インターネットトラブルの解決と弁護士への相談について
様々なインターネット上のトラブルに関し、それぞれどのような解決が可能かを解説しています。インターネット上のトラブルは、その分野に詳しい弁護士への相談が必須です。
【目次】
1 インターネットトラブルの概要について
⑴インターネットトラブルとは何か
⑵インターネットトラブルの種類について
2 ①ネットやSNSへの書き込み等の誹謗中傷問題
⑴ネットを通じた誹謗中傷問題の概要について
⑵①名誉権侵害について
⑶②名誉感情侵害について
⑷③プライバシー権侵害について
⑸④著作権侵害について
⑹誹謗中傷問題についての解決方法について
3 ②ワンクリック詐欺や架空請求などの消費者被害
4 ③サクラサイト、占いサイトなどの(②以外の)詐欺被害
5 ④SNSを通じた国際ロマンス詐欺被害
6 ⑤見知らぬ人に裸や下着の写真の提供を求められて応じてしまう児童ポルノ禁止法の問題
7 インターネットトラブルについてのまとめ
【本文】
1 インターネットトラブルの概要について
⑴インターネットトラブルとは何か
インターネットの普及した現代社会においては、インターネットの便利さと裏腹で、インターネットを通じたトラブルもまた著しく増加しました。
そのため、「インターネットトラブル」といっても非常に多種多様なトラブルが存在します。
そこで、ここではまずは「インターネットトラブル」には具体的にどのようなトラブルが存在するのかを明確にした上で、それぞれのトラブルに対して法律の力で弁護士がどのような解決を導くことが可能なのかをご説明いたします。
⑵インターネットトラブルの種類について
インターネットトラブルを定義づけるとすれば、それは「インターネットを利用し、もしくは通じて生じたトラブル」と説明することになりますが、それだけでは余りにも定義として広すぎるため、実際のトラブル解決のためには、「インターネットを通じて具体的にどのようなトラブルが生じたのか」を明らかにする必要があります。
そこで、インターネットトラブルを具体化すると以下のとおりに整理をすることができます。ただし、インターネットトラブルというのは何もここに整理したものがすべてではなく、その他にも多種多様なトラブルが存在しますし、今後も生じ得ることに注意が必要です。
④SNSを通じた国際ロマンス詐欺被害
⑤見知らぬ人に裸や下着の写真の提供を求められて応じてしまう児童ポルノ禁止法の問題
2 ①ネットやSNSへの書き込み等の誹謗中傷問題
⑴ネットを通じた誹謗中傷問題の概要について
ここ数年、ネット上の誹謗中傷問題については多くの民事、刑事上の事件が生じています。報道で見聞きすることも増えていることや、法改正が続いていることからも世間での注目を浴びている事件類型です。
とはいえ、一言に「誹謗中傷問題」と言ってもその内容ないし問題となる権利侵害の種類は多様です。すなわち、誹謗中傷問題と言った場合には、①名誉権侵害、②名誉感情侵害、③プライバシー権侵害、④著作権侵害などが問題となることが多く、それぞれの権利毎に権利侵害が認められるための基準ないし要件が異なりますし、損害賠償として認められる金額にも相違がでます。さらには、金銭賠償以外の救済として何を受けることができるかも異なってきます。
【誹謗中傷問題の種類】
①名誉権侵害
②名誉感情侵害
③プライバシー権侵害
④著作権侵害
など
⑵①名誉権侵害について
名誉権侵害は、名誉棄損とも呼ばれ、民事上は不法行為となり、刑事上も名誉棄損罪になります。
名誉権侵害が認められるためには、特定の表現行為が特定の人や法人の社会的評価を低下させるか否かがまず問題となります。その上で、違法性阻却事由の有無が問題となります。
名誉権侵害が成立するためには、民事上は事実の適示を伴うか否かを問わず、単なる意見論評であっても成立することがありますが、刑事上は事実適示型の名誉棄損しか認められていません。
また、名誉権は法人にも認められるとされており、名誉感情侵害(侮辱)とは異なり、個人に限られていません。
そして、民事上は名誉権侵害が肯定されれば、削除や損害賠償のみならず、謝罪広告もまた認められています。この点、名誉感情侵害(侮辱)では謝罪広告が認められていないのと異なります。
【名誉権侵害の特徴】
①民事上、刑事上の責任が生じる
②社会的評価の有無が問題
③法人にも認められる
④謝罪広告を求めることができる
⑶②名誉感情侵害について
名誉権侵害と似て非なるものとして名誉感情侵害(侮辱)を挙げることができます。名誉感情侵害は名誉権侵害と異なり、その人の持つ自分自身の名誉感情を侵害する行為ですから、社会的評価の低下の有無は問いません。そのため、名誉権侵害と異なり、問題となる表現行為が第三者の目に触れない形や方法で行われている場合であっても成立します。
ただし、名誉感情侵害は、主観的な「感情」の侵害を対象とすることから、ただ単にその人が当該表現により「気分を害した」として名誉感情侵害を認めることは相当ではなく、一定の範囲に限り成立するものとして限定がされています。
すなわち、名誉感情侵害が認められるのは、社会通念上の許容範囲を越える程度の侮辱行為の場合に限られるなどという形で成立範囲に絞りがかけられています。
また、名誉感情侵害は、刑事上の侮辱罪に該当する行為であり、刑事罰の対象となる点は名誉権侵害と同様です。
なお、法人には「感情」はないものとされていることから、法人に対する名誉感情侵害は成立しないとされています。
【名誉権侵害の特徴】
①民事上、刑事上の責任が生じる
②社会的評価の有無は問題とならない
③法人には認められない
④謝罪広告を求めることはできない
⑷③プライバシー権侵害について
プライバシーという言葉は広く使われるようになりましたが、法律の世界では実はその明確な定義付けはまだされていません。他方で、プライバシー権に関しよく引き合いに出されるのは「個人情報保護法(正式名称は個人情報の保護に関する法律といいます。)」です。
そして、個人情報保護法では、「個人情報」を①氏名、生年月日、住所など、②個人の身体に関するデータ、③個人に割り振られる公的な番号などのことを意味するものとして定義付けしています。
そうすると、個人情報保護法で言うところの「個人情報」についてはすべてプライバシー権の問題とすれば良さそうにも見えますが、そのようには解されていません。
すなわち、プライバシー権の問題は「自分の持つ個人情報を公にされるなどした場合に、権利侵害と認め、損害賠償などの対象とすべきか否か」という問題であるところ、上記の①から③にある「個人情報」をすべてプライバシー権の問題としてしまうと、健全な社会生活ないし日常生活が機能しなくなってしまうからです(たとえば、病院で看護士さんが、待合室で待っている方を名前で呼んだだけでプライバシー権の問題となってしまいかねない。)。
そのため、プライバシー権に関しては、「他人にみだりに知られたくない個人に関する情報」に該当するか否かという観点から判断されることが多くなっています。
そして、これに該当するとした場合にさらに、当該情報をたとえばネット上で晒された場合に、プライバシー権侵害の成立を認めるか否かを、「事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合」に限定をして判断することが多いです。
このようにして、何でもかんでもプライバシー権侵害とはせず、一定の範囲に限定をして権利侵害を認めているのです。
なお、名誉権侵害や名誉感情侵害と異なり、プライバシー権侵害はあくまで民事上の責任が問題となるだけであり、刑事上の責任が生じることはない点に注意が必要です。
【プライバシー権侵害の特徴】
①個人情報すべてがプライバシー権の問題となる訳ではない
②民事上の問題のみで、刑事上の問題にはならない
③プライバシー権侵害が認められるか否かは利益衡量で決まる
⑸④著作権侵害について
あらゆる著作物には著作権が成立します。著作権は、誰かが創作した著作物であればすべからく成立するという点で、プロアマ問わず広い保護が与えられる権利です。著作権が成立するためにどこかに認めてもらうなどの手続きも必要ありません。
そのような性質を持つ著作権ですが、ネット上の誹謗中傷問題との関係では、厳密には「誹謗中傷」という定義に含まれないものの、いわゆるプロバイダー責任制限法に基づく発信者情報開示請求の際に問題となりやすいという意味で一括りにされることが多い権利侵害の類型です(当然、誹謗中傷問題を離れて著作権をただ単に侵害される類型のトラブルもあります。)。
【著作権侵害の特徴】
①あらゆる著作物が著作権の対象となる
②著作権侵害を理由とした削除請求や損害賠償も増えている
⑹誹謗中傷問題についての解決方法について
以上のようにいわゆるインターネット上の誹謗中傷問題に関しては、複数の権利侵害が想定されているところ、その問題の解決のためには以下のような方法がとり得ます。
①削除請求
②発信者情報開示請求
③(②を経て)投稿者に対する損害賠償請求
①については、名誉権侵害、名誉感情侵害、プライバシー権侵害、著作権侵害のいずれの場合であってもコンテンツプロバイダーや投稿者に対する削除請求が可能です。その方法としては任意での請求や仮処分、裁判による請求の余地があります。
②については、プロバイダー責任制限法(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます。)に基づき、コンテンツプロバイダーには投稿時に用いられたIPアドレスなどを、アクセスプロバイダーには当該IPアドレスを割り当てられていた契約者の氏名住所などを開示するよう求めることができます。
③については、開示の結果を経て投稿者に損害賠償を求めることができます。
3 ②ワンクリック詐欺や架空請求などの消費者被害
スマホやパソコンでメールやSMSを操作したり、インターネットを利用したりしていたところ、そこで表示された見知らぬサイトのURLをクリックするなどし、その結果、突然画面に契約の成立や代金の請求などが表示されるという詐欺被害の類型です。
手法としては今に新しいものではなく、以前からある古い手法です。
これらの手法は、アダルトサイトなどに多く、これらのサイトを利用していたことの恥ずかしさなどから画面に表示された内容に従って請求された金額を送金してしまうケースが多いのです。
しかし、そもそもただ単にURLをクリックしただけで契約が成立することはないですし、仮に契約の申し込みをしていた場合であっても、電子契約法(正式名称は「電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律」といいます。)によれば、事業者側で、消費者の申し込み内容などを確認する措置をとる必要があります。これがない場合には、消費者からの錯誤無効の主張が認められ、契約は無効となるのです。
したがって、単にURLをクリックするなどしただけで契約の成立や請求が表示された場合には、当該契約はそもそも成立していないし、その請求にも法的な根拠はないものと思ってもらって構いません。
4 ③サクラサイト、占いサイトなどの(②以外の)詐欺被害
②のワンクリック詐欺などとは別に、出会い系サイトや占いサイトの中でサクラを用いて利用者に不毛なやりとりを頻繁に繰り返させ、多額のポイント料の支払いを続けさせる詐欺被害も横行しています。
これらを総称してサクラサイトなどと言いますが、その手口は以下のようないくつかのパターンに分けることができます。
①出会い型
②同情型
③利益供与型
まず、①は、いわゆる典型的な手口であり、サイトの利用者が男女の出会いを求めてサイトを利用する中で、サクラが利用者との連絡を行い、一見すると好意があるように見せかけ、やりとりを続けそのうち、連絡先の交換や落ち合う約束をするが、いくらやりとりを続けても連絡先の交換も落ち合う約束も実現しないというものです。
次に、②は、①をやや発展させて、サクラが自分の困窮した状況などを利用者にアピールし、それに同情した利用者がサクラとのやりとりを続け、結果、多額の利用料を支払ってしまうというものです。
最後に③は、サクラが、大金持ちであるとか、多額の遺産を取得したなどという設定になっており、利用者にその財産の大半を譲るなどとして連絡をしてきて、利用者に受け取りのための手続きと称して頻繁なやりとりを続けさせるものです。利用者は、偶然にも自分が多額の金銭を取得できると期待し、サイトの利用を続けてしまうのです。この③の手法は、①や②の手法と併用されることが多々あります。
いずれにしても、これらの手口は詐欺ですから、サイト利用による被害についてはサイト運営会社に損害賠償の請求が可能です。
5 ④SNSを通じた国際ロマンス詐欺被害
さらに最近では、FacebookやLINEを通じて知り合った外国人から、金銭の送金や受け取りなどのためとして協力を求められ、それらのためには手数料や配送料、送金料などが必要と言われ、一時的に建て替えるつもりでお金を振り込んだが、後に連絡がつかなくなるという被害が増えています。
これらも当然、詐欺に該当するので詐欺をした側に対して損害賠償の請求が可能です。また、送金先の口座に対しては振り込め詐欺救済法(正式名称は「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」といいます。)による口座凍結や、裁判所を通じた仮差押え命令の申し立てが可能です。
そして、これらの手段により口座に残高があればそこから返してもらうことが可能です。
他方で、詐欺をした人物らを特定することが難しいこともあり、これら口座からの回収が実現しない場合には、被害救済が難しいのも実情です。
6 ⑤見知らぬ人に裸や下着の写真の提供を求められて応じてしまう児童ポルノ禁止法の問題
以上の他に、多くは未成年者が被害に遭うことが多いインターネットトラブルとして、スマホで自分の裸や下着姿の写真を送信してしまうという児童ポルノ禁止法(正式名称は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」といいます。)違反の問題があります。
これもやはりSNSを通じて知り合った相手とのトラブルで、知り合った相手から裸の写真などの提供を求められ、応じてしまうというものです。時には写真を送信するごとにお金の受け取りをしたり、約束をしたりすることもありますし、ケースによってはSNSでのやりとりにとどまらず実際に落ち合ってしまい、さらなるトラブルに発展することも少なくありません。
そして、この法律でいうところの児童とは、18歳未満をさします。また、「児童ポルノ」とは、以下のとおり定義されています(第2条3項)。そして、児童ポルノについては、自己の性的好奇心を満たす目的で所持をしただけで刑事罰の対象となりますし、これを製造したり提供したりする行為も刑事罰の対象となっています。
写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、でん臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
7 インターネットトラブルについてのまとめ
以上のように、一口に「インターネットトラブル」と言っても、誰のどのような権利がどのように侵害されているのかによってまったく異なる多様なトラブルが存在することが分かるかと思います。
そのため、実際に自分が受けたインターネットトラブルについては具体的にどこに相談をすればよいのか、どの弁護士に依頼をすればよいのかはしっかりと事前に見極めをしておくことが大切です。
執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所