1 ストーカー行為規制法とは
ストーカー行為規制法とは、「ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに、その相手方に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的とする。」法律です(ストーカー行為規制法第1条)。
ストーカー行為による被害が深刻化していることを受け、2000年(平成12年)に施行されました。
ここでは、
(1)ストーカー行為規制法に定める規制対象行為の前提としての「つきまとい等」には何が該当するのか
(2)具体的な規制対象行為としての「ストーカー行為」には何が該当するのか
(3)「つきまとい等」と「ストーカー行為」とは何が違うのか
などを解説いたします。
2 (1)「つきまとい等」とは
(1)法律の規定
ストーカー行為規制法では、つきまとい等を次のとおり定義しています(ストーカー行為規制法第2条1項)。
つきまとい等に該当するための要件を簡略化して説明すると、(1)恋愛感情等を充足する目的をもって、(2)相手方らに対し、一定の行為をすることがつきまとい等に該当することとなります。
そして、(2)の一定の行為の内容が第2条1項1号から8号までで規定されているのです。
この第2条1項1号から8号の中に関し、令和3年で法改正がありました。その結果、1号の「場所」の要件に関し「通常所在する場所」が、5号に「文書送付」が加わりました。
第二条 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。
二 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
三 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
四 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
五 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。
六 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
七 その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
八 その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この号において同じ。)に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと。
(2)つきまとい等の具体的内容
上記の1号から8号に該当する行為がつきまとい等にあたることとなりますが、具体的にどのような行為がこれにあたるかは解釈の問題となります。
その詳細は警察庁作成の「ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について(通達)」に詳しいのでご参照ください。
https://www.npa.go.jp/laws/notification/seian/seiki/030526_kaisyakuunyou.pdf(3)文書送付の具体的内容について
つきまとい等に該当する行為のひとつとして、令和3年の法改正により加えられた文書送付に関し、上記の警察庁の通達では次のように説明をしているので参考になります。
「文書」とは、一般には、文字や記号で人の思想を表したものをいい、具体的には、手紙、封書及びはがきのほか、相手方の氏名のみ記載されており便箋等が入っていない封筒等も含まれ得るが、白紙は含まれない。
「送付」とは、ある場所ないし人から他の場所ないし人に書類その他の物を送り届けることをいう。
これによると、単に白紙の文書を投函しただけでは、規制の対象の「文書」には該当しないことになりそうです。また、相手方の氏名のみを記載している場合には「文書」に該当すると考えているようですが、自分の名前のみを書いた場合に該当するかは説明がありません。
3 (2)ストーカー行為とは
(1)法律の規制
ストーカー行為規制法では、ストーカー行為を次のとおり定義しています(ストーカー行為規制法第2条4項)。
これによると、ストーカー行為には、(1)前項で説明をしたつきまとい等が、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により、「反復して」行われれば、「ストーカー行為」に該当することとなります。
また、つきまとい等とは別に、(2)位置情報無承諾取得等(いわゆるGPSによる位置情報取得等のこと)を反復してすることもストーカー行為に該当することとなります。
この位置情報無承諾取得等もまた令和3年の法改正により規制の対象となった行為であるから、別途、説明をします。
同一の者に対し、つきまとい等(第一項第一号から第四号まで及び第五号(電子メールの送信等に係る部分に限る。)に掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)又は位置情報無承諾取得等を反復してすることをいう。
(2)位置情報無承諾取得等とは
ストーカー行為規制法では、位置情報無承諾取得等を次のとおり規定しています(ストーカー行為規制法第2条3項)。
位置情報無承諾取得等に該当するための要件を簡略化して説明すると、(1)恋愛感情等を充足する目的をもって、(2)相手方らに対し、位置情報を取得することもしくは位置情報取得装置を取り付けることが位置情報無承諾取得等に該当することとなります。
「位置情報無承諾取得等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一 その承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置(当該装置の位置に係る位置情報(地理空間情報活用推進基本法(平成十九年法律第六十三号)第二条第一項第一号に規定する位置情報をいう。以下この号において同じ。)を記録し、又は送信する機能を有する装置で政令で定めるものをいう。以下この号及び次号において同じ。)(同号に規定する行為がされた位置情報記録・送信装置を含む。)により記録され、又は送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を政令で定める方法により取得すること。
二 その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること。
(3)ストーカー行為に対する罰則
ストーカー行為に該当する行為をすると「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」になります(ストーカー行為規制法第18条)。
また、禁止命令違反してストーカー行為をした者に対しては「二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金」になります(ストーカー行為規制法第19条1項)。
その他罰則もある厳しい規制となっています。
4 まとめ
以上のとおり、つきまとい等と位置情報無承諾取得行為がストーカー行為の内容となり得るものです。その際、ストーカー行為規制法では、一定の恋愛感情目的などという要件を付加していることにも注意が必要です。
執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所