離婚に伴う財産分与の対象や分与の割合などについて
離婚の際の財産分与について、これまでの離婚問題の経験を踏まえて論点毎に詳細に解説をしています。少しでも有利に財産分与をしたい方の参考になれば幸いです。
【目次】
1 離婚と財産分与について
⑴財産分与とは
⑵財産分与の法的性質について
⑶財産分与の際の各種争点について
2 ①どの時点での財産を財産分与の対象とすべきか(財産分与の基準日)
⑴財産分与の基準日の確定方法について
⑵財産分与の基準日が財産分与に与える影響について
⑶財産分与の基準日と支払い時期の行き違いについて
⑷基準日に現金化されていない財産について
3 ②誰名義の財産を財産分与の対象とすべきか
⑴はじめに
⑵預貯金について
⑶子名義の財産について
4 ③負債の扱いをどうするべきか
⑴財産分与と負債の処理
⑵個人的な負債
⑶夫婦共同生活のための負債
⑷住宅ローンについて
⑸住宅と頭金の清算について
5 ④婚姻中に取得した財産であっても財産分与から外すべき財産をどう選別すべきか(特有財産の問題)
6 ⑤対象となる財産をどのような分与割合でお互いに分与すべきか(分与割合の問題)
⑴財産分与の分与割合について
⑵分与割合の例外について
⑶まとめ
7 まとめ
【本文】
1 離婚と財産分与について
⑴財産分与とは
離婚に伴い、夫婦の財産をどう分与すべきかが問題となります。これが財産分与の問題です。
そして、財産分与とは、夫婦婚姻共同生活中に夫婦で築き上げた財産を離婚に伴い分与することをいいます(民法768条1項)。
⑵財産分与の法的性質について
この財産分与には、①夫婦が婚姻中に協力して形成した財産を清算するという清算的財産分与、②離婚後の経済的弱者に対する扶養的財産分与、③離婚原因を作った有責配偶者から他方に対する慰謝料的財産分与という3つの性質が含まれるとされています。
とはいえ、実際には①の清算的財産分与が財産分与の主たる性質であるとされ、②扶養的財産分与や③慰謝料的財産分与を財産分与の際に考慮する事例は極めてまれです。
【財産分与の法的性質】
①清算的財産分与
②扶養的財産分与
③慰謝料的財産分与
⑶財産分与の際の各種争点について
このような財産分与の問題に際しては、①どの時点での財産を財産分与の対象とすべきか(財産分与の基準日)、②誰名義の財産を財産分与の対象とすべきか(対象財産の特定)、③負債の扱いをどうするべきか、④婚姻中に取得した財産であっても財産分与から外すべき財産をどう選別すべきか(特有財産の問題)、⑤対象となる財産をどのような分与割合でお互いに分与すべきか(分与割合の問題)が含まれており、現実の離婚の協議や調停などの際にこれらを巡って争いになることが多々あります。
そこで、以下、順に説明をしていきたいと思います。
【財産分与の争点】
①財産分与の基準日
②対象財産の特定
③負債の扱い
④特有財産の問題
⑤分与割合の問題
2 ①どの時点での財産を財産分与の対象とすべきか(財産分与の基準日)
⑴財産分与の基準日の確定方法について
財産分与は夫婦が婚姻中に協力して築き上げた財産を離婚に伴いどのように清算するべきかという問題です(清算的財産分与)。
そのため、財産分与の対象財産となるのは、婚姻後、夫婦としての協力関係が失われた時点までの夫婦の財産となります。
そして、多くのケースでは離婚に先立ち別居をすることが多いので結局、財産分与の対象財産を特定するに際しては、婚姻後、別居までのものとなることが多いです。
仮に別居をしないケースであれば、夫婦の間で協力関係が失われたと言える時期(たとえば、離婚についてお互いで協議を始めた時期や離婚調停を申し立てた時期、離婚に向けて弁護士に相談を始めた時期など)をもって特定することで良いといえます。
⑵財産分与の基準日が財産分与に与える影響について
財産分与の基準日は、実際の財産分与に大きな影響を与えることから慎重に取り決めることが必要です。
たとえば2022年11月1日時点の夫名義の預金残高が300万円で、12月1日時点では250万円であったとした場合、11月1日を基準日とすれば、妻は150万円を、12月1日を基準日とすれば妻は125万円を財産分与として受け取ることになりますが、この1か月の違いで受け取る額が25万円も変わってきてしまうのです。
そのため、財産分与の基準日については出来る限り夫婦の財産のお金の動きを見据えて自分に有利な時期になるよう別居などを進めるべきと言えます。
⑶財産分与の基準日と支払い時期の行き違いについて
以上のように、基準日はその後の財産分与に非常に大きな影響を与えます。とはいえ、基準日と各種支払いの時期とが行違うことがあるのでその点は適宜、修正をしないといけません。
たとえば給与です。毎月末締めで翌月10日に給与が入る場合には、10月末までの労働の対価が11月10日に入金となります。この場合に10月末日が基準日だとしたら、10月分の給与はまだ入金されていません。
しかし、実際には11月10日に給与が入るところ、これは夫婦の協力関係がある間の労働の対価なのでやはり財産分与に含めるべきこととなります。
他にも各種支払いで基準日をまたぐことがありますのでこれらも要注意です。
⑷基準日に現金化されていない財産について
他には、基準日の時点では未だ現金化されていない財産の扱いの問題があります。典型例としては保険と退職金です。これらは、基準日の時点では具体的に手元に現金として存在するものではありません。
しかし、いずれも金銭的価値のある財産ないし将来において金銭として支給を受けられる権利であることに変わりはなく、夫婦間の公平のためには財産分与の際にこれらも含めて計算をすることが必要です。
具体的には、保険であれば基準日の時点の解約返戻金と婚姻時の時点の解約返戻金の額を保険会社から明らかにしてもらい(証明書の発行を受けることができます)、差額をもって財産分与の対象とします。
退職金についても、基準日の時点、婚姻時の時点での各退職金見込み額とその差額をもって財産分与の対象とします。
このような退職金の扱いには、「現に受け取ってもいない退職金を分与の対象とすることは納得がいかない。」という声が少なくありません。そこで、退職金についてはそもそも支給の確実性がない(将来、本当にその会社から退職金が出る保障はない)として対象から外すことを主張したり、仮に対象に含めるにしても、実際に退職金が支給された際に分与をすることがあります。
3 ②誰名義の財産を財産分与の対象とすべきか
⑴はじめに
財産分与の取り決めをするに際しては、まず夫婦のお互い名義の預貯金、保険(解約返戻金)、有価証券(株式や投資信託)、住宅、車やバイク、退職金(まだ退職していない場合であっても仮に現在退職をしたとしたら受けられる額を会社に試算してもらう)などを資料に基づき確認をすることが必要です。
以下、これらのうち重要な点についていくつか補足いたします。
⑵預貯金について
預貯金については財産分与の基準日の残高から、婚姻をした日の残高を差し引きした残額が財産分与の対象となります。
たとえば婚姻をした日の預金残高が100万円であり、基準日たる別居日の残高が250万円であれば150万円が財産分与の対象となります。言い換えると、結婚した日の残高である100万円は特有財産となるのです。
ただし、婚姻をした日の残高が100万円であったが、婚姻当初、生活に余裕がなくこれを使い、残高がどんどん目減りしていったあと、収入が増えて最終的に基準日の残高が250万円に戻ったというケースであれば、婚姻をした日の預金はすでに生活費に費消されているので特有財産としての100万円は残っていないと判断されることがあります。
なお、「基準日の直前に預金を引き出しておけば財産分与の対象から外すことができるのか。」というご質問を非常に多くお受けしますが、これは基準日前に引き出した預金は、基準日時点で現金として残っているものと言い換えることができるので結局は財産分与の対象から外れることにはなりませんのでご注意ください。
⑶子名義の財産について
子ども名義の財産(預貯金や学資保険など)も、お金の出所が夫婦の収入による場合や、そうでなくても夫婦の家計と一体となっている場合にはやはり夫婦の財産とみなされ、財産分与の対象となります。
他方で、子ども名義の通帳に、夫婦からのお小遣いや、親族からのお祝いのお金などだけが入金されていて、家族の生活費と完全に分離しているような場合には共有財産とはせず、純粋に子の財産と見ることが通常です。
ただし、児童手当をそのまま子の預金通帳に入金をしているケースであれば、児童手当がそもそも世帯主に対する支給であり、子に対する支給でないことに鑑み、夫婦の共有財産とみなされることとなります。
4 ③負債の扱いをどうするべきか
⑴財産分与と負債の処理
夫婦が婚姻中に負った負債について、財産分与の際にどのように考慮するべきかは、離婚条件の協議の際に非常に重要なウエートを占めます。その際、負った負債の内容や額によって扱いが異なりますので注意が必要です。
⑵個人的な負債
たとえば夫が自分の趣味やギャンブルのために負った負債については夫婦共有財産からの清算をする必要はありません。夫婦共同生活のための費用ではないからです。
⑶夫婦共同生活のための負債
夫婦の一方が夫婦共同生活のために負った負債については財産分与の際に控除し、清算をすることで構わないと考えられます。
⑷住宅ローンについて
一番問題が大きいのは、住宅ローンの扱いです。夫婦で住宅ローンを組んで住宅を購入したものの、完済前に離婚に至った場合、この住宅をどうするか、残された住宅ローンをどうするかが大問題となります。
この点、夫婦のいずれかが住宅を取得し、住宅ローンの支払いを継続する場合には、住宅価値を超えるローンについても住宅を取得する側が負担をすることで問題はありません。
他方で、夫婦のいずれもが住宅を取得せず、売却によって清算をする場合には注意が必要です。すなわち、住宅を売却するには残ローンを一括で返済する必要がありますが、住宅の売却価格で不足する部分を現金で用意しなくてはならないからです。
そのため、これが用意できないと売却によって清算をしようにも清算ができないこととなってしまい、いつまでも住宅ローンの負担だけが残ってしまうのです。
そうすると、誰も済んでいない住宅ローンだけを住宅ローンの名義人が負担し続ける結果となるものの、他方に対してその半額を負担させることもできないのです。
こうした問題があることから、住宅の処分に際しては十分な検討が必要となります。
⑸住宅と頭金の清算について
住宅の処理に際しては、上記のような住宅ローンの問題とは別に、購入時の頭金をどう清算するかという問題も生じがちです。
すなわち、購入に際して夫側、妻側の両親からそれぞれいくらかの援助があったため、これを清算の際にこれをどう反映させるかという問題です。
たとえば4000万円の住宅を購入するに際して、夫側の両親から500万円の、妻側の両親から1000万円の援助があり、残る2500万円のローンを組んだところ、離婚の問題となり、住宅を売却しようとしたら3000万円で売却が出来たため、これから住宅ローンを差し引きし、残った500万円をどう分けるかという場合です。
この場合、それぞれの両親からの援助を誰に対する援助(贈与)と見るべきかという問題があります。仮に夫婦に対する援助だとみれば、残った500万円を半分ずつ分けることとなります。
他方で、夫側の両親からの援助はあくまで夫に対する援助であり、妻側の両親からの援助は妻に対する援助だとすれば、残った500万円を1:2で分けることとなります(500万円:1000万円=1:2)。
この点、実務上は後者の考え方で処理をすることが多いと言えます。
5 ④婚姻中に取得した財産であっても財産分与から外すべき財産をどう選別すべきか(特有財産の問題)
婚姻中に取得した財産であっても、特有財産として扱われるべきものがいくつかあります。
典型的には、相続によって取得した財産です。この場合には相続によって得た財産は夫婦の協力によって得た財産ではないので財産分与の対象から外します。
次に、親からもらったお金などがあります。この問題は、
①親からのお金は自分にくれたお金なのか(たとえば相続税対策で生前贈与として毎年お金をくれていた場合)、それとも夫婦にくれたお金なのか(たとえば夫婦の収入が限られていて生活に困窮していたために生活の援助としてくれたお金)、
②もらったお金は生活費と混在してしまっているか、そうではなく別口でプールされているかという点から整理して分析する必要があります。
まず、①の点に関し、親が夫婦にくれたお金であればもはや共有財産であることは明らかです。この場合、②の論点を検討する必要はありません。(ただし、生活に困窮していた場合にはそもそももらったお金はとっくに生活費として使っていることが多く、普通は財産分与の問題にすらならないとは思います)。
次に、①の点に関し、親が自分にくれたお金だと言える場合であっても、②の点に関し、生活費と混在してしまっているようであればもはや夫婦共有財産と一体化したものとして財産分与の対象となると言わざるを得ません。
すなわち、たとえば親から30万円をもらったところ、しばらくして生活費が不足したのでこのうちいくらかを使い、またある時、やはり生活費が不足したのでまたいくらかを使いということを繰り返していたものの、後に収入が安定したので当初の30万円を特有財産として財産分与から外して欲しいと主張しても、この30万円がいったん生活費に混在した以上は、もはや別口に考えることはできないのです。
したがって、婚姻中に親からもらったお金は自分に対するものかどうかを明確にした上で、生活費と混在しないようにしておかないと後々、財産分与として分けることになりかねません。
6 ⑤対象となる財産をどのような分与割合でお互いに分与すべきか(分与割合の問題)
⑴財産分与の分与割合について
財産分与の分与割合は2分の1ずつとするのが裁判所実務の通例です。この通例はほぼすべての案件で採用されており、2分の1以外の分与割合で解決する事例は非常に珍しいといえます。
以前は、たとえば専業主婦の妻の寄与割合に関し、3割から5割の範囲内で認定されることが多かったようですが、平成8年の民法改正案要綱で「各当事者の寄与の程度は、その異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。」と規定されたことなどから、以後、かかる規定に沿った運用がされるようになっています。
また、このことに関し、「東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情」によると、「寄与度(貢献度)については、基本的には、特段の事情がない限り2分の1を原則としつつ、特段の事情を主張する者にはそれを裏付ける資料等の提出を求めることにしている」とまとめられています。
以上のように、財産分与の分与割合は2分の1が原則であり、通例であるとされているのです。
⑵分与割合の例外について
かかる原則ないし通例については「2分の1ルール」とも言われていますが、この2分の1ルールに対して、以下のようなケースで不満が出る傾向にあります。
①もっぱら夫の収入により夫婦共有財産が形成された場合
②夫婦の一方が散財し、他方が蓄財してきた場合
③夫の収入により蓄財したが、妻が不倫をした結果、離婚になる場合
①の場合には、ほとんどの貯蓄は夫の稼ぎによることから、夫側の不満が強く出る傾向にあります。とはいえ、専業主婦は決して日々、何もしていないのではなく、世帯としての収入は夫に委ねるが、その他家事や育児はもっぱら妻が担っていることもあるので、①の場合に2分の1ルールで分与することもやむを得ないところでしょう。
②の場合には、一生懸命蓄財した側としては、大いに不満の出るところです。こんなことなら婚姻中に自分も我慢せず使っていれば良かった、となりがちです。ただし、②のようなケースの場合には、上記の2分の1ルールが修正され、分与割合を蓄財した側に大きくとることもあるし、それが妥当だと言えます。
③の場合には激しい不満が出る傾向にあります。もはや説明せずとも明らかで、不倫をし、別居になったのに財産の半分をよこせと言われればどんな夫でも起こるのは当然です。なので③の場合には、不貞の慰謝料額を高額にするなどという方法で実質的な修正を図ることも考えられるところです。
以上のような2分の1ルールに不満が出る典型例の他には、④特別な技能や才能で突出した収入があり、それにより蓄財したケース、⑤宝くじの当選金の扱いなどがあります。
④についてもやはり分与割合を修正することがありますが、⑤については2分の1ルールに則り解決することが通常です。
⑶まとめ
以上のように、財産分与の分与割合については原則的なルールがかなり深く浸透しており、その例外を認めてもらうことは容易ではありません。
とはいえ、2分の1ルールもこれが絶対と決まっているものではないことから、上記の東京家庭裁判所の運用にあるように「特段の事情」を具体的に主張立証することで分与割合の修正の余地は十分にあります。
7 まとめ
夫婦の離婚に伴う財産分与は非常に検討すべき点が多岐にわたることがあります。上記以外でも様々なケースがあり、かつ各財産を総合した場合にどのような処理が一番自分にとって有利もしくは得なのか、又は夫婦にとって公平なのか非常に難しい判断が必要になることがあります。
したがって、夫婦の財産分与についてはひとつひとつ慎重な検討が必要になってきます。