飲食店で食中毒が発生すると、食品衛生法に基づき、業務停止命令がなされることがあります。
そして、都道府県知事などは、食品衛生法に基づき、違反者の名称などを公表するよう努めることとなっており、HPなどで営業者の氏名、施設名、行政処分の理由や内容などが公表されます。 ただし、公表期間は無期限ではなく、行政処分を行った日から14日以内に限るケースが多いです。
このような食品衛生法やその運用を前提に考えると、ある店で食中毒が発生したことについてのSNSへの投稿が長期間残されることには、問題があるといえます。
SNSなど、インターネットを使った投稿の場合、一度投稿してしまうと、自由に削除ができなかったり、長期間にわたって投稿が放置されたりするケースが散見されるためです。
店が、行政処分や氏名公表といった制裁も受け、営業を再開しているような場合に、過去の食中毒の情報がいつまでもSNSなどに残されることは、飲食店の名誉や営業の自由に大きな支障を与えることとなります。
ここでいう名誉毀損とは、他人や企業の社会的評価を低下させる行為を意味し、民法上の『不法行為』として、損害賠償などの対象となります。
ただし、ある事実を公表した記事や投稿が、
(1)公共の利害に関する事実にかかわるもの
(2)もっぱら公益を図る目的に出たもの
(3)真実であるか、あるいは、真実と信じたことにつき相当な理由がある という要件を満たす場合、たとえその人や企業の社会的評価を低下させる行為であっても、違法性がないとして損害賠償の対象になりません。
今回のケースで考えると、飲食店での食中毒情報は、時間の経過とともにその公益性が徐々に低下していくのが通常です。 そのため、飲食店での食中毒情報は、発生して間もない時期であれば公益性が高いとして、SNSなどでの公表も問題とはならないでしょう。
しかし、SNSでの公表をそのまま放置し、長期間経過してしまうと、名誉棄損や営業妨害の責任を問われる可能性が高まると言えます。
したがって、飲食店での食中毒についてSNSで公表したい場合には、その内容が長期間にわたり残ってしまうことの問題を視野に入れて、投稿の是非を検討するべきだと思います。
執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)