不貞慰謝料請求の流れと解決までの期間について

このコラムでは、不倫による慰謝料を請求した際の解決までの流れを説明しています。あらゆる不倫問題を扱ってきた弁護士の経験に基づき、示談交渉の場合や民事訴訟による場合にどのような手続きの流れを辿り、解決に至るかをポイント毎に解説しています。不倫でお悩みの方の一番良い解決の道しるべとしてください。

1 はじめに

配偶者の浮気、不貞行為が発覚し、悩んだ挙句、浮気、不倫相手に慰謝料請求をすることに決めたものの、慰謝料を請求した後の流れや解決までの期間について予め把握しておきたいと考える方は少なくないと思います。

そこで、ここでは(1)不貞慰謝料を請求した場合の流れと、(2)不貞慰謝料が解決するまでの期間についてその注意点などをご説明いたします。

2 (1)不貞慰謝料を請求した場合の流れについて

(1)不貞慰謝料請求の方法について

配偶者の浮気や不貞が発覚した後、事実確認を経て証拠も収集すれば、後は不貞相手に対して慰謝料を請求するばかりとなります。

その際、示談交渉を持ちかけるか、民事訴訟(裁判)を起こすかの方法が考えられます(一応、民事調停の方法もありますが、当事務所の経験上は不貞慰謝料請求を民事調停で解決することはほぼありませんのでここでは割愛します。)。

示談交渉と民事訴訟とはそれぞれ手続きが異なり、メリットデメリットも異なってきます。必要になる弁護士費用や支払ってもらえる慰謝料額等にも相違が出てきます。また、当事者の方の事情や希望もあるでしょうから一概にどちらが良いとは言い切れませんので注意してください。

とはいえ、一般的には、示談交渉の方がうまくいけば早期解決に繋がるというメリットがあり、訴訟の方が相手方の責任を事実に照らして明確にできる(言い逃れを許さない)というメリットがあるといえます。

反面、示談交渉は代理人弁護士を依頼しない限りは、直接自分が交渉窓口となり相手方とやり取りをしないといけないという精神的なストレスが、訴訟は解決まで時間がかかるという負担があります。

そうした示談交渉と民事訴訟の特徴の違いや当事者の意向等を踏まえ、示談交渉と民事訴訟のいずれの方法を選択するかについては、ケースによります。

その際、事案に応じたいくつかの考慮要素に従って判断をすることが多く、最終的には不倫問題に詳しい弁護士の経験に従って、いずれの方法を選択することが望ましいかをアドバイスしています。

具体的には、

 (1)相手方が不貞行為を認めるか否か

 (2)認めたとして責任を感じ、素直に交渉に応じるか否か

 (3)十分な資力があるか否か

という3つの考慮要素で判断をします。

その際、(1)の点について、浮気相手が不貞行為を認めていて、(2)の点について責任を感じていて、かつ(3)経済力もあるようであれば、示談交渉で解決する可能性が相当高いと言えますが、これらが逆のようであれば示談交渉での解決の可能性は低まっていきます。

このような見通しを踏まえたアドバイスを経て、いずれの方法を選択するかは当事者の方が最終的に判断することとなります。その際、いきなり訴訟を起こすのではなく、原則として示談交渉をしないといけないということはありません。最初から訴訟を起こすことも多々あるのが実情です。

以下では、示談交渉を選択した場合と、民事訴訟を選択した場合で具体的に不貞慰謝料請求の問題がどのように進んでいくのかやその対処をご説明いたします。

(2)示談交渉を選択した場合

ア 通知書の作成

示談交渉を選択した場合には、まずもって相手方に対して通知書を送る準備をします。

具体的には、手元にある証拠や把握している事実関係(いつごろ知り合っていつごろからどこでどのように不貞関係を持ったのか、不貞行為をきっかけに夫婦関係はどのようになったのかなど)を念頭に、相手方に対して請求する慰謝料やその他の要求事項(謝罪や接触禁止、回答期限、支払い期限など)を検討します。

イ 通知書の発送

通知書を作成したら、普通郵便、書留郵便、内容証明郵便のいずれかの方法で相手方に通知を発送することとなりますが、不貞慰謝料請求の場合には内容証明郵便で送付して交渉を進めることが通常だといえます。

この点、内容証明郵便であれば、相手方に当該通知書が届いたことを証拠として明確に残すことができるからです。

ウ 通知書発送後の流れ

発送した通知書が相手方に届いたら、そこから、通知書で指定した期限までの間に相手方からの慰謝料の支払いがあるかどうかや、連絡ないし回答があるかどうかを待ちます。

通知書で指定する期限としては、1週間とか2週間と指定をすることが多いです。

通知書に記載のある要求金額について、相手方からその支払いがあればそれで慰謝料の支払いとなるので損害賠償請求は終了となります。

ただし、謝罪や接触禁止などを求めたい場合には引き続き交渉を行うことも考えないといけません。

また、連絡があったとしても、支払うお金について、高額すぎるとして減額の交渉を持ち掛けられることもあります。その場合には支払い額やその他の条件も含めて相手と交渉を行うこととなります。

交渉の中では、不倫相手がそれまでどの程度の期間や回数不倫関係を持ったのか、不倫行為について反省をしているのか、支払い能力や意欲がどの程度あるのかなどについて話し合いをします。

話し合いは、電話や面談で行うことがあり、専門家である弁護士に依頼の場合には、法律事務所に来てもらってそこで話し合いをすることも多々あります。

その話し合いに際して、不倫相手からは、様々な言い分が出されますが、その一般的な典型例5つについて、下記のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

なお、不倫の責任ないし損害賠償義務は、法的には既婚者であると知っていた場合(故意がある場合)に限らず、既婚者であることを知らなかったものの注意すれば気付き得た場合(過失がある場合)のいずれでも生じる点に注意が必要です。

他方で、期限までに支払いも連絡もない場合には、その後の対応を検討する必要があります。具体的には、再度、通知を送るのか、直接相手方に連絡をするか、もしくは示談交渉は諦めて民事訴訟を提起するのかの検討です。

ところで、よくある質問でもありますが、通知書を送っても支払いも直接の連絡もしてこない相手方というのは決して少なくありません。

このような相手方はそもそも不貞行為に関して言い分を持っており、それゆえ自分には責任がないなどと考えていることも多く、支払いはおろか連絡すらしてこないのだと言えます。

そう考えるとこのような相手方に対しては話合いでの解決手法である示談交渉よりも、証拠に基づき裁判所からしっかりとした結論を出してくれる民事訴訟の方がふさわしいとも言えそうです。

なお、民事訴訟にした場合でも、裁判所からの呼び出しに応じなければ示談交渉の場合と異なり、原告の請求を認容した判決を言い渡してくれるというメリットがあります。そして、確定した判決に基づき認容された金額を差し押さえる強制執行も可能となります。

とはいえ、示談交渉と民事訴訟では解決までの期間や弁護士に支払う費用も異なってくるので可能であれば示談で解決をしたいと考えるのが通常です。

そのため、通知書を送付後も辛抱強く繰り返し相手に連絡をとるなどすることが一般的です。

いずれの経過を辿ったとしても、条件面で折り合いが付いた場合、合意の内容に従って合意書を作成したり、公正証書を作成したりします。

合意書と公正証書とでは、執行力の有無の点で大きな違いがあります。すなわち、相手が支払いを約束した内容を後日、実際には支払わない時に公正証書であれば差押えができるというメリットがあります。

とりわけ、支払ってもらう金額を分割払いにする場合には、後の支払いが遅れた場合に備えて公正証書にしておくことが一般的です。

ただし、公正証書にする際の費用をどちらが負担するかを巡り争いになることもある点、注意が必要です。

エ 示談交渉で求める金額について

示談交渉の際に通知書でいくらの慰謝料を求めるとの記載をしますが、その金額の定め方には特定のルールはありません。

弁護士に相談した場合には、裁判例に照らした一般的な不倫慰謝料額(精神的苦痛に対する賠償)の説明を受けることと思います。

当事務所でも不倫の事案では、当該ケースを離れた一般的な慰謝料相場を必ずご案内しています。

その際のご説明としては、裁判例の傾向としてまずは150万円くらいで認定されることが多く、そこから増額や減額になるのは個別の事情によるとしています。

増額事由としては婚姻期間が長いこと、夫婦の間に幼い子供がいること、不貞期間が長いこと、不貞回数が多数回に渡ること、不倫相手が子供を妊娠出産をしたこと、反省の態度が見られないこと、不貞を原因に離婚に至ったこと、不倫を原因に別居に至ったことなどです。

他方で減額事由としては、不貞期間が短いこと、不貞回数が少ないこと、事実を認め反省していること、もともと夫婦関係が悪化していたことなどです。

そのような説明を踏まえ、示談交渉の際に、300万円から500万円くらいで通知書を作成することが多いです。余りに高額で請求をすれば結局は大幅な減額交渉になってしまいますので、あり得る水準を踏まえた請求に留めることをお勧めしています。

とはいえ、ケースによっては相場を超えた金額での請求も大切なことなので、最終的には弁護士に事情を伝え、決めるようにしてください。

なお、不倫による慰謝料については別途、別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

オ 慰謝料以外の示談条件について

示談交渉でいくらの慰謝料を支払うかについて折り合いが付いた後に、その他の条件の協議をすることがあります。

たとえば夫が不倫をしたケースで説明すると、不倫相手に交際終了の確約と、以後の夫との接触禁止(電話、メール、LINEでのやりとりや訪問等をしないことの約束)を条件に盛り込むことがあります。

他にも、謝罪条項や、今回の示談について不倫のことや示談のことを第三者に言わないとかSNSにアップしないとの口外禁止条項もあります。

これら条項ないし条件については、お互いの思惑の中で示談の内容に含めるかどうかを検討することとなります。

(3)民事訴訟を選択した場合

ア 訴訟提起の準備

示談交渉が決裂したもしくは諸般の事情から最初から民事訴訟を選択した場合には、訴状を作成し、提出する書証を用意します。

訴状の中身では不貞の原因を明らかにし、その責任が相手方にあることを前提に、相手方に求める慰謝料額(示談交渉の際と同様に300万円から500万円くらいとすることが多い)や調査費用(探偵や調査会社に依頼した際の費用)、弁護士費用(一般的には慰謝料額の1割)について記載をします。

その際、もともとの夫婦関係や不貞行為の詳細、そのためにどのような被害を被ったのかを裁判所に理解してもらえるように記載します。

イ 訴状の提出と被告の呼び出し

訴状と書証が揃ったら裁判所に提出をし、第一回口頭弁論期日が指定されるのを待ちます。

第一回口頭弁論期日が指定されれば今度は裁判所から相手方に対して訴状等と期日への呼び出し状が特別送達という郵便の方法で送達されます。

相手方は届いた書類を見て自分が被告として訴えられていることや原告の主張内容、証拠内容を知ることとなります。

ウ その後の具体的な裁判手続きの進行について

その後、指定された口頭弁論期日にて、原告の主張とこれに対する被告の認否や反論がなされ、その後も複数回は双方の主張や立証の応酬が続きます。

なお、上記でも引用しましたが、不倫慰謝料請求の際に不倫をした側からよく出される主張の概要やこれらが通るかどうかの可能性については別のページに詳細を解説していますのでそちらをご参照ください。

エ 裁判所和解案の提示

民事訴訟では、お互いの主張立証が尽きた段階で、裁判所から和解案が示されることがあります。裁判所では、不貞行為に基づく損害賠償請求の事案について、相当な数の事例の蓄積があることから、裁判所・裁判官の相場に基づく和解案が提示されることとなります。

なお、不貞慰謝料の相場については別のページに詳細を解説していますのでそちらもご参照ください。

「不倫の慰謝料相場や相手方に請求できる弁護士費用などについて知りたい」

原告としても、被告としても納得のできない和解案であれば応じる必要もありませんので、まずは裁判所・裁判官からの和解案について真摯に検討してみることをお勧めします。

その上で原告、被告双方が和解案に応じることができるとなれば合意が成立するので和解ということで裁判手続きは終了します。

合意の内容は和解調書という形で裁判所が書面にしてくれるので、後で合意内容を巡って紛争になることは通常ありません。

なお、判決と和解の違いや、裁判所の和解案を拒否した場合のその後の心証の問題については別のページに詳細を解説していますのでそちらをご参照ください。

オ 尋問手続きと判決

上記の裁判所和解案に、双方もしくは片方が応じられないとなれば、以後、証拠調べ(本人尋問、証人尋問)を行うこととなります。

これは公開の法廷での尋問手続きになるので、お互いの主張内容に対して本人や証人が互いに証言をし、いずれの言い分に理由があるかを明らかにする手続きです。

尋問期日は一度開かれ、その際、当事者双方がそれぞれ30分から60分くらいの時間を使って自分の言い分を証言するようになります。

この尋問手続きを経た後、改めて裁判所から和解案が示されることもありますのでその際には改めて応諾の可否を検討してみてもらいようになります。

再度の和解案に応諾できないもしくはもともと再度の和解案が提示されなかった場合には判決期日が指定され、判決の言い渡しを待つこととなります。

カ 判決と控訴

第一審での判決を踏まえ、双方もしくは片方がこれに応諾できないと考えれば控訴をすることとなります。

控訴審では、第一審での審理を踏まえ、控訴審にて第一審の判断を覆すべき理由があるかどうかを検討してくれます。また、控訴審で改めて和解の可否を打診されることもあります。

そのため、控訴審において和解で解決することもありますし、控訴審で改めて判決の言い渡しを受けることもあります。

控訴審に対しては最高裁への上告も認められていますが、上告審で結論が覆ることは非常に稀です。

3 (2)不貞慰謝料が解決するまでの期間について

以上のように、不貞慰謝料の問題が解決するまでにはそれぞれ段階を踏んで進んでいくこと、相手方からも主張や反論が出ることが多いことからいずれの手続きを選択してもそれなりに期間がかかります。

その上で、示談交渉の場合であれば、早くて1か月程度で解決することもありますが、長いと数か月かかることもあります。

さらに、数カ月間の交渉を経たけど示談がまとまらないことも当然、あります。その場合にはやむなく民事訴訟の提起に踏み切るほかなくなります。

他方で、民事訴訟の場合には、6か月で解決すれば早い方で、通常は1年前後の期間を要することが多いと言えます。

当然、示談交渉を試みたがまとまらず、民事訴訟の提起に至った場合にはトータルで相当長い期間が必要ということになります。

なお、不貞慰謝料請求はいつまでにこれをしないといけないのか、その消滅時効の問題についてですが、不貞行為が終了してから3年と考えてください。ただし、不貞行為が発覚したものの浮気相手の氏名や住所が明らかにならず、請求ができなかった場合には、これらが明らかになった時から3年となります。

執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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