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法律の庭

遺言能力の欠如を理由として遺言が無効となる場合について

【目次】

1 はじめに

2 遺言能力とは

 ⑴遺言能力についての民法上の規定

 ⑵遺言能力の解釈や裁判例での定義について

 ⑶遺言能力の相対性について

3 遺言能力の欠如を理由とした遺言無効の判断要素について

 ⑴遺言能力の判断要素について

 ⑵①遺言者の年齢

 ⑶②遺言者の心身の状況とその推移

 ⑷③遺言時及びその前後の遺言者の言動

 ⑸④遺言者の日ごろの遺言についての意向

 ⑹⑤遺言者と受贈者の関係

 ⑺⑥遺言の内容の難易度や合理性の程度など

4 まとめ

5 【補足】遺言無効の主張と弁護士への相談、依頼の要否やメリットについて

 

【本文】

1 はじめに

 遺言は、方式違反(形式的要件)を理由として無効になる場合と、遺言能力の欠如(実質的要件)を理由として無効になる場合があります。

 このうち、方式違反(形式的要件)を理由として無効になる場合については、「不自然な内容の遺言について、無効とすることができるか。」の記事の「2 自筆証書遺言とその無効について」及び「3 公正証書遺言とその無効について」において詳細に説明をしていますのでそちらをご参照ください。

https://kakehashi-law.com/modules/terrace/index.php?content_id=168

 

 本稿では、これらとは別に遺言能力の欠如(実質的要件)を理由として遺言が無効なる場合についてご説明いたします。

 

2 遺言能力とは

 ⑴遺言能力についての民法上の規定

 遺言については民法960条以下でその詳細が定められています。しかし、遺言「能力」についてその定義を直接定めた規定はありません。

 すなわち、民法961条は「十五歳に達した者は、遺言をすることができる。」と定めていることから、未成年であっても15歳になれば遺言が可能です。

また、民法962条は「第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない」と定めていることから、遺言は未成年者取消、成年後見取消、保佐人の同意事項、補助人の同意事項の対象になりません。

 さらに、民法973条は「成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。」と定めていることから、成年被後見人であっても、この要件を満たす限り、有効に遺言をすることが可能です。

その上で民法963条は「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」と定めているものの、何をもって遺言能力というかを明言はしていません。

 

 ⑵遺言能力の解釈や裁判例での定義について

 したがって、遺言能力がどのような能力かは、民法のこれらの規定を前提に、解釈により判断するしかありません。

 その際、遺言能力について、抽象的には「遺言当時、遺言内容を理解し遺言の結果を弁識し得るに足る能力」などと言われることがありますが、より具体的にはどのような要件を満たせば良いのかまでは判然としません。

 また、各裁判例において、遺言能力の定義がされていますが、統一的な定義が確定しているとはいえない状況です。とはいえ、各裁判例における遺言能力についての定義を確認することは個々の事案で遺言能力を争う際に役に立つので以下のとおり、いくつかを例示しておきます。

 

・「有効な遺言をするには、遺言者に遺言能力、すなわち遺言事項を具体的に決定し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力たる意思能力がなければならない。」(東京高裁平成25年3月6日)

 

・「遺言能力とは、遺言事項を具体的に決定し、その効果を理解するのに必要な能力であると考えられる」(東京地裁平成25年8月1日)

 

・「遺言能力は、民法上15歳以上であれば認められ、成年被後見人であっても本心に復しているときは遺言ができるとされていることからすると、取引における行為能力までは必要とされているとはいえないものの、当該遺言の内容及びその効果を理解する意思能力を有していることが必要であり、それが当該遺言の内容や遺言時の遺言者の心身の状況等から個別具体的に判断すべきである」(大阪高裁平成26年10月30日)

 

 ⑶遺言能力の相対性について

 以上のように、遺言能力については民法上の定義づけはなく、裁判例でも統一的な定義づけないし何をもって遺言能力があると認め、何をもって遺言能力がないと認めるのかの判断基準が確立しているとまではいえない状況です。

 ではどうして遺言能力の定義づけや遺言能力の判断基準の確立が難しいのかですが、それは結局、遺言能力が遺言内容との相関関係でこれが有ると判断されたり無いと判断されたりする関係にあるからです。

 言い換えると、遺言の内容が複雑であればその内容と結果を正確に理解できるだけの能力が必要になるものの、遺言の内容が極めて単純な内容であれば、さほど高度な能力が必要にはならないと言える結果、一律に「どの程度の判断能力があれば遺言能力がある」との基準化ができないのです。

 なおかつ、そもそも遺言には、遺言者によるその財産処分の最終意思の表明という性質があり、これは最大限に尊重すべきです。そのため、単に「認知症だったから遺言は無効である」とはならないと考えられているのです。言い換えると、遺言能力の欠如のために遺言が無効になるかどうかは、遺言者の遺言当時の状況と遺言書の内容に照らして慎重に判断すべき事柄なのです。

 

3 遺言能力の欠如を理由とした遺言無効の判断要素について

 ⑴遺言能力の判断要素について

 以上のように、遺言能力の定義づけないし遺言無効の判断基準の確立は容易ではなく、結果的に遺言能力の欠如を理由とした裁判ではいわゆる遺言能力を否定すべき事情と、遺言能力を肯定すべき事情とを総合考慮し、結論を導く傾向にあります。

 その際の判断要素としては次のような整理が可能です。以下、①から⑥について個別に説明をします。

 

①遺言者の年齢

②遺言者の心身の状況とその推移

③遺言時及びその前後の遺言者の言動

④遺言者の日ごろの遺言についての意向

⑤遺言者と受贈者の関係

⑥遺言の内容の難易度や合理性の程度など

 

 ⑵①遺言者の年齢

 遺言は15歳以上であれば可能とされています。とはいえ、高齢であればあるほど遺言内容やその結果についての判断能力が劣る傾向にあることは明らかであるため、遺言者の遺言当時の年齢は遺言能力の判断に際して重要な考慮要素の一つとなります。

 とはいえ、年齢による判断能力の程度もやはり個人差が大きいことから、一概に何歳以上であれば遺言能力が欠けると断定できるものではありません。

 

 ⑶②遺言者の心身の状況とその推移

 これは、遺言者がどの程度の健康状態であり、どの程度、物事の判断能力を有しているかどうかと、そのような健康状態がどのように遺言時までに推移してきたかという問題です。

 遺言能力が争われる最も典型的な例は認知症ですが、ひとことに認知症と言ってもその種類や症状は様々です。

その種類としてはアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症があります。

そして、アルツハイマー型認知症の場合には重度になると意思疎通もできなくなってきます。

脳血管性認知症の場合には物忘れはあるが計算はできるなど、まだらの症状が特徴とされています。

 レビー小体型認知症の場合には、他の認知症と症状の出方が異なり、物忘れや見当識障害、言語障害以外の症状が目立つとされています。

 こうした中、認知症を理由の一つに遺言無効を認めた事例ではアルツハイマー型認知症の事例が多いとも言われています。

 他方で、認知症の疾患により遺言無効が認められた事例としては脳梗塞、せん妄、大脳びまん性委縮などの事例がありますが、他にも様々な疾患に照らして遺言無効が判断されています。

 

 ⑷③遺言時及びその前後の遺言者の言動

  遺言者が遺言時やその前後にどのような言動をとっていたかも遺言無効の判断材料として重要です。当然、遺言者が認知症などにより、徘徊などを始めとした行動を繰り返していたようであれば遺言能力に大きな影響を与えることとなります。また、自分の子どもの人数や名前を間違えたとか、支離滅裂な会話になるとか、自分の名前や生年月日がいえないとかという事情も同様です。

 他方で、遺言者が遺言当時、会社を経営していたとか、毎日、新聞を読んでいたとか、頻繁にトランプや花札をしていたとかというように相応に頭を使っての活動をしていたといえる場合には遺言能力が肯定される傾向にあります。

  

 ⑸④遺言者の日ごろの遺言についての意向

 遺言は、遺言者の財産処分についての最終意思の表明です。そのため、遺言者が生前にその財産を誰にどのように相続させるかなどについてその考えを周囲に公にしていることがあるケースがあります。

 その際、遺言者の日ごろの遺言についての意向と、遺された遺言の内容に不自然な相違がある場合には、当該遺言については何者かによる作為があると言えるケースがあり得ます。その作為としては、①何者かが遺言者を不当に誘導して遺言を作成させた場合と、②何者かが生前の遺言者の意思に反する内容の遺言書を偽造する場合です。

 したがって、遺言の内容があまりにも遺言者の生前の意向に反する場合には、遺言無効の主張を検討すべきとも言えます。

 

 ⑹⑤遺言者と受贈者の関係

 生前、遺言者と受贈者との関係は悪かったにもかかわらず、遺言により、遺産をすべて受贈者に遺贈するとか、相続させるとしている場合にはやはり遺言能力に問題があったとみる余地があります。当然、受贈者による不当な介入の結果、遺言が作成された可能性もあるので、上記⑸の問題にも関連してきます。

 

 ⑺⑥遺言の内容の難易度や合理性の程度など

 遺言の内容が「すべての財産を長男○○に譲る」という程度の極めて簡単なものでも遺言は成り立ちます。他方で、遺言者が有する多数の財産(複数の土地や建物、複数の預金、有価証券、絵画、貴金属その他)を複数の相続人らに複雑に分けて相続させるというような遺言も存在します。

 遺言の相対性の項でも説明しましたが、このように複雑な遺言であればあるほど、遺言による結果を正確に理解することは容易ではありません。言い換えると、複雑な遺言を理解するには高度な判断能力が必要になるため、遺言能力がないとの結論に繋がりやすくなります。

 

4 まとめ

 以上のとおり、遺言能力の明確な判断基準は確立していませんので遺言能力の欠如を理由として遺言が無効となるためには、多くの事情を総合考慮して決めることとなります。

 単純に認知症の検査で〇点以下だったから遺言は無効であるとか、遺言の内容が不自然だから遺言は無効であるとかとなるものではありません。非常に多くの要素が複雑に絡み合ってやっと遺言無効が認められるということをご理解ください。

 

5 【補足】遺言無効の主張と弁護士への相談、依頼の要否やメリットについて

 
 以上のように、遺言能力の欠如を理由として遺言無効を勝ち取るためには診断書、カルテ、介護記録、介護認定記録などといった大量かつ専門的な文書をすみやかに過不足なく取り付ける必要があること、またこれら文書を医療などの専門的知識を前提に法律的観点から分析した上で裁判所に具体的な主張立証としてまとめる能力が必要であること、遺言無効については勝ち負けがハッキリしており中庸な解決が難しいこと、勝っても負けてもその後の遺産分割や遺留分侵害額請求などの問題が必ず付いて回ることから、他の訴訟類型と比較しても弁護士への相談や依頼が必要不可欠な事例だと言えます。
 
 
 
 言葉を恐れずに言うならば、弁護士に依頼することなく遺言無効を争うことはリスクでしかありません。裁判所であれば分かってくれるだろう、自分で取りつけたカルテなどを出せば足りるだろうという次元の問題ではないのです。
 
 
 
 したがって、遺言無効を考えた際にはすぐに弁護士への相談と依頼を検討なさってください。
 
 
 
 「こんな遺言、おかしい。」という気持ちをご自身だけで抱え込まず、法的な観点からご自身の思いを形にして欲しいと思います。
 
 
執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
 
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所
 
 

 

 

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