交際中の女性に対する中絶の強要と慰謝料請求の可否について

1 交際相手の妊娠とその対応方法について

交際相手が不意に妊娠をしたと知らされ、思いもよらない出来事に慌てる男性は少なくありません。そして、妊娠を知ったカップルとしては、妊娠を継続するか、人口妊娠中絶をするかいずれかの選択が必要となります。

その際、お互いの考え方が一致していれば何ら問題はありませんが、不一致の場合にはその妊娠をきっかけに関係は一気に悪化してしまいます。

また、元々の男女関係自体が、純粋な恋愛関係の場合に限らず、一方もしくは双方が既婚者同士の不倫関係の場合、一方が既婚者であったが未婚者であると偽って交際をしていた場合など様々なケースがあり得ます。

こうした各自の置かれた状況の中で、とりわけ多いのは妊娠を知った男性側が女性側に対して中絶を求めるケースです。

これに対して、女性側としては、自分が身籠った子どもを産みたいと思うことが多いと思います。

これはたとえ相手の男性と婚姻しないこととなっても同じです。

なので、相手の女性が男性の子どもを産みたいと考えているのであれば、男性側から中絶・堕胎を要求しても応じないことが通常です。そのため、中絶を拒否された男性は、その後の自分の身分関係や立場を守ろうと女性に対して中絶を強要し、時には強行しようとするケースすらあります。

この点、前提として人工妊娠中絶は、妊娠をした本人の同意が要件です(母体保護法14条1項)。そのため、本人が同意をしていない中でこれを実行することはできません。

そうした中で、強制的に中絶や堕胎を要求することは刑法上の脅迫罪(刑法222条)や強要罪(刑法223条)に問われる可能性もありますので注意が必要です。

すなわち、脅迫罪は「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」と定め、強要罪は「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。」と定めており、中絶の強要は、これらに該当し得るのです。

また、非常に悪質なケースでは、子宮収縮剤薬物を飲ませることで流産をさせたという事例(慈恵会医大病院医師不同意堕胎罪事件)もあり、刑事事件で責任を問われたものがあります。

他にも、妊娠した交際相手の妊娠の状況を診てあげると偽り、麻酔をした状態で胎内の胎児に対して無水エタノールを注水することでこれを死亡させたことが不同意堕胎致傷の罪に問われたものがあります。

これらは自分の交際相手が妊娠をし、中絶に応じないとなった際に男性側がとった行動として非常に悪質性の高いものだといえます。

2 中絶の強要に対する慰謝料請求の可否について

以上のように、中絶を強要することは時に刑事上の責任問題にもなりますが、民事上も女性の自己決定権を侵害することは明らかです。

そのため、女性が真に中絶、堕胎に応じない中でこれを強要することは女性から男性に対する不法行為に基づく損害賠償請求の余地があると言えます。

また、ケースにもよりますが、そもそも男性が女性との婚姻を約束していたような場合には、婚約破棄の慰謝料という問題も成立し得ます。

なお、中絶の強要等に伴う慰謝料等の請求の可否は別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

執筆者:弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
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