飲酒はいつから許可制になったのか?~緊急事態宣言の解除後も続く「制限」~
9月末をもってすべての緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除されることとなりました。
その解除と相まって、多くの報道で「10月1日からも飲食店での飲酒は自治体の「許可」がないとだめ」かの如く報じられています。
この点、あまりにも長く続いた緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の結果、多くの国民の感覚は麻痺し切ってしまい、このような報道に対して何ら「違和感」を覚えていないようにも思います(だからこそ、多くの報道機関が、飲食店での飲酒に今後も許可が必要かのように報じてしまっているのですが。)。
しかし、よく考えてみて下さい。そもそも飲酒は年齢の問題を除いて本来自由です。飲食店でこれを提供することも同様で何らの免許も許可もいりません。
そうです。飲酒も酒類の提供も本来は「自由」が大原則です。
そうした自由という大原則の例外として、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の一環として、飲食店の休業要請や命令、時短要請や命令が繰り返されてきたのですが、これらの要請等はあくまで新型インフルエンザ等対策特別措置法に具体的な根拠があります。
そうすると、10月1日以降は緊急事態宣言もまん延防止等重点措置もすべて解除になるのですから、酒類の提供は大原則に戻って「自由」になります。
ところが、国や自治体においては、再度のまん延防止のためだと称して、10月1日以降も酒類の提供については一定の条件を認めた店舗に限って「認めていく」という言い方をしています。これを聞くと、大半の人は「10月1日以降も酒類の提供ができるのは例外なのだ。」と感じてしまうことでしょう。
では、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も解除された後に、酒類の提供を制限する法的根拠はあるのでしょうか?
残念ながら答えは「ない」です。
新型インフルエンザ等対策特別措置法には、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置もない状況で酒類の提供を制限する明確な根拠条文を設けていません。
これは考えてみれば当然です。
本来、自由なはずの酒類の提供を制限することは営業の自由にかかわる人権問題です。国や自治体がこれを制限できるとすれば相応の保障、相応の根拠(すなわち法律)が必要です。
しかし、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も解除された中で、酒類の提供を制限することの大義名分はありません。当然、そのような法律もありません。
ただ単に「リバウンド防止」というだけで制限できる理由にはなりません。なぜなら、現時点でリバウンドするかどうかなど判然としないし、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除されたのはそもそもこれらを発令ないし適用する目安を下回ったからです。
そうした中で飲食店のみをターゲットにして酒類の提供を制限することなどもはや人権侵害以外の何物でもありません。
ちなみに、新型インフルエンザ等対策特別措置法24条9項に「都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。」とあることをもって、緊急事態宣言等の状況になくても酒類の提供を制限できるかの如く主張する人もいると思います。
しかし、同条は酒類の提供を制限するという重大な効果を認める根拠規定足り得ません。重大な私権制限を認めるからにはより具体的な根拠が必要です。しかも、上記条項が定めるのは単なる「協力の要請」です。今問題となっているのは10月1日以降も「酒類の提供を制限することが当然に許されるかの如き問題」です。単なる要請と制限とは次元が異なることは明らかです。
したがって、みなさんもここ数日の報道をみて、「10月1日以降も酒類の提供は限定的なのか。」と受け止めてしまうのではなく、本来、10月1日以降は酒類の提供は自由であるところ、国や自治体が独自の解釈をもって不当な制限をしようとしていることを理解してください。また、多くの報道機関ではこのことについて十分留意せずに、国や自治体の発表をそのまま報道してしまっていることも理解してください。
日本は法治国家です。国や自治体の行政権の行使には必ず法令上の根拠が求められます。それが法律による行政です。そして、行政がこれを無視した場合には国民や報道機関によるチェックの結果、直ちに是正されないといけません。
長引くコロナのせいであらゆる自由の制限が当たり前のように感じてしまう方が増えていると思います。しかし、自分の自由は自分で主張しないといけません。このままではコロナが明けても自由は戻らないと危惧しています。