誹謗中傷で相手を訴える方法についての弁護士解説
このコラムでは、ネット誹謗中傷の被害に遭った際にどのような法的手段がとれるのかを専門の弁護士の視点で解説しています。誹謗中傷の被害やトラブルに遭った際の参考にしていただければ幸いです。
【目次】
1 誹謗中傷の被害の実情について
2 誹謗中傷とは何か
⑴誹謗中傷とは
⑵誹謗中傷の例
3 誹謗中傷と法的責任の違いについて
⑴誹謗中傷と法的責任について
⑵誹謗中傷が権利侵害となる具体的な基準について
4 誹謗中傷を受けてしまった際にできること
⑴誹謗中傷被害に遭った際に取り得る法的手段について
⑵①投稿内容の削除請求
⑶②投稿者の特定のための発信者情報開示請求
⑷③投稿者に対する損害賠償請求
⑸④投稿者に対する謝罪文の要求
⑹⑤投稿者に対する刑事告訴
5 誹謗中傷被害に遭った際にしておくべきこと
6 誹謗中傷で相手を訴える方法や法律についてのまとめ
【本文】
1 誹謗中傷の被害の実情について
インターネットやSNSの普及により、ネット上の誹謗中傷が後を絶ちません。誹謗中傷の被害者による刑事告訴や民事訴訟の提起も増え、かつ侮辱罪も厳罰化され、社会の意識も大きく変化しつつも誹謗中傷の根絶には程遠い状況です。
どんな人でもいったん誹謗中傷の被害に遭うと、日常は一変し、それまでの穏やかな日々は一気に失われてしまいます。
「どこの誰が自分のことを悪く書いている。」「自分について書かれたことを多くの人に見られている。」
このような気持ちを持ちながら毎日の生活を送るのはとてもしんどいものです。中には誹謗中傷の被害のために自殺に追い込まれたケースがあることはみなさんもご承知のことだと思います。
当事務所でも、多くのご相談をお聞きし、誹謗中傷の被害に遭われた方が人生や生活を破壊させられてきた様子を目の当たりにしてきています。
このような人生被害に遭った被害者としては、当然、被害の回復を求めたいと考えるのが自然です。謝罪もそうですし、損害賠償も当然のことです。同様の投稿を繰り返さない確約も求めたいところです。可能であれば刑事事件にし、司法による厳重な刑事罰を求めたい気持ちもあることでしょう。
これらは被害者の方の素直な感情なので当然に尊重すべきものです。
では、これらの措置について、法律の力、法的手段を用いて相手方を訴えるためには具体的にどのような対応が必要になるのでしょうか。
以下では、誹謗中傷の被害に遭った際にとるべき対応などについて詳しく解説をしたいと思います。
その前提として、そもそも誹謗中傷とは何かについても解説をしたいと思います。
2 誹謗中傷とは何か
⑴誹謗中傷とは
昨今、誹謗中傷という言葉が広く使われるようになりましたが、厳密にこの言葉の意味を理解していたり、説明を受けたりしたことは少ないのが実情です。
そこで敢えてここで説明をしますが、誹謗中傷とは「誹謗」(他人の悪口を言ったり罵ったりする行為)と「中傷」(根拠のない嘘やでたらめを述べる行為)の二つの言葉が合わさった言葉です。
結果、誹謗中傷とは、根拠のない悪口で他人を傷つけることを意味するものとして広く用いられています。
ネット上の掲示板で悪口を書いたり、口コミサイトで否定的なコメントを残すことも当然、誹謗中傷といえるのです。
【誹謗中傷とは】
・誹謗と中傷が合わさった言葉
・根拠のない悪口で他人を傷つけること
⑵誹謗中傷の例
以上の誹謗中傷の意味を前提として、実際にどのような言葉や表現が誹謗中傷に当たるかの事例を以下のように示しておきたいと思います。これらはあくまで例に留まるので、これら以外は誹謗中傷に該当しないということではないのでご注意ください。
①容姿に関係するもの
ブス、ハゲ、チビ、デブ
②性格や思考に関係するもの
キモイ、馬鹿、アホ
③他人の私生活上の行為などについて指摘するもの
犯罪者、不倫をしている、ヤリマン
④企業に対する悪評
ブラック企業、悪質業者
3 誹謗中傷と法的責任の違いについて
⑴誹謗中傷と法的責任について
以上のように、昨今では誹謗中傷という言葉が非常に広く浸透し、誹謗中傷があればどんな内容であっても削除請求が可能だとか、発信者情報開示請求が可能だとかと受け止められがちです。
しかし、上記で説明をした誹謗中傷という用語は、非常に抽象的かつ広範な意味を持つものであり、いわゆる「法律用語」そのものではありません。
そのため、誹謗中傷行為のうち、一定の法律上の要件を満たすものに限り、法的な意味での権利侵害が成り立ち、法的な責任が生じるのです。
そして、その一定の法律上の要件としては、
①名誉棄損(名誉権侵害)
②侮辱(名誉感情侵害)
③業務妨害
などがあり得ます。
①は人の社会的評価を低下させる行為であり、
②は人の主観的な名誉を傷つける行為であり、
③は人の業務を妨害する行為を意味します。
これらとは別に、他人のプライバシーを侵害する行為(他人の住所や氏名、病歴などを公開する行為)は上記の意味での誹謗中傷には該当しません。
とはいえ、プライバシー権を侵害するものであるため、誹謗中傷そのものではありませんが、法的な権利主張が可能です。
そのほか、最近では著作権を侵害する投稿も増えているところ、著作権もまた誹謗中傷行為ではないものの、著作者の側から削除請求や損害賠償請求という法的手段をとることが認められています。
同様に肖像権侵害もまた誹謗中傷とは離れますが、ネット上での権利侵害が問題となっており、法的手段をとることが可能となっています。
【誹謗中傷と法的責任】
・誹謗中傷行為が名誉棄損や侮辱に該当する場合には法的責任が生じ得る
【誹謗中傷と関連するネット上の権利侵害行為】
・プライバシー権侵害、肖像権侵害、著作権侵害など
⑵誹謗中傷が権利侵害となる具体的な基準について
以上のとおり、誹謗中傷が法的な意味での権利侵害を構成して初めて削除などの法的手段が認められます。その際、どのような要件を満たす必要があるかは個別の権利毎に別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
「ネットに投稿された誹謗中傷投稿を削除する方法」
4 誹謗中傷を受けてしまった際にできること
⑴誹謗中傷被害に遭った際に取り得る法的手段について
誹謗中傷被害に遭ってしまった場合には、以下のような法的手段を取り得ます。これらについて順番に解説をします。
①投稿内容の削除請求
②投稿者の特定のための発信者情報開示請求
③投稿者に対する損害賠償請求
④投稿者に対する謝罪文の要求
⑤投稿者に対する刑事告訴
⑵①投稿内容の削除請求
投稿内容が名誉権、名誉感情、プライバシー権を侵害する場合、これら権利は人格権を構成することから人格権妨害排除請求権として投稿内容の削除を求めることが可能です。
削除のための具体的な流れや手続きとしては、投稿された先(掲示板やブログ、TwitterやFacebook、Googleの口コミなど)に任意での削除を求める方法と、仮処分での削除を求める方法があります。
いずれの方法を選択するべきかについては、投稿された先によって異なるため、経験に基づく個別の判断が必須です。
また、これら権利とは異なり著作権の場合にもその排他的権利性(著作権法112条)から削除請求が認められています。
⑶②投稿者の特定のための発信者情報開示請求
削除請求とは別に、当該投稿をした投稿者の氏名や住所を調べる方法としては、いわゆる発信者情報開示請求が可能です。
これは、被害者が投稿者に対する損害賠償請求等のために必要なことから、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダー責任制限法)に基づき創設的に認められたものです。
発信者情報開示請求のための手続きとしては、
第1に、掲示板等に対してIPアドレスの開示を求め(任意もしくは仮処分)
第2に、IPアドレスのから判明したアクセスプロバイダーに対して発信者情報開示請求をする
という流れを踏みます。
この手続きについては、これまで第1と第2とでそれぞれ別々の法的手続きを取らなくてはならない事から、時間的にも費用的にも被害者の負担が大きいとされていました。
そこで、この問題を解決するために2022年から発信者情報開示命令制度が創設され、一つの手続でIPアドレスの開示から発信者情報の開示までを行うことができるようになりました。その結果、被害者の費用負担も抑えられ、開示までの期間も短縮する結果となりました。
なお、発信者情報開示請求手続きのより詳細な流れなどは別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
「発信者情報開示請求やその後の損害賠償請求などの流れについて」
⑷③投稿者に対する損害賠償請求
発信者情報開示の手続の結果、投稿者の情報が判明した後に、投稿者に対して当該投稿により被った損害賠償を求めることとなります。
その方法としては、示談交渉による場合と、損害賠償請求訴訟による場合とがあり得ます。
損害賠償として請求できる金額や項目としては慰謝料や調査費用、弁護士費用が通常です。
これら費用については、裁判例などの相場に照らすと、慰謝料が数万円から100万円程度、調査費用については要した費用実額(最近は発信者情報開示請求のためにかかった費用の大半を投稿者に負担させる裁判例が増えています)、弁護士費用として慰謝料等の1割程度となることが多いです。
被害者としては、このような裁判例での相場なども踏まえながら、相手方に対する請求額や請求方法を検討することとなります。
【請求できる金額】
・慰謝料;数万円から100万円程度
・調査費用;要した費用
・弁護士費用;慰謝料等の1割程度
⑸④投稿者に対する謝罪文の要求
損害賠償とは別に、名誉棄損の場合に限り謝罪文の投稿を相手方に求めることや裁判所に命じてもらうことが可能です。これは名誉棄損が成立する際の名誉回復措置の手段として法律上認められているもので(民法723条)、投稿者の実名入りでの謝罪文を、当該投稿をした媒体に投稿することを命じるものです。
これは投稿者に対する強い牽制になること、被害者の名誉回復措置として大きな意味を持つものといえます。
ただし、謝罪文の投稿は、その結果、被害者の被害を一部回復したものと扱われ、求めている慰謝料を減額する根拠とされかねない点、注意が必要です。
【謝罪文の投稿】
・名誉棄損(名誉権侵害)の場合に限り認められる
・名誉回復の効果があるが、慰謝料が差し引きされることがある
⑹⑤投稿者に対する刑事告訴
これまで説明をした内容は、いずれも投稿者に対する民事責任の追及についてでした。
他方で、誹謗中傷被害に対しては刑事責任の追及も可能であることから、投稿者への厳罰を求める際には刑事告訴を検討することとなります。
その際、典型的には名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)、著作権侵害(著作権法119条)での刑事告訴が主となります。
そして、名誉毀損については、刑事上は民事上と異なり、事実を適示した場合に限定されている点に注意が必要です。
なお、これらとは別に、プライバシー権は刑事罰の対象となっていない点、注意が必要です。
刑事告訴を行う際には、どの媒体に対するどの投稿が自分に対するどのような権利をどうして侵害すると言えるのかを明らかにする必要があります。また、投稿者が誰かについて開示請求の結果が出ていないと警察としても容易に受理してくれないので、刑事告訴を行うためには先行して発信者情報開示請求で開示を受けておくのが通常です。
その上で刑事告訴を行うと、ケースによっては投稿者を警察が逮捕することもありますが、実際に逮捕に至るケースはそう多くないのが実情です。言い換えると逮捕に至るケースは、同種前科があるとか投稿内容が相当悪質と認められる場合に限られています。
ちなみに、当事務所でこれまで名誉棄損や侮辱を根拠として刑事告訴を行ったケースでは、一度目の件では逮捕にならず、同じ人物が二度目の投稿を繰り返した際の告訴で逮捕に至ったというものがあります。
また、実際の刑事処罰としても、一度目の場合には罰金で終わることも少なくありません。その上で二度目の場合には執行猶予付きの懲役刑になることが多いといえます。
そのため、名誉棄損罪を根拠として懲役の実刑になるのは何度か罪を犯した後の場合になることが通常です。
5 誹謗中傷被害に遭った際にしておくべきこと
不幸にも誹謗中傷被害に遭ってしまった際には、上記のような各種法的手続きをとることが可能です。
そのためには被害者としてとにかくまず以下の措置や対策をとっておくべきです。
①問題となる投稿のスクリーンショットをとるもしくは印刷をしておく
②発信者情報開示請求のためには時間制限があるので急いで対応を決める
①は、まずは何より証拠の確保という意味です。問題となる投稿に気が付いた後にいつの間にか削除されていたような場合だと、発信者情報開示請求も損害賠償請求も、刑事告訴もできません。
②は、発信者情報開示請求のために必要となるIP アドレスについて、掲示板などのコンテンツプロバイダーがこれを保存している期間が3か月程度と限られていること、当該投稿の際に経由したアクセスプロバイダーについても同様であることから、誹謗中傷被害に遭った際には、開示請求をするかどうかを急いで決める必要があるのです。
6 誹謗中傷で相手を訴える方法や法律についてのまとめ
昨今非常に増えているネット上での誹謗中傷ですが、どのような内容でも削除や開示などができるわけではありません。いわゆる法的な意味での権利侵害を構成するものに限り、法的措置が可能となっているのです。また、権利侵害を構成するとしても、具体的に何が請求できるかは侵害された権利によって異なります。
その上、削除にしても開示にしても刑事告訴にしても解決のための法律や手続きは複雑です。
他にもネット上の技術的な限界も含め、この分野においては経験豊富な専門の弁護士への相談や依頼が重要です。
以上を踏まえて誹謗中傷で相手を訴える場合の方法などについて考えてみてください。
執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所