ビットトレントシステムなどのファイル共有ソフトで動画などをアップロードしてしまった。いくらの損害賠償になるか。
このコラムでは、ビットトレントなどファイル共有ソフトにより他人の著作物を違法にアップロードしてしまった際に負うこととなる損害賠償額の計算方法を解説しています。
【目次】
1 ファイル共有ソフトによる動画などのアップロードと発信者情報開示について
2 著作権侵害を理由とした損害額の算定について
⑴著作権侵害の逸失利益について
⑵著作権法上の損害額の算定の規定について
⑶著作権法上の損害額の算定のまとめ
【本文】
1 ファイル共有ソフトによる動画などのアップロードと発信者情報開示について
ビットトレントなどのファイル共有ソフトにより他人の著作物(映画、アニメ、その他動画など)を(自分の知らないうちにいつの間にか)アップロードしてしまったため、後日、著作権者(これら動画の著作権を有する会社など)からの発信者情報開示請求がプロバイダー経由でなされ、かつ損害賠償も求められた。このような場合に具体的にいくらの損害賠償責任を負うことになるか知りたい。このようなご相談が増えています。
まず、ファイル共有ソフトにより、いつの間にか動画などがアップされていたため、このようにして開示請求が届くというケースが増えています。ファイル共有ソフトをダウンロードはしたものの、自分はアップロード行為まではしていないと考えていた場合、アップロード行為を否定したり、仮にアップロード行為があったとしても自分に落ち度はないとかという考えに至ることが多いと思います。
とはいえ、民事上は過失による場合でも不法行為による損害賠償責任が生じることから、安易に開示請求に対して不同意で回答をしてよいものかどうかを考える必要があります。
すなわち、仮に不同意で回答をした場合でも、権利者からすれば自身の著作権などの権利侵害があることから、プロバイダーを被告とした発信者情報開示請求訴訟に踏み切ることが通常です。
そうすると、発信者情報開示請求訴訟の結果、結局はプロバイダーから契約者情報が開示され、ひいてはこの情報を基にして損害賠償を請求されることとなるのです。
そのため、ビットトレントなどのファイル共有ソフトをダウンロードをしたことが事実であれば、自分で制御できない範囲で動画などがアップロードされている可能性が高いと思い、その後の対応を検討するべきです。
著作権などを侵害されたとして発信者情報開示を行う権利者とすれば、任意で開示に至った場合と、判決に至って開示に至った場合とで解決に至るまでに要する期間も費用も異なります。当然、心情的にも大きな違いが生じます。そのため、後に負担せざるを得ない損害賠償額についても大きな違いが生じます。
このような観点からビットトレントなどのファイル共有ソフトを理由とした開示請求への対応を考えることが重要です。
2 著作権侵害を理由とした損害額の算定について
⑴著作権侵害の逸失利益について
冒頭の事例は、故意過失により他人の著作権という権利を侵害したことになり、民法の不法行為の規定(民法709条)に従うと、著作者が、著作権侵害がなければ得られたであろう利益(逸失利益)について責任を負うこととなります。
とはいえ、その逸失利益の算定は未知数の問題であるため、計算や証明が用意ではありません。そのため、著作権法ではこのような場合に備えた損害算定の規定があります。
⑵著作権法上の損害額の算定の規定について
①著作権法114条1項
まず、著作権法114条1項では、著作権を侵害した者が販売等した侵害製品の数量に、著作権者が侵害行為がなければ販売できた単位数量あたりの利益額をもって(ただし、著作権者の販売能力を超えない額)を損害額と推定する規定です。これは、侵害品の販売がなければ同数の正規品が売れたはずとの考えに基づく推定規定です。おおまかには次の通り計算できます。
①侵害物の数量×著作権者の本来の利益額
②著作権法114条2項
次に、著作権法114条2項では、侵害品を販売したことで侵害者が得た利益を著作権者の損害額と推定する規定です。3の①と比べて著作権者ではなく、侵害者の利益に基づき計算できるため、立証が容易にになります(著作権者の本来の利益額の計算よりも、侵害者の実際の利益を計算する方が用意)。おおまかには次の通り計算できます。
②侵害物の数量×侵害者の利益額
③著作権法114条3項
最後に、著作権法114条3項では、著作権者が侵害者に対し、著作権の行使により受けるべき額を損害額として請求できると定めています。これは次の通り計算できます。
③侵害物の数量×権利者が数量当たり受けるべき額
⑶著作権法上の損害額の算定のまとめ
このように、逸失利益の算定が困難な中で、著作権法は著作者の権利を守るため、損害算定についての特別の規定を設けています。
それでも、①、②、③のいずれに際しても「侵害物の数量」を特定することが必要であるところ、冒頭のケースにあるような「ファイル共有ソフトでいつの間にかアップロードされてしまい、他の人がダウンロードできるようにしてしまった」という場合だと、実際に自分がアップロードしたことで他人がどれだけの回数ダウンロードしたのかの立証は困難なことが多く、著作者としてはこれら規定をもってしても「実損害額」を算定することが難しいのが実情です。
このことは著作権者も承知していることであり、そのため、裁判では時に実情を離れた余りにも高額な損害額の計算と請求がなされたりすることもあります。
そのため、あまりに法外な請求額の訴状が届くなどし、慌てて相談に来る方もあります。
【2023.4.21追記】
著作権侵害に伴う損害額計算は上記のとおりであるところ、その立証のためには上記のように、実際のダウンロード回数の立証が重要です。この点に関し、従前はダウンロード回数の立証が容易でなかったところ、ここ最近ではダウンロード回数の立証を工夫する製作会社ら著作権者からの主張も増えてきました。
そのため、「立証が容易でないから大した責任は負わなくて済む」との考えは今後は通用しないと思った方が無難です。
要するに、ビットトレントによる著作権侵害に対し、アダルトビデオの製作会社も単に手をこまねいている状況ではなく、次々と取り得る手段を工夫してきているのです。
なので、このようなアダルトビデオの製作会社のスタンスも踏まえた検討が非常に重要になります。
【追記以上】
他方で、著作権侵害の損害額算定が難しいことを念頭に、定型的な金額をもって示談にて解決をする著作権会社も少なくありません。いずれにしても、ファイル共有ソフトを理由とした開示請求が届いた際には、弁護士への相談を強くお勧めいたします。
【2023.4.20追記】
ここ最近、本件(ビットトレントを通じたアダルトビデオのアップロードに伴う製作会社からの発信者情報開示請求やプロバイダーからの意見照会書の受領を前提としたお悩みやトラブル)に関するご相談が非常に増えております。
その理由としては、ビットトレントの利用者が相当多数に及ぶこと、ひとりの利用者あたりで通常は相当数の動画をダウンロードしたりアップロードしていること、アダルトビデオの製作会社は多数あるところ、どの製作会社も一律にビットトレント経由での違法アップロードに徹底した対応をとるスタンスをとっていることなどという点にあります。
このような中、意見照会書を受領した利用者の方は、周囲に相談できる状況には通常なく、不安を覚えネットで情報収集をすることが多いと思います。ネット上では当事務所を含め、複数の法律事務所による多数の記事があり、それらの情報が利用者の方の役に立つことはもちろんです。
また、弁護士による記事以外では5ちゃんねるのスレッドに多数の投稿があり、これもまた情報収集のためには一定の意味を持つものと考えられます。
とはいえ、これらネット上での情報収集のみですべての案件に適切な対応ができるかというと限界があるのも事実です。そのため、当事務所を含め、本件に関しては現在、多数の相談が寄せられているのが実情のようです。
そうした中、岡山県と香川県に拠点を持つ当事務所では、現在、岡山県内や香川県内に限らず、中国地方全般(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)、四国地方全般(徳島県、香川県、愛媛県、高知県)にお住まいの方からのご相談も広く承っております(その他の地方のご在住の方からももちろんお受けします)。
その際、遠方のため事務所まで足を運べない方でも、zoom相談にて対応しておりますので、ぜひ一度ご連絡いただければと思います。
相談予約などの連絡先は以下のURLからアクセス願います。
https://kakehashi-law.com/modules/inquiry/
ビットトレントによるアダルトビデオのアップロードに関する問題は、日々状況が変化しています。ネットで得られない情報と最善の解決のために、弁護士へのご相談をご検討ください。
【2023.6.29追記】