代行による精神的負担の軽減、万が一の訴訟・刑事告訴への備えを提供することにあります。
3.交渉窓口の一本化: 弁護士が受任通知を送付すれば、相手方弁護士からの以後の請求や督促はピタッと止まることが大半です。
トレント問題に関する開示請求が激増している状況、および、安易な即示談を避け、根本的な不安解消と最善の解決を実現するための弁護士選びの重要性に関して、こちらの記事をご参照ください。

-
分割払いは可能ですか?
-
はい。分割でのお支払いにも対応しています。詳細はお問い合わせください。
【トレント案件に詳しい弁護士からの反論】
分割払いが可能であることは事実ですが、高額な示談金そのものについて交渉することがより重要です。
1.総額の確認: 制作会社側が提示する示談金額は、裁判所が実際に認容する損害賠償額(裁判例では数万円程度に留まった事例がある)と比較して過大である可能性があります。
2.分割払いのリスク: ITJ法律事務所の例では、分割払いを選択した場合に総額が割り増しになるといった条件が付されることがあるため、単純な分割可能という情報だけでは不十分です。
3.弁護士の交渉: 弁護士に依頼すれば、高額な示談金について、裁判例(ダウンロード版の利益額に基づく計算、責任期間の限定など)を踏まえて提示額の拒否または大幅な減額を目指す交渉が可能です。経済的な窮状にある場合は、示談金の減額または支払い拒否を最優先で検討すべきです。
AVトレント案件における示談金請求の「相場」や、相手方から提示された高額な請求に対する具体的な交渉方法、および、最適な「対処法」に関して、こちらの記事をご参照ください。

-
一度和解すると、何度も請求されると聞きました。本当ですか?
-
そのようなことはありません。IPアドレスは変わることが多いため、権利者が特定の個人を狙って請求することはできません。ご安心ください。
【トレント案件に詳しい弁護士からの反論】
この質問と同じ質問を当事務所で多数お受けしています。
しかし、示談をしたら狙い撃ちということはないと案内しています。
示談後に追加の意見照会が届くのは偶然の結果であると判断しています。
なので示談と追加の開示請求は関係がないとお考え下さい。
-
表明保証とは何ですか?
-
著作権者は、和解成立後は発信者の言質を信頼し、刑事・民事の責任を追及しないことにしています。「表明保証」とは、発信者が侵害した作品数などの事実を権利者に伝え、それが真実であると約束することです。つまり、「自分はこれだけしか侵害していない」と表明していただくことが表明保証にあたります。もしダウンロード数が分からない場合は、包括和解をおすすめします。
【トレント案件に詳しい弁護士からの反論】
表明保証が責任追及を免れるための約束であることは理解できますが、その条項の裏に潜むリスクと、包括和解の推奨の是非について慎重に検討が必要です。
1.違約金リスク: ITJ法律事務所の示談条件に含まれる表明保証条項は、このファイル以外にトレント利用がないことを表明し、違反した場合には違約金(110万円など)を支払うという内容を伴うため、注意が必要です。
2.包括合意の高額化: 「ダウンロード数が分からない場合に包括和解を推奨する」というスタンスは、特に利用の数が少ない方にとっては過大な請求(包括合意88万円など)につながる可能性があります。包括合意は追加請求リスクを免れるメリットがある一方で、複数の制作会社と包括合意を進めると、負担する示談金額が一気に数百万円に膨れ上がるという致命的なデメリットがあります。
3.適切な交渉: 弁護士に依頼する目的は、提示額が裁判例と比較して過大である可能性があるため、提示された金額を払わない、または減額する弁護活動を目指すことにあります。まずは利用状況を詳細に分析し、真に妥当な損害額を検討すべきです。
-
プロバイダの保存期間が過ぎてから和解した方が良いと聞きました。本当ですか?
-
そのような考え方は誤解です。プロバイダによってはログの保存期間が定められていない場合もあり、また、権利者が発信者情報開示請求をしてから実際に開示されるまで3年以上かかることもあります。(中略)結論として、保存期間を待つことには実質的な意味があります。
【トレント案件に詳しい弁護士からの反論】
回答の冒頭で「誤解です」と断定している点については、トレント案件の戦略において不適切です。
複数、多数に及ぶ可能性のある開示請求を踏まえると、ログ保存期間の経過を待つ戦略は非常に重要かつ効果的です。
また、プロバイダーのログ保存期間はプロバイダーごとに様々です。
たしかにログ保存期間が極めて長いもしくは保存期間を設定していない(無期限)というプロバイダーも存在します。
しかし、これらプロバイダーは全体からすると一部です。そのため、利用したプロバイダーごとに判断をすることが重要です。
しかも、ログ保存期間が長いプロバイダーだからといってこれから延々と開示が続くという確証もありません。
以上を踏まえ、以下の点をご確認ください。
1.戦略的解決の根拠: ログ保存期間(半年から2年以上)の経過を待つことは、複数の制作会社からの追加の開示請求がないことを確認するために不可欠な戦略です。早期示談の危険性(追加請求による費用負担増)を回避し、ご自身が負担すべき賠償総額を確定させてから解決に進めることが、依頼者の精神的・経済的負担を最小化するための最善策です。
2.期間の多様性: ログ保存期間はプロバイダーによって異なり(例:ソフトバンクは非公開、エネコムは1年、新潟通信サービスは最低4年など)、長期化する傾向にあるため、その期間を見据えた対応が必要です。
当事務所がこれまで対応してきたプロバイダーのログ保存期間については、以下のページをご参照ください。
また、トレントの問題に関するよくあるご質問は、以下のページに詳しく解説をしています。
ぜひご参照ください。


執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所


