会社を辞めたい場合の退職代行サービスの利用について
【目次】
1 期間の定めのない雇用契約と退職及び退職代行について
⑴期間の定めのない雇用契約と退職について
⑵退職の難しさと退職代行について
⑶退職代行利用の際の注意点について
2 ①依頼先が弁護士や労働組合以外の場合には、「交渉」ができないという点について
⑴非弁行為の禁止と退職代行サービスについて
⑵退職代行サービスと労働組合について
⑶弁護士や労働組合以外による退職代行サービスについて
⑷まとめ
3 ②退職代行により退職をした場合、会社側からの仕返しに注意が必要という点について
⑴会社による退職に対する無理解と仕返しについて
⑵会社による嫌がらせないし仕返しと退職代行サービスについて
4 まとめ
【本文】
1 期間の定めのない雇用契約と退職及び退職代行について
⑴期間の定めのない雇用契約と退職について
期間の定めのない雇用契約を会社と交わしている場合、従業員は会社を辞めたいと思ったらいつでも解約の申し入れをすることができます(民法627条1項前段)。この場合、雇用契約は解約の申し入れから2週間を経過することで終了します(民法627条1項後段)。
なお、退職の意思表示をするに際して、退職の「理由」を明らかにすることは法律上求められていません。すなわち、退職をしたいと述べた際に理由を明らかにしろと会社から言われても、これに応じる義務はないのです。
⑵退職の難しさと退職代行について
しかし、会社の規定上、雇用契約の終了は1か月前に告知することが必要としていたり、退職を申し出てもなかなか認めてくれなかったり(慰留される)、そもそもパワハラなどが原因で退職の申し入れ自体が自分ではし辛かったりというケースも少なくありません。
このようなことから、労働者の側が専門家などに退職を依頼する退職代行サービスが非常に増えています。
⑶退職代行利用の際の注意点について
ところが、このようなサービスには、法的に次のようにいくつかの問題もあるため、利用を考えた際には注意が必要です。
①依頼先が弁護士や労働組合以外の場合には、「交渉」ができない。
②退職代行により退職をした場合、会社側からの仕返しに注意が必要。
2 ①依頼先が弁護士や労働組合以外の場合には、「交渉」ができないという点について
⑴非弁行為の禁止と退職代行サービスについて
退職代行サービスについてはネットで検索をすると非常にたくさんの事業者によるサービスがヒットします。運営先は様々で、当然、弁護士によるものもありますし、労働組合によるものもあります。
他方で、これらによらない退職代行サービスも多数あり、むしろ弁護士や労働組合以外による退職代行サービスの方が多いようにも見えます。
しかし、弁護士法72条には、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と定められています。
これは非弁行為の禁止規定と言われ、報酬を目的に(言い換えると有料で)、他人の権利について「代理行為」をしてはいけないこととなっているのです。
その結果、かかる非弁行為の禁止規定に違反し、有料で退職代行を「代理」として行った場合には、「二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金」に処せられるのです(弁護士法77条3号)。
⑵退職代行サービスと労働組合について
他方で、労働組合については、憲法28条によりその存在が保障され、かつ労働組合法にて「労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。」と、労働組合の使用者との交渉権限が認められているのです(労働組合法6条)。
また、裁判例では労働組合が組合員のために団体交渉を行い、和解を成立させることは弁護士法72条に違反しないと判断した事例もあります(東京地裁令和4年5月24日)
したがって、退職代行サービスについては、かかる規定を前提に退職代行の「代理」を専門家に有料でお願いするに際しては弁護士もしくは労働組合による他ないのです。
⑶弁護士や労働組合以外による退職代行サービスについて
そのため、弁護士ないし労働組合以外の退職代行サービスでは、「代理」ではなく、あくまで退職の意思表示を一方的に伝えるだけという建前をとってこれを行っている事業者が多いのです。
その結果、退職をするかどうか、退職を認めるかどうか、有給休暇を使うかどうか、引継ぎをどうするか、未払賃金すなわち残業代の有無や金額、退職金の有無や金額、パワハラによる損害賠償請求などといった個別の紛争ないし問題について、これら事業者は「代理」をすることはできず、結果、仮に退職はできたとしてもこれらの問題については別途、当事者本人で対応をするか、改めて弁護士への依頼をしないとならないのです。
⑷まとめ
以上の点からすると、「単に退職ができればよいのでそのための意思表示を自分に代わってしてくれればよい」というケースであれば弁護士や労働組合以外の退職代行サービスで何ら問題はないと言えます(単に本人の退職の意思表示を退職代行サービスとして伝えるだけの場合)。
しかし、それ以外の問題やトラブルも含んでいる場合には、やはり弁護士などへの依頼を検討した方が良いと言えます。
3 ②退職代行により退職をした場合、会社側からの仕返しに注意が必要という点について
⑴会社による退職に対する無理解と仕返しについて
会社によっては、期間の定めのない雇用契約について労働者からの解約の意思表示により2週間で雇用契約が終了できることを知らないことも少なくありません。
また、労働者の担当していた業務について、退職をするのであれば引継ぎが必要であるとか、急な退職によって会社に損害が生じたとして損害賠償請求をしてきたり、最後の賃金を支払おうとしないとか、有給休暇を使わせないとかといったという嫌がらせや仕返しをしてくることもあり得ます。
当然、未払賃金についてもこれを請求しても当然には応じようとしない会社も少なくありません。
⑵会社による嫌がらせないし仕返しと退職代行サービスについて
このような会社からの嫌がらせや仕返しと言ったトラブルに対して、前項で説明したような単に退職の意思表示を伝えるだけの退職代行サービスの場合、結局、これら問題に対応ができません。
当然、賃金や未払残業代の支払いを受けられないとか、有給休暇を使えないとかといった問題も生じうるのです。
したがって、やはりこれら問題の解決のためには弁護士ないし労働組合による退職代行サービスを検討することをお勧めいたします。
4 まとめ
以上のとおり、退職代行サービスには様々なものがあり、非常に低額でサービスを提供しているところが多いのが実情です。そうした中で、ご自身の退職の問題を円満かつスムーズに、さらにはその他の問題や紛争も併せて解決するためには弁護士へのご相談とご依頼が重要だと考えています。
執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)