1 婚約破棄とその法的責任について
婚約とは、「婚姻予約」の略で、将来において適法な婚姻をすることを目的とする当事者の合意すなわち契約を意味します。
そして、かかる婚約を不当に破棄した者は他方に対して慰謝料の支払い義務を負うとするのが最高裁の考え方です(最判昭和38年9月5日)。
2 婚約破棄による慰謝料が認められるための要件
(1)婚約破棄の要件
以上のように、婚約破棄は一定の場合に、破棄した者に対する慰謝料支払い義務が課されます。
これを具体的に説明すると、
(1)婚約が成立していること
(2)不当な婚約破棄があったと認められること
という二つの要件が必要です。
(2)(1)婚約が成立していること
婚約破棄による慰謝料が認められるにはまずは何より(1)婚約が成立していたことの証明が必要です。
そして、婚約の成否は単にお互いの口頭の合意(「結婚しようね」とか「ずっと一緒にいようね」というもの)だけでこれが認められる訳ではありません。
すなわち、婚約は将来の婚姻の予約である以上、婚姻の成立に向けた相当程度の関係が当事者間に構築されていることが必要であり、それゆえ、以下のような事情を総合考慮して婚約の成否が判断されています。
・婚姻することのお互いの口頭合意があること
・婚姻の時期を具体的に定めていたこと
・挙式の予定を立て、予約や打ち合わせが進んでいたこと
・婚約指輪を渡していたこと
・結婚指輪を用意していたこと
・婚姻後の生活の住居を確保していたこと
・新婚旅行の予定を立て、予約をしていたこと
・お互いの家族に婚姻を前提に紹介をしていたこと
・結納を渡していたこと
・お互いの職場や友人に婚約を前提に紹介していたこと
以上のような事情を踏まえ、婚約が成立していたかどうかが判断されることとなります。
実際、婚約破棄による慰謝料を求める事案では、そもそも婚約が成立していたのかどうかという点で争われるケースが少なくありません。
(3)(2)不当な婚約破棄があったと認められること
婚約が成立していることを前提に、次に不当な婚約破棄があったと認められて初めて婚約破棄の慰謝料が認められます。なので、婚約破棄があってもそれが「不当な」ものといえない限りは慰謝料が認められないのです。
では、具体的にどのような場合に「不当な」破棄といえるのでしょうか。具体例を挙げると暴力による場合、他の異性との交際などが多いようです。これらは婚約破棄が不当だと明確に言いやすいケースですが、逆に言うとこれら以外のケースで婚約破棄の不当性を肯定してもらうためにはそれなりの事情の主張立証が必要だと言えます。
3 婚約破棄の慰謝料相場について
以上を前提に、不当な婚約破棄と認められた場合、具体的にいくらの慰謝料が肯定されるかが問題となります。
この点、どのような事情から慰謝料が算定されるかですが、挙式などのためにどの程度の準備がされてきたか、婚約破棄の事由の程度、交際期間や妊娠の有無などにより算定されているといえます。
そして、具体的な慰謝料相場としては、数十万円から200万円の範囲で判断されている事例が多数です。
執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更