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法律の庭

中絶慰謝料は請求できるのか?男性に対する責任追及の弁護士解説

 
 このコラムでは、意図したか否かを問わず、男性と性交渉をもったことにより妊娠をし、後に中絶を余儀なくされた場合の慰謝料相場と解決のための対処法を専門の弁護士の観点から詳しく解説をしています。
 
 このコラムを通じて中絶慰謝料に対する原則的な判断理由と、一般的な知識を踏まえ、被った被害に対する最善の解決を実現して頂けたらと思います。
 
 なお、他の法律事務所のコラムでは、中絶に伴う慰謝料は原則としてもらえないと記載しているものもありますが、必ずしもそのように言い切ることはできず、あくまでケースによること、きちんと請求をすればそれなりの責任を追及ができることをご理解いただければと思います。
 
 その際のポイントは、妊娠に至る経緯と、中絶に至る経緯にあることをご理解ください。
 
 

【目次】

1 妊娠中絶の慰謝料が認められるケースについて

 ⑴どんな場合に中絶の慰謝料が認められるのか?
 ⑵女性が性交渉を持つことに同意をしていないケース
 ⑶女性が性交渉を持つことには同意をしていたが、避妊をすると偽られたケース
 ⑷女性が性交渉を持つこと、妊娠をすることには同意をしていたが、男性が既婚者であることを隠していたケース
 ⑸性交渉を持つ時点で婚約が成立していたが、妊娠後にこれを不当破棄されたケース
 ⑹強制的に中絶を迫られたケース

2 中絶に関する裁判例について

 ⑴東京地裁平成21年5月27日判決について
 ⑵東京地裁平成27年9月16日判決について

3 堕胎に関する裁判例について(上記1⑹のケースに関し)

 ⑴慈恵医⼤病院医師不同意堕胎事件
 ⑵岡山済生会総合病院不同意堕胎致傷事件

4 中絶に関し、何をいくら請求できるのか(もらえるのか)?

 ⑴診察費用等
 ⑵中絶費用
 ⑶慰謝料
 ⑷弁護士費用

5 中絶慰謝料等をどのような方法で請求すればよいか? 

6 中絶慰謝料等を請求するのに必要な証拠は何か?

 ⑴中絶慰謝料等と証拠
 ⑵女性が性交渉を持つことに同意をしていないケース
 ⑶女性が性交渉を持つことには同意をしていたが、避妊をすると偽られたケース
 ⑷女性が性交渉を持つこと、妊娠をすることには同意をしていたが、男性が既婚者であることを隠していたケース
 ⑸性交渉を持つ時点で婚約が成立していたが、妊娠後にこれを不当破棄されたケース
 ⑹強制的に中絶を迫られたケース
 ⑺損害額についての証拠はどうすればいいのか?

7 中絶慰謝料の請求を弁護士に依頼するメリットと弁護士費用

 ⑴中絶慰謝料請求を弁護士に依頼するメリットについて
 ⑵中絶慰謝料請求の弁護士費用について
 
 
 

【本文】

1 妊娠中絶の慰謝料が認められるケースについて

 ⑴どんな場合に中絶の慰謝料が認められるのか?

  男女が性交渉を持ち、その結果、女性が妊娠をし、最終的に中絶(人工妊娠中絶)を余儀なくされた場合に、具体的にどのようなケースであれば相手に対する慰謝料などの賠償請求が認められるのでしょうか?
 
  この点、男女が性的関係を持つに至り、その後、中絶するまでには様々なケース(事例)があるので、ここではそのケース(事例)ごとに個別に分けて解説をしたいと思います。
 
 

 ⑵女性が性交渉を持つことに同意をしていないケース

  そもそも、女性が男性と性交渉を持つことに同意をしていないケースは、男性が女性の意に反して性的関係を持ったものとして、いわゆる強姦になります。強姦行為は、現在は強制性交等罪と言われ(刑法177条)、その法定刑は五年以上の有期懲役とされています。
 
  具体的な強制性交等罪の成立要件は、13歳以上の女性に対してであれば、「暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交をした」ことです。いわゆる暴力により、性交渉を強要した場合です。
 
  また、13歳未満の女性に対してであれば、「性交、肛こう門性交又は口腔くう性交」をしたことです。すなわち、13歳未満の女性に対してであれば暴行又は脅迫を手段としていなくても成立するのです。
 
  したがって、同意なき性交渉と妊娠、中絶に対しては刑事事件としての責任追及が可能です。
 
  さらに、強制性交等の被害にあった女性は、そもそも妊娠をしたかどうか、中絶をしたかどうかを問わず、自身の性的自由(いつ、誰と性的関係を持つかどうかの自己決定権)を侵害されたものとして、被った苦痛に対する慰謝料を加害者男性に対して求めることが可能です。これは刑事事件ではなく民事事件としての請求になります。
 
  なお、男性との性的関係についての同意の有無が裁判上争われることが多々ありますが、女性からの明確な同意がない限りは「同意がないもの」として扱うないし判断する傾向にあると考えてもらえば良いと思います。同意の有無については証拠に残らないことが通常なので、同意があったとの男性の証言が優先することは一般的とは言えません。すなわち、同意があったことの明確な証拠がない限りはその立証がないものとして女性側の言い分を認めるケースが大半です。
 
  また、強制性交等の罪やその損害賠償責任は、一般的には見知らぬ男性から受けた被害によることが多いです。とはいえ決して、見知らぬ男性、もしくはそれまで性的関係を持ったことのない男性から受けた強制性交等の場合に限られるものではありません。すなわち、交際相手、元交際相手、配偶者からであろうとも、自らが同意をしていないにもかかわらず、性的強要を受けた場合には、強制性交等の罪が成立し得るのです。
 
  なので、同意なき性行為の強要に対しては、広く女性から男性に対する法的責任追及が可能です(たとえば妻から夫に対する請求など)。
 
  そして、このケースにおいて男性に求めることができるのは、①意に反して性的強要を受けたこと自体に対する慰謝料と、②意に反して妊娠をし、中絶に至ったことに対する慰謝料が考えられます。
 
 

 ⑶女性が性交渉を持つことには同意をしていたが、避妊をすると偽られたケース

  強制性交等のケースとは異なり、男性と女性の間で性交渉を持つことには同意があったケース、性交渉に任意に応じたケースでも、妊娠に向けての考え方についてはお互いで異なることがあり得ます。
 
  そのため、男性が、一時の自分の快楽目的で避妊をしていないことを隠し、虚偽を述べて関係を持ち、結果として女性が妊娠をしたケースにおいては、女性から男性に対する責任追及が可能となります。
 
  すなわち、女性は避妊をしない性交渉の結果、妊娠をする可能性が常にありますが、女性は自己決定権としていつ、誰との間の子を妊娠するかどうかを自らの意思で決定する権利があります。
 
  これに対して、男性は当然の事ながら、その女性の自己決定権を尊重する義務が生じます。それにもかかわらず、避妊をすると虚偽を述べて性交渉を完遂し、その結果、女性が妊娠をしたようであれば男性は女性の自己決定権を侵害したものとして不法行為責任が生じます。
 
  したがって、このケースにおいては、女性は男性に対して、意図せず妊娠をし、中絶をしたことに対する損害賠償責任を追及できます。
 
 

 ⑷女性が性交渉を持つこと、妊娠をすることには同意をしていたが、男性が既婚者であることを隠していたケース

  このケースは、実際には男性が既婚者であるにもかかわらず、未婚であると偽り、かつ女性に対して将来の結婚や子どもを持つことをほのめかしていたような場合が典型です。
 
  いわゆる婚約が成立していたかどうかはさておき、交際関係にある男性から上記のようなことを示されていた中で女性は男性との将来の結婚を期待し、かつ子どもを設ける選択をしたものの、実は男性の述べていたことがいずれも嘘だった以上は、男性に対する損害賠償請求が可能です。
 
  すなわち、かかるケースにおいては、そもそも女性がいつ誰と性的関係を持つかどうかの自己決定権たる貞操権を男性が故意に侵害をしている以上、その貞操権侵害に対する損害賠償請求ができるのです。
 
  また、この貞操権侵害のケースにおいては、そもそも性的関係を持つかどうかの自己決定権を侵害されたことに対する損害賠償請求が可能となり、その慰謝料額算定の際に、妊娠をしたこと、中絶に至ったことが考慮されます。
 
 
  なお、貞操権侵害に対する慰謝料請求に関しては、別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
 
「貞操権侵害で慰謝料を請求できるケースやその方法について」
 
 
 

 ⑸性交渉を持つ時点で婚約が成立していたが、妊娠後にこれを不当破棄されたケース

  このケースは、男女の間に既に婚約(将来の結婚の予約や約束)が成立していて、性交渉を持つこと、妊娠をすることも合意していたものの、妊娠をした後に男女の関係が悪化し、男性から婚約破棄を求められ、結果、中絶を選択せざるを得なくなった場合です。
 
  かかるケースにおいては、前提として男性側に不当な婚約破棄が認められることを想定していますが、不当な婚約破棄に対しては将来に対する婚姻への期待権を侵害したものとして不法行為責任が肯定されます。当然、女性は男性に対して婚約破棄の慰謝料などを求めることができます。
 
  なお、婚約破棄による慰謝料がいかなる場合に認められるか、支払ってもらえるかについては別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
 
「婚約破棄により慰謝料を支払わないといけない場合とその相場について」
 
 
 

 ⑹強制的に中絶を迫られたケース

  以上の⑴から⑸のケースでは、性交渉の結果として女性が妊娠をし、中絶そのものについて最終的には自らの意思による場合を想定しています。
 
  他方で、意図せず妊娠をしたものの、女性が自らの判断で中絶を選択せずにいたにもかかわらず、男性から強制的に中絶を求められ、これを強行されてしまうという場合もあり得ます。
 
  このようなケースにおいては、男性から薬剤の投与を受けたりすることで胎児を流産させるなどする場合があります。
 
  当然、女性からすれば、妊娠をし、これを継続し、将来的には出産を考えていた訳ですから、これを意に反して強制的に流産や堕胎されられた以上、妊娠を継続して胎児を育て出産し、育てることに対する期待権を侵害することとなります。
 
  そして、このような行為をした男性側の責任としては、単に民事上の損害賠償責任に留まらず、刑法上の不同意堕胎罪(刑法215条1項)の責任を負うこととなります。不同意堕胎罪の法定刑は六月以上七年以下の懲役とされ、相応に重い刑罰が予定されています。
 
 
 

2 中絶に関する裁判例について

 ⑴東京地裁平成21年5月27日判決について

【事案の概要】

 本件は、結婚希望者を会員とする結婚相談所を通じて交際関係に至った原告と被告とが、交際に発展し、避妊具を用いないでの性交渉をしたところ、女性が妊娠をしたものの、女性が男性により浮気を疑い、結果、交際が終了した後に、女性が中絶をしたことに伴う損害賠償を求めた事案です。
 

【判決の結論】

 本件において、裁判所は被告が原告に対し、1,142,302円を支払うことを命じました。認容された額の内訳は以下のとおりです。
 
中絶慰謝料:1,000,000円
中絶費用(治療費、通院交通費):342,302円
弁護士費用:100,000円
既払い金:300,000円
 

【判決の理由】

 上記裁判例では、以下のように認定をし、上記結論を導きました。
 
 共同して行った先行行為の結果、一方に心身の負担等の不利益が生ずる場合、他方は、その行為に基づく一方の不利益を軽減しあるいは解消するための行為を行うべき義務があり、その義務の不履行は不法行為法上の違法に該当するというべきである。
本件性行為は原告と被告が共同して行った行為であり、その結果である妊娠は、その後の出産又は中絶及びそれらの決断の点を含め、主として原告に精神的・身体的な苦痛や負担を与えるものであるから、被告は、これを軽減しあるいは解消するための行為を行うべき義務があったといえる。
 
 しかるに、被告は、どうしたらよいか分からず、具体的な話し合いをしようとせず、原告に決定を委ねるのみであったのであって、その義務の履行には欠けるものがあった。
 

【解説】

 本件は、性交渉を持つこと、避妊具を用いないことについて双方の合意があるケースです。そして、女性は悩みながらも最終的に自らの意思で中絶を選択しています。
 
 その際、男性から女性に対して中絶を求めるような言動はなされていません。このようなケースであるにもかかわらず、裁判所は上記のような理由に基づき、女性に対する男性の責任を認めたのです。
 
 すなわち、性交渉に至る経緯、避妊をしなかった理由、中絶に対する強要もないにもかかわらず、中絶に至るまでの間の男性の対応を根拠としてこのような責任を認めた点で女性側にとっては喜ばしい判決と評価できます。
 
 そして、認められた金額は、女性の被った損害の半額は男性が負担すべきという考え方です。
 
 なお、原告は精神的苦痛としての慰謝料に関し、以下のように各段階や内容に照らした個別の請求をしていましたが、結果的に裁判所は精神的苦痛等に対する慰謝料は併せて200万円とするのが相当と判断し、その半額である100万円に減額し、その支払いを被告に課したのです。
 
 被害を被った女性としては、それぞれの過程ごとに慰謝料を求めたいところですが、裁判所としてはいわゆる不法行為の慰謝料の相場に照らし、全体として200万円を認定し、その半額を被告に課したとみることができます。
 
 かかる判断は、基本的にはいわゆる慰謝料の判例の相場に照らしたものと評価することができますが、妊娠と中絶に伴う女性の心身の負担に照らすと本当に妥当かは疑問も残るところです。
 
①中絶の選択経過における精神的苦痛:200万円
②中絶手術に伴う肉体的苦痛:200万円
③中絶手術に伴う精神的苦痛:200万円
④後遺症による損害:300万円
 

【控訴について】

 本件は控訴されたものの、控訴は棄却され、原審の結論が維持されています(東京高等裁判所平成21年10月15日判決)。
 
 
 

⑵東京地裁平成27年9月16日判決について

【事案の概要】

 本件は、原告(女性)が、被告(男性)との交際中に妊娠した後に中絶したが、被告が父性としての義務を怠って中絶に協力せず、むしろ原告に対し攻撃的な態度を取り続けて中絶による原告の苦痛を拡大させたことが不法行為に該当すると主張して、被告に対し、民法709条に基づき、慰謝料等の損害賠償を求めた事案です。
 

【判決の結論】

 本件において、裁判所は被告が原告に対し、371,465円を支払うことを命じました。認容された額の内訳は以下のとおりです。
 
中絶慰謝料:100,000円
中絶費用(治療費、通院交通費):85,965円
水子供養費用:10,000円
DNA鑑定費用;125,500円
弁護士費用:50,000円
 

【判決の理由】

 被告は、妊娠の可能性があることを認識しつつ原告と性行為をし、その結果、原告が被告の子を妊娠し、中絶するに至ったのであるから、被告は、中絶による身体的・精神的苦痛や経済的負担を原告と応分に負担すべき義務を負い、原告は、被告による上記応分の負担を受ける法的利益を有するというべきである。
 
 それにもかかわらず、被告は、1月22日頃には原告が妊娠した事実を一応認識しながら、原告の代理人弁護士からの郵便物をできる限り速やかに受け取るよう努めたり、電子メール受信の有無を積極的に確認するなどして原告代理人からの連絡に速やかに応答するといった誠実な対応をせず、ことに、中絶同意書に至急署名してほしい旨の代理人弁護士からの要請に対して、FとのDNA鑑定を先にすべきであるとの自身の考えに固執して速やかな対応をせずに、平成26年4月の原告による本件訴訟提起まで放置し、その結果、原告のみが中絶による身体的・精神的・経済的不利益を負担しているのであるから、被告には上記義務の違反があり、原告の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償義務を負うというべきである。
 

【解説】

 本件では、最終的には女性の損害賠償請求が肯定されていますが、女性が主張していた男性との結婚前提の交際という点は否定されています。
 
 また、男性は、避妊具を用いず膣内射精をした理由として女性が薬剤師である女性本人からピルを服用しているから大丈夫であると説明されたためと主張しているところ、女性はこれを否認しています。
 
 しかし、この点について裁判所は女性の言い分を排斥し、男性の言い分を認めています。
 
 こうした中、妊娠から中絶に至るまでの間の男性の言動に照らし、中絶慰謝料等の合計371,465円を認容しました。これは女性の被った損害の半額は男性が負担すべきという考え方です。
 
 そして、この裁判の中では、⑴で解説をした東京地裁及び東京高裁での判決理由や判断要素みが争点となっているところ、最終的には原告である女性の主張を認めています。その意味では、上記東京地裁、東京高裁の判断理由や判断要素が中絶慰謝料を求める際に極めて重要になってきていると評価することが可能です。
 
 
 

3 堕胎に関する裁判例について(上記1⑹のケースに関し)

 ⑴慈恵医⼤病院医師不同意堕胎事件

  東海⼤学医学部出⾝の男性医師が、妊娠した交際相⼿の⼥性を同意なしに堕胎させた事件です。より具体的には、交際中の看護師である女性が妊娠をしたことが発覚したところ、男性が別の女性との婚姻の話が進み、当該女性に対してはビタミン剤と称して子宮収縮剤を飲ませ、他にも収縮剤を点滴し、陣痛誘発剤を使用するなどし、女性を流産させた事案です。
 
  かかる行為に対して刑事裁判となり、男性は刑事責任を問われ、起訴された結果、懲役3年執行猶予5年の判決を言い渡されました。また、医道審議会により、医師免許取り消し処分となりました。
 
 
 

 ⑵岡山済生会総合病院不同意堕胎致傷事件

  本件は、岡山済生会総合病院に勤務する外科医が交際中の看護師が妊娠したことを知るや、婚約相手である別の女性に発覚し、婚約関係に影響が出ることを懸念し、女性に対して中絶ないし堕胎を求めたものの、女性がこれに応じなかったために自らが勤務する病院に呼び出し、自ら女性に麻酔をかけた上で針により胎児に対して無水エタノールを注入し、胎児を死亡さえた事案です。
 
  これに対して一審岡山地方裁判所判決では、被告人である男性に懲役2年の実刑判決を言い渡しましたが、二審広島高等裁判所岡山支部判決では、懲役2年6月執行猶予5年の判決を言い渡しました。
 
 
 

4 中絶に関し、何をいくら請求できるのか(もらえるのか)?

 ⑴診察費用等

  子どもを産むことを断念した結果、女性が中絶に際して要した費用のうち、産婦人科に対する治療費ないし診察費用は当然に男性に請求できる損害項目です。また、通院のための通院交通費も請求が可能です。

 ⑵中絶費用

  中絶そのものに対する費用であり、これもまた当然に請求が可能です。
 

 ⑶慰謝料

  慰謝料については、中絶慰謝料と言われることもあり、中絶に至るまでの間と中絶そのものに対する精神的苦痛として請求が可能です。この慰謝料に関して、上記の東京地裁平成21年5月27日判決では、原告は中絶の選択経過における精神的苦痛、中絶手術に伴う肉体的苦痛、中絶手術に伴う精神的苦痛と分けて構成をしていました。
 
  しかし、判決ではこのように慰謝料を細分化して判断することはなく、中絶に伴い女性が被った精神的苦痛をひとまとめにし、100万円を認定するにとどまっています。
 
  原告の主張自体は女性の被った苦痛を具体化するものですが、慰謝料請求は総じて「被った精神的苦痛に対する賠償」という意味では裁判所の判断自体は妥当だといえます。
 
  なお、中絶慰謝料の相場自体は数十万円から数百万円であると捉えて良いと思います。これは、仮に妊娠を継続し、子どもを実際に出産をし、男性から養育費を長年に渡り支払ってもらう場合の男性側の経済的負担に比べるとあまりにも低い金額と言わざるを得ません。
 
  そのため、今後も中絶慰謝料の正しい判断を求めて裁判所にきちんと算定をしてもらえるように働きかけることが大切です。
 
 

 ⑷弁護士費用

  以上のように女性が負担した各費用を、裁判を通じて男性に請求することとなった際には、男性に対して、上記各費用の1割相当額を弁護士費用の名目で請求することが可能です。
 
  ただし、要した弁護士費用全額の請求が可能となる訳でない点に注意が必要です。
 
 

5 中絶慰謝料等をどのような方法で請求すればよいか?

 ⑴中絶慰謝料等を請求する方法について

  中絶慰謝料など、中絶に伴う費用を男性に請求する方法ないし手続きとしては、   ①内容証明郵便の送付などを前提とした示談交渉による方法、②民事調停を利用する方法、③民事訴訟を提起する方法が考えられます。
 
  いずれの方法ないし手続きを採用するか、どれがおすすめの方法かは、女性の置かれた状況や意向にもよりますが、まずはそれぞれの手続きの内容をご説明いたします。
 
 

 ⑵①内容証明郵便の送付などを前提とした示談交渉による方法

  まず、内容証明郵便を送付することは、女性から男性に対する請求の意思を明確にし、かつ送付した文書の存在や内容を証拠化することができる点で大きなメリットがあります。
 
  また、示談での解決が可能となれば、弁護士費用や裁判費用などの金銭的な負担を抑えることが可能であり、かつ早期解決のメリットもあります。
 
  他方で、中絶が問題となるようなケースでは男女の関係が相当悪化していることも少なくないこと、内容証明郵便にはこれを送ったとしても何らかの対応をとるべき法的な義務まではないこと、それゆえ不誠実な対応をとる男性も少なくないこと、結果的に十分に金銭の回収の確約まではできないことなどから、示談交渉でスムーズに解決しないことも多々あります。
 
  さらには、お互いで折り合いのつく条件や合意文書をどのように作成すべきかという問題も生じ得ます。
 
 

 ⑶②民事調停を利用する方法、③民事訴訟を提起する方法

  そこで、このような場合には②民事調停、③民事訴訟のいずれかを検討するようになりますが、②民事調停は話し合いによる解決という意味で示談交渉の延長の側面が強いこと、③民事訴訟は話し合いでの解決が無理な場合でも裁判所により最終的な結論の言い渡しを求めることが可能という特徴があります。
 
  ただし、裁判による解決が常に女性に有利とも限らず、場合によっては男性の裁判官は原告である女性の訴えに十分に耳を傾けず、男性に有利な結論を出すことも可能性として否定しきれないことに注意が必要です。
 
  そのような中、一度は交際関係にあった男女という点からは、できれば示談交渉(話し合い)や調停での解決を希望する女性も少なくありません。
 
  とはいえ、折り合いが付かない場合には民事訴訟での解決もまた男性に対する責任を明らかにするためには有効だということは念頭に置くようにするとよいでしょう。
 
 

6 中絶慰謝料等を請求するのに必要な証拠は何か?

 ⑴中絶慰謝料等と証拠

  中絶慰謝料等を請求することを考えた際に、男性から言い逃れをされないためにはしっかりと証拠を集めておくことが大切です。その際、上記の1⑴から⑹のケースに応じて必要になる証拠は多少異なってきますので、以下、ケースごとに必要になる証拠の類型を示したいと思います。
 

 ⑵女性が性交渉を持つことに同意をしていないケース

  このケースの場合には、何よりも相手方と性交渉の同意がないことの証拠が重要になります。まったく見知らぬ男性から不意に被害にあった場合には、そのこと自体で同意がないことの証拠となりやすいですが、そうでないケースの場合には性交渉を強要されるまでに至る経緯をきちんと説明できるようにしておくことが大切です。
 
  特に、薬物で昏睡させられたような場合であれば、事前のお互いの行動や事後のやりとりを証拠として残してください。その際、日記やメール、LINEなども重要な証拠となります。
 
 

 ⑶女性が性交渉を持つことには同意をしていたが、避妊をすると偽られたケース

  このケースでは、男性からは、「避妊をするとは言っていない」「ピルを飲んでいるから大丈夫と言われた」「膣外射精をすれば良いと言われた」などという言った言わないの言い分が出されることがあります。
 
  したがって、このようなことを述べたか否かを裏付ける証拠が必要になります。当初から避妊に消極的であった様子や、ピルを自分は服用などしていない事などを元々のお互いのやりとりから明らかにできるようにしておいてください。やはり、メールやLINEが重要になりますし、場合によっては事後的に相手方男性との会話を録音し、当時の状況を証言させておくことも有効です。
 
 

 ⑷女性が性交渉を持つこと、妊娠をすることには同意をしていたが、男性が既婚者であることを隠していたケース

  このケースでは、男性が婚活サイトやアプリを通じて女性と知り合おうとしていることが少なくないので、男性がこれらに登録をしていたこと、登録情報として未婚者であると表示していたことなどが重要な証拠になります。
 
 
 

 ⑸性交渉を持つ時点で婚約が成立していたが、妊娠後にこれを不当破棄されたケース

  このケースはまさに不当な婚約破棄の慰謝料の問題が妥当します。そのため、①婚約がきちんと成立していること、②男性からの破棄に正当な理由がないことを証拠化することが大切です。
 
  ①については、男性との間で結婚することの合意ができていたこと、婚姻までの段取り(挙式、入籍日、親族らへの紹介、新居の確保、新婚旅行の予約など)が確定していたことが重要な証拠となります。
 
  ②については、どのような理由で破棄になったか、その詳細な事情についてのお互いのやりとりや男性の言動が重要な証拠となります。これらはLINEやメール、日記で残すようにしてください。
 
 

 ⑹強制的に中絶を迫られたケース

  このケースでは、男性から一方的に薬物の投与等を通じて中絶、堕胎をされているため、身体に受けた内容が残ることが大半です。
 
  とはいえ、服用させられた薬物などは何を投与されたのかなど後に明らかにすることが容易でないので受けた内容を詳細に説明できるようにしておくことが大切です。
 
 

 ⑺損害額についての証拠はどうすればいいのか?

  各ケースに共通する証拠としては、受けた被害の損害額をどのように証明するかという点です。この点、まず治療費、交通費、中絶費用については証拠として残しやすいでしょう。
 
  慰謝料については、受けた精神的苦痛に対する賠償なので、相手方男性からされたことでどのような精神的苦痛を被ったかを陳述書などで証拠化することで足ります。
 
 
 

7 中絶慰謝料の請求を弁護士に依頼するメリットと弁護士費用

 ⑴中絶慰謝料請求を弁護士に依頼するメリットについて

  本コラムで詳細に解説をしたとおり、中絶に伴う慰謝料等(治療費や診療費を含みます)の請求は、そもそも大前提としてケースが個別具体的になりやすいといえます。
 
  すなわち、冒頭でケース分けをしたように、性交渉自体についての同意の有無避妊に対しての同意の有無妊娠をした後の中絶に対する対応など個別に事情が分かれます。
 
  また、妊娠をし、中絶をするかどうかの判断を迫られた女性は、精神的にも肉体的にも、さらには経済的にも疲弊しきっています。家族らの協力があるケースも少なくありませんが、男性とのケジメをつけるのはやはり最後は女性本人です。
 
  そうした中、男性側からは交際中のお互いの関係や言動について諸々の主張がなされ、時には女性の主張に激しく否定と反論をしてくることもよくあることです。このことは、上記で解説した二つ目の裁判例の解説欄を見てもらえばよく理解できるところだと言えます。
 
  結果、女性は妊娠中絶後にも男性から傷つけられることが多いのです。これはとりわけ、女性が直接、相手方男性と交渉をする際にまさに生じる負担です。そもそも男性の中には女性からの請求や連絡を拒否したり無視したりという態度をとるケース、仮に支払いに合意をしてもあとで約束を守らないケースも少なくありません。
 
  そのため、当事者による解決に苦労や心身の負担も多いことから、示談であろうと訴訟であろうと、この分野に詳しい専門の弁護士に依頼をすることは、自分の心身の負担を軽減し、精神の安定につながること、相手方男性の不当な言い分を排斥する結果に繋がりやすいこと、しっかりとした賠償責任を負ってもらうこと、慰謝料等を獲得することの第一歩だと言えます。
 
  これらの事情を踏まえ、また相手方の出方も踏まえ、弁護士への相談やご依頼をご検討頂けたら最善の結果に繋がりやすいものと思います。
 
 
 

 ⑵中絶慰謝料請求の弁護士費用について

  当事務所では、これまで主に女性の側から中絶慰謝料請求の事案についてのご相談やご依頼をお受けしております。
 
  その際、法律相談料は30分あたり5,500円(税込)、示談交渉の着手金220,000円(税込)、民事調停の着手金275,000円(税込)、民事訴訟の着手金330,000円(税込)にてお受けしております(報酬はいずれも16.5%とし、最低額を165,000円としております。)。
 
  また、女性のご相談者の方からは、心身共に疲弊しきった状態でのご相談になること、プライバシー性の高いご相談になることなどから、完全個室でのご相談をお約束すると同時に、ご相談をお受けする弁護士として男性、女性いずれの弁護士からもご指名頂けることをお約束いたします。
 
  当事務所では、妊娠中絶に伴う慰謝料等の請求について、多数のご相談、ご依頼の取り扱いがございます。受けた被害をまずはお聞かせいただければ幸いです。必ず納得の解決に至るアドバイスが可能です。
 
 
執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)
 
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所
 
 

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