ネット誹謗中傷やファイル共有ソフトでのAVアップロードによる賠償責任について


この記事を書いた弁護士
代表弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)

出身:東京  出身大学:早稲田大学
ここ数年、数百件のトレント案件(トレント利用者側)に注力している。単なる示談での解決ではなく、ログ保存期間を踏まえての示談や、ケースによってはそもそも示談を拒否すべきとして案件処理にあたっている。
現在、拠点のある岡山や香川に留まらず全国各地(北海道から沖縄まで)からオンライン(ZOOM利用)にて相談のみならず、受任対応を続けている。

*近場、遠方を問わずZOOM相談希望の方はご遠慮なくお申し出ください。


このコラムでは、ネット上に誹謗中傷の投稿をしてしまったり、ファイル共有ソフトにて動画などをアップロードしてしまった場合の損害賠償の内容について詳細に解説をしています。開示請求が届いたとしてもこのコラムを読んで、情報を整理し、慌てずに対応をするようにしてください。

1 ネットへの書き込みの民事上の責任について

インターネットを通じて、匿名で掲示板やSNSに誹謗中傷の書き込みをしてしまったり、ファイル共有ソフト経由でAV(アダルトビデオ)のアップロードをしてしまった結果、名誉毀損や侮辱、著作権侵害などの責任を負うことになります。それらの場合、自分が加害者になってしまったということで、実際に相手からどのような請求があり、最終的に自分が加害者としてどのような責任を負う可能性があるのか心配になる方も少なくありません。

そこでここでは、インターネットへの誹謗中傷投稿、AVなどのアップロード行為について、具体的にどのような民事上の責任を負う可能性があるのか、その内容について解説をしたいと思います。

以上の民事責任と異なり、誹謗中傷を理由とした刑事上の責任については別途、問題となり得ます。そして、相手が刑事告訴をしてきた場合など実際にどのような刑事事件になり得るのかは別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

2 民事上の責任として問われ得る責任内容について

(1)損害賠償責任について

この点、民事上の責任について理解をする上で、一番基本となるのは損害賠償責任です。

すなわち、インターネット上の誹謗中傷やファイル共有ソフト経由でのAVのアップロード行為に限らず、民事上の責任は金銭賠償が大原則です。

そのため、インターネットに誹謗中傷の書き込みをしたとか、ファイル共有ソフト経由でアダルトビデオをアップロードしたことの民事上の責任も当然、この金銭賠償がまず問題となります。

(2)名誉回復措置について

そして、この損害賠償とは別に、名誉毀損の場合には、「裁判所は被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」とされています(民法723条)。

名誉毀損は、公然と人の社会的評価を低下させる行為を意味しますが、社会的評価の低下に対して、金銭賠償のみでは十分にその人の被った損害が回復させられない場合に、名誉回復措置としてこの規定が活用されます。

具体的には謝罪広告が典型で、裁判所は、損害賠償の代わりに謝罪広告を命じたり、損害賠償と共に謝罪広告を命じたりすることとなるのです。

ただし、この名誉回復措置は名誉毀損の場合だけであり、侮辱や著作権侵害の場合には取り得ない措置です。

(3)民事上の責任のまとめ

したがって、インターネット上に書き込み等をしたことの民事上の責任は以下のとおりに整理ができます。

(1)名誉棄損の場合;損害賠償、謝罪広告などの名誉回復措置

(2)侮辱;損害賠償

(3)著作権侵害:損害賠償

3 損害賠償の内容について

(1)損害賠償の内容

次に、金銭賠償としての損害賠償についてですが、具体的に損害賠償と一言で言っても、具体的にどのような損害についての賠償をしなくてはならないのかが問題となります。また、これら損害額について、示談交渉にて相手方に請求をするのか、それとも裁判の方法で請求をするのかによってもあり得る解決水準が異なる点に注意してください。

この点については、(1)慰謝料、(2)調査費用(発信者情報開示請求のための弁護士費用)、(3)弁護士費用(損害賠償請求のための弁護士費用)、(4)営業損害があり得ます。

以下、順番に説明をします。

(2)(1)慰謝料について

慰謝料は、インターネット上になされた名誉棄損や侮辱行為を理由として、これら行為により被った精神的苦痛を慰謝するためのものです。

個人に対する名誉棄損や侮辱に対しては当然に、慰謝料が認められます。

他方で会社などの法人についても、社会的評価の低下はあり得ることから名誉棄損が成立するとされ、その慰謝料も認められています。

しかし、侮辱は、個人が持つ名誉感情に対する侵害と考えられているため、法人に対する侮辱は成立せず、侮辱を理由とした慰謝料も認められません。

さらに、インターネット上に動画等をアップしたことで著作権侵害を問われた場合にも、慰謝料の問題は生じません。

なお、慰謝料の額としては、名誉棄損の場合の方が侮辱よりも高額化します。また、投稿された内容、投稿された人の立場、投稿の結果、どの範囲で投稿内容が拡散されたかなどによっても金額が左右します。その結果、名誉棄損の慰謝料としては、事例によって数万円から数百万円という幅の中で判断されている状況です。

ただし、一般人の方で100万円を超える慰謝料が認定されることはまだまだ少なく、数十万円に留まるのが実情です。

侮辱の場合であればこれをさらに下回る額での判断となります。

(3)(2)調査費用について

インターネット上に名誉棄損や侮辱、著作権侵害がされたためにその投稿者の氏名や住所を特定するとなると、プロバイダ責任制限法に基づく開示請求訴訟等の複雑な手続きが必要です。そのため通常は弁護士への委任がかかせません。

当然、弁護士費用が必要になるのですが、その費用を投稿者に負担させられないかが問題となります。

この点については、まだ裁判例の判断が完全に固まったとは言い難いものの、負担した費用の大半を加害者たる投稿者に求めることができるようになってきているといえます。中には負担した費用の全額を投稿者に支払わせる裁判例もあります。

このような流れは、インターネット上の投稿により多大なる苦痛を被り、多額の費用を余儀なくされた被害者を救済するために重要なことだと言えます。

ただし、発信者情報開示のための費用は、多数ある投稿に対して生じる費用であるところ、当該投稿が全部、自分のした投稿なのか、当該投稿全部に対して発信者情報開示請求が認容されたのか、など細かい点で当然に全額を投稿者に負担させることが妥当なのか吟味が必要なことも事実です。

したがって、調査費用については、要した費用がいくらなのか、依頼をした調査の範囲はどこまでなのか、調査の結果、依頼した範囲のうちどこまでの投稿が特定できたのかなど厳密に特定できるように、しっかりとした委任契約書を作成しておくことが大切です。

なお、発信者情報開示請求とは別に削除のために費用を要することもありますが、上記の費用には削除の費用を含めていない点、注意が必要です。

(4)(3)弁護士費用について

上記の調査費用も弁護士費用の負担を投稿者に求めることができるかという問題でした。

他方で、こちらの弁護士費用は、調査費用とは別に、調査の結果明らかになった投稿者に対して損害賠償請求をするに際して必要になった弁護士費用のうち、いくらを投稿者に請求できるかという問題です。

この点については、従前からの民事不法行為責任の追及の際と同様に、肯定される慰謝料額の1割というのが相場です。

すなわち、慰謝料として100万円が認定された場合にはその1割りの10万円が弁護士費用として認められるのです。

たしかに、たったの10万円では弁護士費用として不足するのですが、とはいえ、損害賠償請求訴訟は発信者情報開示請求訴訟と異なり、必ずしも弁護士でないとできないとは言い切れないとも言え、現状ではこのような慰謝料の1割という考え方が根強く残っています。

ただし、この慰謝料に対する1割の費用を認めるとの点も、あくまで裁判での請求の際に裁判所が判決で認める金額です。示談交渉の際には訴訟になっていないことを理由として弁護士費用の相手方負担にはなかなか応じようとしないのが通常です。

(5)(4)営業損害について

インターネット上に動画等を無断でアップロードされた場合、その動画等の著作権を持つ者は、動画等のアップロードにより本来、自分が得ることのできた利益を失うこととなります。

そのため、営業上の損害として著作権侵害による損害賠償を求めることができます。

この点、著作権侵害の際の損害額の計算については別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

4 ネットへの書き込み等による賠償金の目安について(まとめ)

以上を踏まえ、ネットへの書き込み等による賠償金の目安を大まかに示すと以下のとおりとなります。ただし、投稿内容や回数、期間、投稿された人の立場などによって変わることから、あくまで目安として考えるようにしてください。いずれにしてもネットへの書き込みをきっかけとしてトラブルになってしまった場合には、状況をきちんと見極めて落ち着いた対応をすることが必要です。

(1)名誉棄損

 慰謝料:10万円から100万円

 調査費用:要した額の半額から全額

 弁護士費用:1万円から10万円

(2)侮辱

 慰謝料:数万円から数十万円

 調査費用:要した額の半額から全額

 弁護士費用:数千円から数万円

(3)著作権侵害

 調査費用:要した額の半額から全額

 営業損害:ケースにより大幅な違い

 弁護士費用:同上

【2023.4.20追記】

ここ最近、本件(ビットトレントを通じたアダルトビデオのアップロードに伴う製作会社からの発信者情報開示請求やプロバイダーからの意見照会書の受領を前提としたお悩みやトラブル)に関するご相談が非常に増えております。

その理由としては、ビットトレントの利用者が相当多数に及ぶこと、ひとりの利用者あたりで通常は相当数の動画をダウンロードしたりアップロードしていること、アダルトビデオの製作会社は多数あるところ、どの製作会社も一律にビットトレント経由での違法アップロードに徹底した対応をとるスタンスをとっていることなどという点にあります。

このような中、意見照会書を受領した利用者の方は、周囲に相談できる状況には通常なく、不安を覚えネットで情報収集をすることが多いと思います。ネット上では当事務所を含め、複数の法律事務所による多数の記事があり、それらの情報が利用者の方の役に立つことはもちろんです。

また、弁護士による記事以外では5ちゃんねるのスレッドに多数の投稿があり、これもまた情報収集のためには一定の意味を持つものと考えられます。

とはいえ、これらネット上での情報収集のみですべての案件に適切な対応ができるかというと限界があるのも事実です。そのため、当事務所を含め、本件に関しては現在、多数の相談が寄せられているのが実情のようです。

そうした中、岡山県と香川県に拠点を持つ当事務所では、現在、岡山県内や香川県内に限らず、中国地方全般(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)、四国地方全般(徳島県、香川県、愛媛県、高知県)にお住まいの方からのご相談も広く承っております(その他の地方のご在住の方からももちろんお受けします)。

その際、遠方のため事務所まで足を運べない方でも、zoom相談にて対応しておりますので、ぜひ一度ご連絡いただければと思います。

相談予約などの連絡先は以下のURLからアクセス願います。

お問い合わせ・ご相談
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ビットトレントによるアダルトビデオのアップロードに関する問題は、日々状況が変化しています。ネットで得られない情報と最善の解決のために、弁護士へのご相談をご検討ください。

執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)

1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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