個人宅のポストにチラシを投函するポスティングについては、住居侵入罪(刑法130条前段)の成否が問題となります。
住居侵入罪は、「正当な理由」がないのに、人の「住居」に「侵入」することで成立します。
まず、「住居」とは単に居室そのものに限らず、居室に至る通路等も含みます。戸建てであれば建物に至るまでの敷地、マンションであれば各部屋に至るまでの共用部分廊下等も「住居」に該当します。
次に、「侵入」とは判例上、住居権者(居住者等)の意思に反する立ち入りを指すとされており、ポスティング目的での立ち入りが、居住者の意思に反するかどうかが重要となります。 この点については、「チラシお断り」などのステッカーを敷地の目立つ場所に掲示しているとか、居住者に直接ポスティングをやめることを要求された場合などでは、ポスティング目的での立ち入りは「侵入」にあたることとなります。
また、商業ビラのポスティング目的での立ち入りの場合、「正当な理由」が認められることは難しいと言えます。あくまで業者の経済活動として行われているに過ぎないからです。
本件で問題となっているポスティングについては、マンションの目立つ場所にチラシ配布を拒否する掲示がある場合には違法となる可能性が高くなります。また、店舗の男性から明確に注意を受けていることからしても、少なくとも以後のポスティングは違法とされるでしょう。
もっとも、実際の警察や裁判での運用としては、ポスティング行為が警察に住居侵入罪として取り上げられること、裁判にかけられることは極めて稀です。
ビラ配布を住居侵入罪で有罪とした有名な最高裁の判例が2つありますが(立川反戦ビラ配布事件、葛飾政党ビラ配布事件)、いずれも政治的表現にかかわるものであり、表現の自由として重要なビラを、住居の平穏を害することなく投函したに過ぎないものであり、憲法が保障する表現の自由の重要性からするとその判断には疑問もあります。また、これらの事件は、政治的ビラゆえに裁判になった側面を否定できず、商業用のビラ配布で裁判になるのは極めて稀です。