養育費の算定基準や取り決め方法と不払いの際の弁護士による請求方法について
離婚に伴う養育費をいつ、どのような内容で取り決めるべきかを離婚問題に詳しい専門の弁護士としての立場から詳細に解説をしています。万が一の養育費の不払いへの対応や減額調停の方法も含めて解説しています。
【目次】
1 養育費とは
2 養育費の取り決めの時期や内容について
3 離婚時に取り決めなかった養育費の請求の可否
4 養育費の算定基準について
5 養育費の取り決め方法について
6 養育費の不払いへの対応について
7 養育費の減額方法について
【本文】
1 養育費とは
養育費とは、離婚が成立した後に、子どもを養育するために必要な費用のことを意味します。婚姻中に支払いを受ける婚姻費用と異なり、子どもの養育の費用しか含みません。
法律上は、養育費について「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と規定されています(民法877条1項)。すなわち、親子関係は、この規定の「直系血族」にあたるのでその扶養義務として養育費の支払いが義務付けられているのです。
なお、婚姻費用と養育費の違いについては別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
「婚姻費用と養育費の違いを教えてください。」
2 養育費の取り決めの時期や内容について
⑴養育費の取り決め時期について
養育費は、離婚後の子に対する負担なので、離婚が決まった際にはその支払い金額や終期などについて父母での合意をしておくことが望ましいといえます。
法律上も「父母が協議上の離婚をするときは、・・・子の監護に要する費用の分担・・・は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」とされており(民法766条1項)、離婚の際に取り決めるべきことが念頭に置かれています。
⑵養育費の取り決め内容について
養育費の取り決めに際しては、①月額いくらを、②いつから(始期)、③いつまで(終期)支払うのかを明確にしておくべきです。
加えて、④特別加算事由(子どもの病気やケガ、進学などのために通常の養育費の額に加えた特別の費用の加算)、⑤父母が転職をした、再婚をした、転居したなどの際の相互の連絡義務などについて取り決めをすることも少なくありません。
⑶養育費の終期について
養育費の終期については成人までとすることが多く、そうすると成人年齢が18歳に変更になった以上は18歳までとするべきかという問題がありますが、裁判所では民法上の成年年齢と養育費の支払いが必要な年齢とは相違があり、現在の社会情勢に照らすとやはり20歳までを基本とすべきとしています。
したがって、成年年齢の引き下げとは別に養育費としては最低でも20歳までと考えるべきでしょう。
ただし、それ以前に就労をするようになったら別です。養育費は子が自ら生計を立てる能力がないことに対する父母の扶養義務なので、就労を始めたのであれば扶養の必要性はなくなるからです。
3 離婚時に取り決めなかった養育費の請求の可否
以上のように、養育費はできれば離婚時に明確に定めておくことが望ましいものの、いろいろな事情(DVなど)から離婚時に取り決めることができない場合も少なくありません。
そうした場合でも、離婚後に養育費の請求をすることは可能ですし、養育費の請求が時効にかかるということもありません。養育費は子が親に対して求める扶養の権利であり、離婚の際に養育費を請求しないと述べたとしても、扶養の権利はそもそも放棄することのできない権利とされているからです。
ただし、養育費の請求は、基本的にはその意思を明確にした時点から具体的な支払い義務が生じるとされることが多く、離婚時にまで遡っての請求にはならないことが通常です。そして、養育費の請求の意思を明確にした時点としては、請求をする側が相手方に対して養育費の調停を申し立てた時からと判断されることが大半です。
あまりにも過去に遡っての請求を認めることは、養育費の請求がないと考えて生活をしてきた相手方にとってあまりにも過酷な結論になること、養育費の請求自体は離婚時にも当然に可能であることなどから一般的にはそのように処理をされているのです。
ただし、養育費を請求できなかった特別の事情(激しいDVのため接触ができず、弁護士を依頼することもできなかったなど)がある場合には遡っての請求が認められる余地はあると思います。
4 養育費の算定基準について
では、具体的に養育費の金額自体はどのように算定すべきでしょうか。
まず大前提として、夫婦が離婚するに際して、我が子のための養育費として具体的にいくらを負担すべきか、いつまで負担すべきかをお互いで真摯に話合い協議することが可能であればその協議の結果、合意ができた金額にて取りまとめることで何ら問題はありません。
他方で、お互いでの協議ができないとか、金額に開きがあるという場合には最終的には裁判所の算定基準を参考に決めるのも一つだと言えます。
裁判所は、婚姻費用や養育費について、当事者間での速やかな合意ができない場合に、これらの支払いを受ける側の日々の生活上の不利益を避けるため、客観的かつ公平な基準に基づく算定表を公表しており、離婚調停、養育費や婚姻費用の調停、離婚訴訟の場で広く活用されています。
この算定基準自体は、令和元年12月23日に公表されたものが最新のもので、現在の家裁実務ではこの基準を念頭に話合いが進むことが通常です。
「養育費・婚姻費用算定表」
この裁判所の算定基準に対しては、支払いを受ける側からは少ないとか足りないとの声が、支払いをする側からは高すぎるとの声が多く寄せられています。
しかし、夫婦として共同してひとつの家計を築き上げてきたものが、離婚によって別の世帯を構成する中で離れて暮らす子どものための費用を支出しないとならない関係上、どうしても双方が完全に自分の希望に沿った金額にあることは難しいのが実情です。
言い換えると、それまでの生活実態が変更になり、かつ子どものための費用を支払ってもらう、支払うことになるので、今までの生活をそのまま維持した上で養育費を支払うということ自体に無理があるということです。
なので、離婚をする以上は離婚後にはそれまでの生活をいったんは見直す必要があることに注意が必要だと言えます。
5 養育費の取り決め方法について
以上のようにして、養育費の金額や始期や終期などについて合意ができた場合、話合いであれば合意書を作成したり、公正証書を作成したりすることが望ましいです。
調停で取り決めに至ったのであれば裁判所が調停調書を作成してくれます。裁判の場合にも同様です。
こうして養育費の取り決めをした場合、公正証書(執行受諾文言付きの場合)や調停調書、判決文の場合には将来の不払いに対してたちまち差押えが可能というメリットがあります。
養育費は長期に渡り支払いが継続することが多く、その間の不払いのリスクに対しては非常に有効な手段といえます。
したがって、養育費の支払い方法を取り決めるのであれば単なる口約束や私文書ではなく、公正証書、調停調書などにしておくことが望ましいです。
6 養育費の不払いへの対応について
⑴養育費の不払いの実態について
以上のようにして確定した養育費について、支払い義務者からの支払いが滞っているのでどうすべきかとのご相談が多々寄せられます。
実際、厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査結果報告」によれば、平成28年の調査では母子世場合、現在も養育費の支払いを受けている世帯の割合は24.3%、令和3年の調査では28.1%しかありません。すなわち、大半の母子家庭世帯では継続して養育費の支払いを受けていないのです。
⑵家裁による履行勧告について
このような問題に対しては、調停や審判で養育費の取り決めをした場合であれば家裁による「履行勧告」の手段を使うことが可能です。
「履行勧告手続等」
この履行勧告について、上記裁判所のHPでは次のように説明されています。
「家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない人に対して,それを守らせるための履行勧告という制度があります。相手方が取決めを守らないときには,家庭裁判所に対して履行勧告の申出をすると,家庭裁判所では,相手方に取決めを守るように説得したり,勧告したりします。
履行勧告の手続に費用はかかりませんが,義務者が勧告に応じない場合は支払を強制することはできません。」
すなわち、家裁が相手方に支払いを守るよう連絡をしてくれるものの、強制力まではないということなのです。
⑶強制執行について
では、履行勧告に応じないような相手方には何ができるかということですが、公正証書(執行受諾文言付き)、調停調書、審判、判決文により養育費の支払いが定められている場合には、裁判所を通じて相手方の給与や預金を差し押さえることが可能です。
これはすなわち強制執行手続を意味し、上記履行勧告と異なり、相手方の保有する財産などを強制的に差し押さえるという意味で非常に強力な手段といえます。
強制執行の申立のためには相手方の勤務先や金融機関などの情報が必要になりますが、強制執行手続きの中で第三者に対する情報開示を求めたり、債務者(養育費の支払い義務者)への財産開示を求めたりという手段がとれることや、その他弁護士への依頼を通じて弁護士照会の方法により金融機関に口座の有無を確認したりということで財産の所在を調査することが可能になります。
その上、養育費は継続的な給付であるところ、相手方の給与債権もまた継続的な給付なため、給与を差し押さえることでその後も毎月、その勤務先から養育費の支払いを受け続けることが可能となります。
7 養育費の減額方法について
上記のように、離婚後、多くの養育費は支払われていないのが実情ですが、支払いを継続しつつ金額を減額してもらうという方法もあることには注意が必要です。
具体的な減額の理由としては、①双方の収入に変動があった、②扶養すべき子どもが増えた(再婚により子どもを設けたとか養子縁組をした)などが挙げられます。
そこで、これらの事情が見受けられる場合には減額を求めることが可能になり、その際には①のケースであればやはり裁判所の算定基準に照らしいくらの減額になるかを考慮すればよいです。
他方で②のケースの場合、裁判所の算定基準表では一概に結論が出ないため別途、正確な金額を算定し直す必要があります。
いずれにしても養育費というのはいったん取り決めたとしても未来永劫、変更が効かないものではない点に注意が必要です。
なお、養育費の減額のための方法としてはやはりお互いでの協議か調停になろうかと思います。離婚して時が経過していることが大半でしょうから、お互いでの協議は容易でないので最初から調停を選択することが望ましいといえます。
また、実際に減額になるのは減額調停を申し立てた時からとすることが公平なため、不払いだった養育費を遡って全部減額することはできない点には注意が必要です。
執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所